タイにおけるアルコール飲料の広告、宣伝及び販売規制について
タイにおけるアルコール飲料の広告、宣伝及び販売規制について報告いたします。
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タイにおけるアルコール飲料の広告、宣伝及び販売規制について
2020年9月21日
One Asia Lawyersタイ事務所
首相府は2020年9月8日、アルコール飲料の購入者の年齢や販売時間を厳格に取り締まる目的で、電子的手段を通じたアルコール飲料の販売を禁止する告示を発出しました。本ニュースレターでは同告示の概要も含めた現在のタイにおけるアルコール飲料の広告、宣伝及び販売規制を定める法令について、以下の通り解説致します。
1 アルコール飲料管理法
タイではアルコール飲料に関する活動を規制する目的で、2008年にAlcoholic Beverage Control Act, B.E. 2551(以下、「アルコール飲料管理法」)が制定されています。同法第30条においてアルコール飲料の販売方法が、同法32条においてアルコール飲料の広告及び宣伝方法がそれぞれ規制されています。
アルコール飲料管理法第30条(参考日本語訳)
以下の手段または形態でアルコール飲料を販売してはならない。
- (1)自動販売機の使用
- (2)移動販売
- (3)販売促進のための割引
- (4)競技やパフォーマンスに出席する権利の付与または提供、サービスあるいは賞品の付与、またはアルコール飲料の購入者あるいはアルコール飲料に関連する包装、ラベル、その他の物を持参した者に対する、引き換えあるいは取引するような形での特典の付与
- (5)アルコール飲料、その他の商品、あるいはその他のサービスの配布、おまけの付与、提供または交換、サンプルとしてのアルコール飲料の配布、人々を飲酒するよう唆す行為、またはアルコール飲料の購入を直接的または間接的に強いる方法で販売条件を設定する行為
- (6)委員会の推薦のもとで大臣が告示で定めたその他の手段や形態
タイの街中で目にする機会の多い「Buy One Get One Free(1つ注文すればもう1つは無料)」のプロモーションは、厳格にいえば同法第30条(3)に該当し、また「飲み放題プラン」も同法同条(5)で飲酒を唆す行為に該当するため禁止されると考えられます。
アルコール飲料管理法第32条(参考日本語訳)
特性を表示する、または直接的あるいは間接的に飲酒を唆すようなアルコール飲料の広告、アルコール飲料の名称または商標の表示を禁止する。
全てのアルコール飲料の製造会社による広告または広報活動は、情報、ニュース、及び社会を築くための知識の提供に限り可能とする。この際、商品の写真またはアルコール飲料のパッケージの表示は認められない。ただし、アルコール飲料のシンボルまたはアルコール飲料製造会社のシンボルのみ省令の定めに従い表示が認められる。
第1段及び第2段の規定は、タイ王国の国外で作成された広告には適用されない。
商品の特性を表示したり、飲酒を唆したりするような広告及び宣伝だけでなく、レストランのメニュー上でのアルコール飲料を想起させる写真またはシンボルの掲載についても同法第32条に該当、禁止され、後述する通り実際に罰則を受けた事例があります。
また、「広告」とは同法第3条において商業目的であることが明記されていますが、新聞報道等によれば、近年、個人がSNS上で友人を飲み会へ招待したり、ビールのテイスティング後にレビューをしたりする形で投稿したことを理由に摘発されている事例があり、同法第32条に基づき禁止される行為が条文上曖昧です。
アルコール飲料管理法第3条(参考日本語訳)
「広告」とは、商業目的で、マーケティングを含む、人々に対する情報の周知、伝達行為を意味する。
上述したアルコール飲料管理法第30条及び第32条に違反した場合、それぞれ以下の通り罰則の対象となります。
アルコール飲料管理法第41条(参考日本語訳)
同法第30条(2)(3)(4)(5)または(6)に違反した場合、6か月以下の懲役、1万バーツ以下の罰金、または併科とする。
アルコール飲料管理法第43条(参考日本語訳)
同法第32条に違反した場合、1年以下の懲役、50万バーツ以下の罰金、または併科とする。
第1段落で定める罰則に加え、違反を犯している期間に渡り、違反者に対し1日当たり5万バーツ以下の罰金を当該違反行為が是正されるまで科す。
