シンガポールにおける倒産法制~スキーム・オブ・アレンジメント(民事再生手続)~について

2021年01月29日(金)

シンガポールにおける倒産法制~スキーム・オブ・アレンジメント(民事再生手続)~についてニュースレターを発行いたしました。

PDF版は以下からご確認ください。

シンガポールにおける倒産法制について

 

シンガポールにおける倒産法制

~スキーム・オブ・アレンジメント(民事再生手続)~

One Asia Lawyers Group:Focus Law Asia LLC

シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士 栗田 哲郎

第1 概説

 シンガポールにおけるスキーム・オブ・アレンジメント(Scheme of Arrangement、以下「スキーム」)とは、企業再生を図る当事者とその債権者との間で、企業再生のために債務の履行を支援するための合意手続きのことを指し、日本の倒産法制における「民事再生手続」に相当する手続きとなっています。スキームにおいては、再生を企図する企業が再生計画案を提出し、債権者集会で頭数の過半数、債権額の75%以上の賛成を得ることができ、さらにシンガポール裁判所の承認を得ることが出来れば、再生計画案に則って、会社の債権・債務関係を再構築し、債権者の権利および債務者の義務を変更させることが可能です。例えば、再生計画案に従って、債権者は、債務者が負うべき債務の全額ではなく、その一部の放棄を求め、一部のみを請求することに同意することができ、他方、債務者は債務の全額を債務不履行にするのではなく、これらの債務の一部を支払うことを明確にすることができます。

 スキームは、シンガポール裁判所の監督と(違反の場合には)制裁の対象となり、債権者が債権者集会で再生計画案に合意し、その後、裁判所がその再生計画案を承認すれば、再生計画案はすべての債権者および債務者を法的に拘束することになります。当然ながら、すべての債権者がスキームを承認していない場合でも、前述の条件を満たせば、すべての債権者を法的に拘束することが可能となり、この点で一部の債権者の強硬な反対を押し切って企業の再建を図ることが可能となります。

 シンガポールにおいて、他の倒産手続きよりもスキームが用いられるのは、会社の取締役が会社の支配権を維持したまま債権の減額等の企業の再建を進めることができる(Debtor In Position、DIP)点にあり、この意味でも日本尾民事再生手続に類似しています。他方、他の倒産手続きであるJudicial Management(日本の管財手続に類似)やWinding Up(日本の破産手続に類似)においては、Judicial Manager(管財人)やLiquidator(清算人)が基本的に企業の経営にあたることになり、会社の現経営陣が支配権を維持したままのDIP型の企業再生が困難となるため、シンガポールにおいてもスキームが用いられることが多くなっています。

 

第2 スキームの手続・プロセス 

 スキームの一般的なプロセスは以下の通りとなります。

(1)裁判所にスキームを申請

申立ては、例えば債権者の分類などの全ての重要な情報を開示が求められる

(2)債権者集会の通知

申立人は債権者集会の通知および提案するスキームの説明書を債権者に送付する

(3)債権者の債務証明書(Proof of Debt)の審査

債権者会議の議長が、債権者から送られてきた債務証明書(Proof of Debt)を審査し、

債権者およびその債権額が認められるべきものかを判断する 

(4)スキームに対する債権者投票

債権者会議にて再生計画案に対する投票を行い、以下の要件を満たす必要がある

・債権者または各債権者クラスの頭数の50%以上が出席かつ賛成投票を投じること

・上記の賛成の債権者の債権額全体の75%以上を占めていること

(5)裁判所の承認

裁判所が提案された再生計画案を承認し、裁判所命令の写しをACRAに提出する

(1)スキームの申請  以下の者は、再生計画案について債権者の承認を得るために、債権者集会の招集を裁判所に申請することができます。 ・会社自身(=取締役会の過半数の決議が必要) ・会社の株主(=株主総会決議が必要(条件は定款による)) ・会社の債権者 ・会社のJudicial Manager(管財人) ・会社のLiquidator(清算人)  スキームを申請する際には、すべての情報を公開し、一部の債権者に不平等な手続がなされないよう、申立人は重要な情報を裁判所に開示しなければならない義務があります。この「重要な情報」には、債権者の異なるクラスのために別々の会議を開催する必要性があるのか、なぜ特定の債権者が特定のクラスに分類されるのかなど、再生計画案の承認に影響するあらゆる情報の開示が必要となります。

(2)債権者集会の通知およびスキームマネージャーの任命

 シンガポール裁判所が債権者集会の開催の承認した場合、申立人は、債権者集会の招集通知、および提案する再生計画案の意義・内容・効果などを説明する通知文を全債権者に送付します。また、スキームを管理・運営したり、交渉を円滑に進めたりするために、会社や裁判所が「スキームマネージャー」を任命することができます。  

 これらの書類を受け取った後、スキームの債権者は、債権者集会の議長宛に債務証明書(Proof of Debt)(およびその補足書類)を提出します。これは日本法でいう債権者による債権届出に該当するものです。債権者集会の議長(実務上は上記のスキームマネージャーが議長となる)は、それらの債務証明書をもとに、債権者の債務を認めるか否かを決定します。債権者集会議長が承認した債権者のリストと、承認された債権の対応する金額は、債権者集会の前に集会会場に掲示されます。なお、当該債権者集会の議長の決定に不服な債権者は裁判所に異議申立てを行うことができます。

