シンガポールにおける決済サービス法の改正法案について
シンガポールにおける決済サービス法の改正法案についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下からご確認ください。
シンガポール決済サービス法の改正法案
2021年2月
One Asia Lawyers シンガポール事務所
Focus Law Asia LLC
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法
弁護士栗田 哲郎
1、イントロダクション
シンガポールの決済サービス法(Payment Services Act 2019)は 、20 20年1月に施行されています。決済サービス法は、主に4つのリスク を目的としています。4つのリスクとは、①マネーロンダリング・テロリズムに対する資金供与、②顧客保護、③相互運用性と④ガバナンス・認証・サイバー衛生・暗号化・不正防止などテクノロジーに関するリスクであり、決済サービス法に定義されているビジネスはライセンスの取得が義務付けられています。
今般、決済サービス の改正 法案(Payment Services (Amendment)Bill)が議会に提出されました。本ニュースレターにおいては、2020年11月2日に提出された決済サービス法の改正法案について、その主なポイントを解説します。
2、改正の要旨
シンガポール金融管理局(Monetary Authority of Singapore:MAS)は現在、決済サービス法に則って、主に7 つの分野の決済サービスを規制対象としています。そして、これらの決済サービス事業者はライセンスを保持し、特定の決済サービスおよびビジネスモデルがもたらすリスクに応じて、一定の対策を行う義務があります。この対策義務には、マネーロンダリングとテロリズムに対する資金供与に関連する主要なリスクと懸念を軽減する義務、破産・消費者または金銭の損失やテクノロジーとサイバーリスクを軽減する義務等が含まれています。
改正法案は、このうち仮想通貨サービスとクロスボーダー送金サービスに対する規制拡大を提案するものです。シンガポール金融管理局(Monetary Authority of Singapore:MAS)の権限拡大についても盛り込まれています。
①「仮想通貨サービス」の定義の拡大
現行の決済サービス法が定義し、規制する「仮想 通貨サービス(Digital payment token service:DPT service)」は、①仮想通貨の売買、②仮想通貨の取引の2つです。シンガポール金融管理局(MAS)は、2019年6月に金融活動作業部会(Financial Action Task Force:FATF)の採用した国際基準に合うよう、シンガポールにおける規制レベルを引き上げることを意図しています。
そこでマ ネーロンダリングやテロリズムに対する資金供与へのリスクを軽減する目的で、仮想通貨サービスの定義を拡大し、以下の サービスも規制の対象とするよう提案するもののです。
・あるアカウントから別のアカウントへの仮想通貨の送信を 容易にすること
・仮想通貨向け保 管ウォレットサービスを提供すること
・仮想通貨サービス事業者は金銭また仮想通貨を保有せず、仮想通貨取引を促進すること
②クロスボーダー送金サービス規制の拡大
現行の決済サービス法で規制されているクロスボーダー送金サービス(cross‑border money transfer service)は、シンガポール国 内での金銭の授受をともなう場合のみとなっています。
今回の改正 法案では、マネーロンダリングやテロリズムに対する資金供与へのリスク、また風評リスクの観点から、クロスボーダー送金サービスの定義を、次の2つの要件を満たす場合へと拡大します。
・シンガポール国内で金銭の授受を伴わない、つまりシンガポール国外での金銭の授受も含むこと
・異なる国々の事業者間で国境を越えた送金を積極的に促進する事業をシンガポールで営む事業者
今回の改正法案が施行されると、上記の要件を満たす事業者に対してライセンスの取得が義務付けられます。
これによりどこの国で金銭の授受が発生しようと、シンガポール国内でクロスボーダー送金サービスを営む事業者は、マネーロンダリングやテロリズムに対する資金供与対策を目的としたシンガポール金融管理局(MAS)による規制を遵守しなければなりません。
③仮想通貨サービス事業者へ対策を講じるMASの権限拡大
現行の決済サービス法は、主にマネーロンダリングやテロリズムに対する資金供与のリスクを想定して仮想通貨サービス事業者を規制しています。
しかしながら仮想通貨の世界は日々進化し、ス テーブルコインを含む新しい仮想通貨が開発されており、その結果、仮想通貨ユーザーが急速に増加しています。そこで改正法案 では、このような新たに生じるリスクに対して、適時にそれ相応の対策を講じるために以下の権限をシンガポール金融管理局(MAS)に与えています。
・特定の仮想通貨サービス事業者に対して実施する顧客保護の措置
仮想通貨サービス事業者が保有する顧客資産を保護するため、必要に応じて課されます。
・シンガポール金融管理局(MAS)が必要または時宜に適ったという観点から、特定の仮想通貨サービス事業者に対して講じる措置
この措置の目指すところは、公共または公共の一区分の利益、シンガポールの金融システムの安定、またはシンガポール金融管理局(MAS)の金融政策のためです。
3、まとめ
以上、シンガポールにおける決済サービス法の改正法案について解説しました。
シンガポール金融管理局(MAS)は、この仮想通貨活動のスピードとクロスボーダーの性質から、マネーロンダリングやテロリズムに対する資金供与のリスクが高いと認識しています。このため事業者は適切なカ スタマー・デュー・ディリジェンス(顧客管理)と取引の監視を実行する必要があります。さらに、改正法案で規制が拡大する仮想通貨サービスとクロスボーダー送金サービスに関連する業務を行う事業者は、規制対象となり、ライセンスを取得する必要があるか慎重に検討する必要があるといえるでしょう。
その他、シンガポールにおける決済サービス法(PS Act)および改正法案について詳しい弁護士をお探しの場合は、法律事務所「One Asia Lawyers シンガポール事務所」までお問い合わせください。