パワハラ防止法対応について

2021年02月19日(金)

パワハラ防止法対応についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

中小企業にも迫るパワハラ防止法対応

 

中小企業にも迫るパワハラ防止法対応

弁護士法人One Asia
シンガポール法・アメリカNY州法・日本法
弁護士 栗田 哲郎

 2020年6月1日、改正労働施策総合推進法(通称「パワハラ防止法」)が施行され、これにより大企業は職場において、パワーハラスメント対策を行うことが義務付けられました。中小企業には2022331日まで猶予期間が設けられていますが、施行時期が迫っており、早めに準備を整えておく必要があります。本稿においては、パワハラ防止法の概要および企業が行わなければならない対応策について述べます。

1 対象となる職場・企業

 2020年6月1日、パワハラ防止法が施行され、これにより正規雇用労働者・非正規雇用労働者を問わず、「職場」におけるパワーハラスメントの防止対策が義務付けられています。

 法律上、「職場」とは、従業員が通常働いている事業所に限らず、外出先・客先・懇親の場・サテライトオフィスなど、業務を遂行しうるすべての場所が含まれており、幅広く定義されているため注意が必要です。

 そして、大企業に対しては、パワハラ防止法施行時である2020年6月1日から既にパワハラ対策の実施が義務付けられています。「資本金の額または出資の総額」「常時使用する労働者数」の両方が下記に該当しない場合、パワハラ防止法上、大企業に分類されることとなります。

業種 資本金の額または出資の総額 常時使用する労働者数
小売業 5,000万円以下 50人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
その他(製造業、建設業、運輸業など) 3億円以下 300人以下

(中小企業基本法 第2条第1項)

2 パワハラ防止法の対象となる行動の定義

 パワハラ防止法の対象となるハラスメント行為とは、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであることのすべてを満たす行為[1]と定められております(第30条の2第1項)。他方、「業務上必要かつ相当な範囲」の業務指示・指導・注意であれば、パワハラに該当しないこととされています。

 さらに、パワハラ防止法の施行に伴い、新たに、SOGIハラ(個人の性的指向や性自認を揶揄・侮蔑する言動)、およびアウティング(個人の性的指向や性自認を許可なく暴露する言動)の2つのハラスメントがパワハラに含まれることになりました。今後、個人の性自認や性的指向に関わるハラスメントについても、企業として防止策やアフターケアを講じることが義務付けられており注意が必要です。なお、SOGIハラとは、個人の性的指向(Sexual Orientation)と性自認(Gender Identity)の頭文字をとったものであり、パワハラ防止法の施行により、LGBTを始めとした性的マイノリティーの性的指向や性自認(SOGI)を揶揄したり、侮蔑したりする言動のことを指します。また、アウティングとは、個人の性的指向や性自認(SOGI)を本人の同意なく、第三者に暴露する行為を指します。パワハラ防止法において、SOGIは「機微な個人情報」とされ、許可なく他人に暴露する行為はハラスメントに該当することになります。

 さらに、パワハラ防止法では、男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法と併せ、パワーハラスメント対策だけでなく、他者への性的な言動を行うセクシャルハラスメントや、妊娠・出産した従業員に対し否定的な言動を行うマタニティハラスメントにおいても、新たな雇用管理上の対策措置を講ずることを義務付けています[2]

3 パワハラ防止のために事業主が講ずべき措置

 厚生労働省の「職場におけるハラスメント関係指針」では、パワハラ防止のために事業主が講ずべき措置として、次の3点が明記されています。

①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発 ②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備 ③職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応

 まずはパワハラ防止対策についての企業ポリシーを周知徹底したうえで、相談窓口の設置や外部機関との連携により、労働者が気軽に相談しやすい仕組みをつくる必要があります。

 そして、パワーハラスメントが生じた場合は労働者の心身のケアを行い、謝罪や配置転換など行為者に対する措置を速やかに講じて、再発防止策を実施しなければなりません。

 これら3つの措置と併せて、パワハラの相談によって労働者に不利益が出ないことを就業規則などの文書に明記し、周知徹底する必要もあります。また、相談者だけでなく、パワハラ行為者のプライバシーを守り、相談窓口の担当者に必要な研修を実施しなければなりません。

1. 方針の明確化及びその周知・啓発
・パワーハラスメントの内容の明示 ・パワーハラスメント禁止の明示
・パワーハラスメントの行為者に対する厳正対処の明示(就業規則等への規定を含む)
・管理監督者を含む労働者への周知・啓発
2. 相談に適切に対応するための体制整備
・相談窓口の設置と労働者への周知
・相談窓口担当者や外部委託機関の設置
3. 相談後の迅速かつ適切な対応
・事実関係の迅速かつ正確な把握
・(被害事実が認められた場合の)被害者に対する適切な配慮措置、行為者への適正な措置
・再発防止策の策定・実施
4. その他
・相談者・行為者のプライバシー保護のために必要な措置とプライバシー保護に関する周知
・相談者が、相談したことにより不利益な取り扱いをされない旨の明示・周知・啓発
・妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの原因・背景の解消に向けた措置

4 パワハラ防止法の罰則

 必要なパワハラ防止対策を講じなかった企業に対し、具体的な罰則が規定されているわけではありません。ただし、パワハラ防止法に違反した企業は、厚生労働省による助言・指導・勧告の対象となります(第33条第1項)。改善が認められない場合は、企業名の公表が行われる可能性があり(同2項)、罰則がなくても法令遵守が必要です。

5 中小企業にも迫る施行日(202241日)

 上述1に記載の表の「資本金の額または出資の総額」「常時使用する労働者数」いずれかに該当する中小企業は、2022年4月1日までの猶予期間が与えられています。ただし、2022年3月31日までは努力義務の期間とされており、遅くとも3月末までにはパワハラ防止のための措置を講じ、準備を整える必要があります。

 

[1] 厚生労働省の指針『事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』(令和2年厚生労働省告示第5号)では、代表的なハラスメントの言動として次の6類型が挙げられています。①身体的な攻撃(暴行・傷害)、②精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)、③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)、④過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強要・仕事の妨害)、⑤過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)、⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること) 

[2] 『事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』(平成 18 年厚生労働省告示第 615 号)