2 摘発事例
<レストランのメニュー掲載の事例>
2015年3月24日、チャオプラヤ沿いアジアティーク内のレストランが、メニューにビールを想起させる写真を掲載していたためアルコール委員会が訴訟提起した件で、裁判所は飲酒を唆す行為であると認定し、違反期間合計220日(2014年7月30日から2015年3月6日)に対し、合計46万バーツの罰金の支払いを命じました。本件はレストランのメニューに掲載したアルコールの写真がアルコール飲料管理法第32条の違反であると認定され訴訟[i]まで進んだ初めての事例として当時、話題になりました。判決内容については公開されていませんが、レストランのオーナーによるとメニュー上に掲載されたグラス入りのビールの写真にはビールの銘柄や製造会社のシンボル等は一切表示されていなかったにも関わらず、黄色い液体と白い泡が入ったグラスの写真はビールを想起させるシンボルであると認定され、間接的に飲酒を唆す行為に該当すると判示されたとオーナー自身がインターネット上にコメント[ii]しています。
<SNSへの投稿の事例>
2020年6月25日のマティチョン紙[iii]によれば、フェイスブックの個人ページ上にビールの写真とメッセージを掲載した女性がタイ保健省疾病管理局アルコール飲料管理委員会に出頭を命じられたと報じています。タイでは数年前から個人のSNS上でのアルコール飲料に関する投稿を取り締まる事例がたびたび見受けられます。アルコール管理法第32条が定める「広告」とは、同法第3条で定義される「商業目的のための」行為であると解されているにもかかわらず、個人の趣味や娯楽の範囲内でアルコール飲料のロゴやマークが表示された写真を掲載し、かつ、その特性を謳ったり飲酒を唆すような記述をした場合は、個人であってもアルコール飲料管理法第32条違反を理由に摘発されているようです。
3 電子的手段によるアルコール飲料の販売規制
2020年9月8日に発出された電子的手段を通じたアルコール飲料の販売を禁止する告示は、施行開始日である2020年12月8日より、販売者と消費者が物理的に会うことなく電子的手段によりアルコール飲料を販売する行為等が禁じられると規定されています。例えば、自宅にいる消費者に対して販売者がGrab Foodのアプリやスーパーのウェブサイト等を介しアルコール飲料を販売する行為等が該当し禁止されると考えられますが、同告示上「電子的手段」の定義が明確に規定されておらず、どのような機能を有したシステムが該当するのか、機能を問わずインターネットを介するシステムは全て該当するのか否か等について、今後さらにガイドライン等が発行されると考えられています。
電子的手段を通じたアルコール飲料の販売を禁止する告示 日本語参考訳
第1条 電子的手段を通じ、購入を勧めたり提案したりする形で、消費者に対し直接、アルコール飲料またはアルコール飲料販売に関するサービスを販売する方法、または電子的手段により情報を伝達し、販売者と消費者が直接会わずに売買を可能とするようなアルコール飲料販売に関するマーケティングもしくはサービスを通じて、消費者に対し直接、商品もしくはサービスを販売する方法により、アルコール飲料を販売する行為を禁じる。
第2条 本告示は、店頭、レストラン、もしくはアルコール飲料サービス提供場所において電子的手段によりアルコール飲料の売買及び支払いが行われた場合は適用されない。
第3条 本告示は官報掲載から90日後に施行開始とする。
4 今後の対応
消費者や事業者の間ではアルコール飲料管理法第32条及び電子的手段を通じたアルコール飲料の販売を禁止する告示に反対する声が多くあがっていますが、政府の規制は今後もより一層厳格になっていくと予想されており、禁止対象とされる行為の解釈が今後のガイドライン等で明確になるまで、アルコール飲料の販売及びマーケティング活動には十分注意する必要があります。
以 上
[i] 訴訟番号第อ3937/2557号
[ii] https://www.facebook.com/watch/live/?v=637830840493383&ref=watch_permalink
[iii] https://www.matichon.co.th/social/news_2242205
〈注記〉
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