(3)債権者集会における債権者による承認

 債権者集会においては、提出された再生計画案について債権者が投票を行います。  

 前述したように、債権者は、利害関係が異なる場合、議決権行使のために異なるクラスに分類をされることがあります。このクラスへの分類は、投票に敗れた場合には、その権利がその権利を毀損する可能性のある特定のクラスの債権者を保護を目的としています。他方、少数債権者が正当な理由なくスキームに拒否権を行使することになる可能性もあるため、債権者のクラスを無用に多く作らないように調整する必要があります。  

 投票後、議長が投票を集計し、結果を発表します。以下の条件を満たした場合、再生計画案は可決されることとなります。

・債権者または各債権者クラスの頭数の50%以上が出席かつ賛成投票を投じること

・上記の賛成の債権者の債権額全体の75%以上を占めていること

(4)裁判所による承認

 債権者集会における承認がなされた後、シンガポール裁判所による承認を得ることが必要となります。裁判所がスキームを承認するためには、以下の条件を満たす必要があります。

・スキームのすべての法定の手続・要件が満たされていること、

・会議に出席した債権者が、債権者のクラスを公平に代理していたこと、

・法定多数派債権者が、会議に出席した少数派債権者に強制を行わなかったこと、および

・スキームが合理的に承認がなされたことが認められること。

 必要に応じて、裁判所は、スキームおよび再生計画案を承認するかどうかを決定する前に、新たな債権者集会を招集し、再投票を命じる権限を有しています。例えば、承認プロセスやスキームの条件に異議があるが、スキーム全体のプロセスを再開して追加コストをかけたくない場合などには、裁判所はその裁量で再投票を求めることができます。

 また、裁判所は、以下の要件を満たす場合は、反対するクラスの債権者からの異議にもかかわらず、スキームを承認する権限を有しています。  

・会議に出席し、スキームに拘束されることになる債権者の頭数の過半数が、それに賛成票を投じた場合で、これらの債権者が債権額の全体の75%を占めていた場合、かつ

・裁判所が、スキームが2以上のクラスの債権者間で不当に差別されておらず、反対する各クラスに対して公正かつ衡平であることを認めた場合。

 裁判所が提案されたスキームを承認した後、裁判所の命令のコピーを会計・企業規制局(ACRA)に提出しなければなりません。その後、スキームはすべての債権者を法的に拘束することになります。

 裁判所の承認を受けたスキームおよび再生計画案は、スキームのすべての当事者を拘束するものであり、その後変更することはできません。これは、会社の株主や債権者がスキームを変更することに同意した場合でも同様であり、スキームおよび再生計画案は、全く新しいスキームを再度提案し、再度承認プロセスを経ることによってのみ、無効となります。

 スキームには、スキームの終了方法に関する条件が含まれることが一般であり、例えば、スキームが完全に実施されたとき、一定の期間の経過、またはスキームマネージャーの裁量のもとでスキームの終了を規定することが可能です。

第3 モラトリアム

 スキームが申立てられた後、裁判所は、債権者らによる申立人に対する法的措置や手続を制限するためのモラトリアムを命令することができます。申立人はInsolvency, Restructuring and Dissolution Act 2018(以下「IRDA」)の第64条に基づき、以下のような特定の法的措置の開始を制限するために裁判所に申請することができます。これは、日本の民事再生法における保全管理命令に該当する手続きとなります。

・債務者の解散決議の可決を行うこと

・裁判所の許可を得ずに債務者を訴えること

・債務者が保有している商品を裁判所の許可を得ずに再占有すること

 申立人が裁判所に対し、上記のモラトリアムを申請した後、暫定的なモラトリアムが自動的に開始されます。この一時停止は、裁判所が申請を審理するまで、または申請日から30日後のいずれか早い日まで有効となります。

 なお、申立人の子会社や持株会社も、IRDA第65条に基づいて、同様のモラトリアムを申請することができます。例えば、これらの関連会社は、自社の解散決議の可決など、特定の法的行為の差し止めを申請することができます。

 他方、債権者の利益を保護するために、裁判所はIRDA第66条に基づき、会社がモラトリアム期間中に特定の行動をとることを阻止する以下のような命令を出すこともできます。これは日本の民事再生における弁済禁止の処分決定に該当する手続きとなります。

・通常の業務を遂行する以外の方法で会社の財産を処分することを制限すること

・会社の株式を譲渡したり、組合員の権利を変更したりすることを制限すること

第4 プレパッケージ型スキーム

 IRDAの下では、より迅速かつ低コストでスキームを実施する手法もあり、「プレパッケージ型」スキームとして知られている。裁判所は、債権者集会を招集して投票を行わなくても、一定の要件を満たすスキームを承認することができます。

 債権者集会を開催しなくても良い一方、このようなプレパッケージ型スキームには、以下の要件が満たされる必要があり、裁判所の極めて強い裁量権に服することになります。

・各債権者が、申立人と提案された再生計画案に関する情報を含む十分な通知がなされていること。この通知は、ACRAに提出され、公報および少なくとも1つの英字新聞に掲載されていること、および

・裁判所が、提案されたスキームが債権者の投票によって承認されていれば、そのスキームが承認されていたであろうことを認めた場合。

第4 最後に

 以上の通り、シンガポールにおけるスキーム・オブ・アレンジメントは、DIP型の企業再生手法であることから、日本の民事再生手続きに類似します。そして、再生計画案が否定された場合には、その後の清算手続き(Winding Up)に移行することができることなど、多くの類似点を有しています。

 他方、日本の民事再生に比べて裁判所などの裁量が大きいこと、債権者の頭数の50%以上の賛成が必要であること、監督委員は任命されないものの申立人がスキームマネージャーを自ら任命することができることなどを含め、実務上、数多くの異なる点が存するため、日本企業が利用する場合はその相違点に注意が必要です。

以上