ミャンマーにおける国家緊急事態宣言後の法的留意点について

2021年02月22日(月)

ミャンマーにおける国家緊急事態宣言後の法的留意点についてニュースレターを発行しました。

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ミャンマーにおける国家緊急事態宣言について

 

ミャンマーにおける国家緊急事態宣言後の法的留意点について

 

                          2021年2月17 日

One Asia Lawyers ミャンマー事務所

 

1 はじめに

2021年2月1日の国家緊急事態宣言の発出後、多くの日系企業より、ミャンマーでの新規プロジェクト、事業運営や輸出等に関するご相談を受けております。2月1日以降、ミャンマー全土で大規模なデモが継続して行われており、その結果として、ミャンマー国内の商業銀行の営業が停止したり、物流機能が一部停止する等、企業の事業活動に大きな影響を与えています。また、現時点において、外国企業の投資に関する主要法令については、特に大きな変更はありませんが、刑法、治安維持関連法令やセキュリティ関連規定等については、改廃等が頻発しており、留意が必要となっています。

例えば、ミャンマー国軍が設立した最高意思決定機関「国家統治評議会」の議長を務めるミン・アウン・フライン総司令官名で2月13日夜、ミャンマー国内でのクーデターへの抗議デモが全土に拡大している点を踏まえ、厳格に取り締まる姿勢を明確にしています。ミャンマー国軍は2月14日に、国民のプライバシー保護と治安に関する法律の条項の一部を停止しています。同法は、裁判所の許可なく、家宅捜索、勾留等を禁止していますが、非常事態宣言の終了まで、これらの条項を停止することとしており、結果として、裁判所の許可を得ず、適用対象者を逮捕したり家宅捜索したりすることが可能となっています。さらに、2月14日、同様にテインセイン政権時代に廃止された国家反逆罪・治安維持法が復活しており、政府批判を行う者は勾留、逮捕することが可能となっています。

また、国軍はミャンマー国内の活動家等を指名手配し、テインセイン政権時代に廃止された村落法が復活しています。これは、ある地域に他の地域の者が入って宿泊する際、宿泊先の世帯主から地方委員会への報告義務があり、活動家の移動や匿う行為を取り締まることを目的としています。また、国営新聞によれば、全国の刑務所に服役中の23,314人の受刑者に対し恩赦を行ったとの報道が出ており、外国人55名も恩赦の対象となっています(1988年にも同様の措置が取られています。)。さらには、刑法と刑事訴訟法が改正され、2月14日に即日施行しており、これは国軍に対する抗議デモ参加者の取り締まりを強化する目的で改定されています。改正後の刑法では、第121条、124条や505条等において、国家転覆、扇動行為、国軍による国家安定維持活動を妨害しようとした者に対する厳罰が明確に規定されています。

それ以外には、サイバーセキュリティ法が検討されているとの情報があります。今後、国家統治評議会で議論され、決定すれば、公布される見込みとなっています。今後、何かアップデートがあれば、適宜ニュースレターにおいて、共有して参ります。

2  よくあるご相談

まず、ミャンマー国外からの日系企業からのご相談としては、米国のミャンマーに対する制裁に関わる事項があります。米国は2月1日以降、ミャンマー国軍関係者を対象に経済制裁を発表しており、取引先やパートナーがSpecially Designated Natioals(以下、「SDN」)リストにおいて指定される制裁対象者に該当しないかを十分かつ継続的に確認する必要があります。また、安全保障輸出管理規制の観点からは、米国輸出管理規則等において、米国からの直接輸出や米国から第三国を経由してミャンマーに輸出される物品に対する規制強化が発表されており、今後、今まで通り輸出が認められなくなる可能性がある点について留意が必要となっております。

他方、ミャンマー国内からの相談として、①不可抗力の適用の問題、②デモ参加禁止の可否、事業縮小や撤退等による労務上の問題等が挙げられますので、次の通り、解説致します。

(1)不可抗力について

ミャンマーにおいては、ODA等を通じたインフラプロジェクトが多く存在しており、今回の政変に関連して、契約上の義務の履行が困難となった場合に、契約上の不可抗力(以下、「Force Majure」)に該当するかが問題となっております。

まず、契約書上、Force Majeure条項が含まれていない場合の対応は、Doctrine of Frustrationの原理を援用して、履行義務を免除するという方法があると考えられます。Doctrine of Frustrationとは、ナポレオン法典(フランス法)をベースとするForce Majeureに類似した理論であり、英国判例法上において発達した後発的履行不能の原理であり、これが英国法をベースとするミャンマー法にも取り入れられております(Myanmar Contract Act 1872,ミャンマー契約法第56条)。

<ミャンマー契約法56条>

in the event that a contract to do an act which, after the contract is made, becomes impossible, or, by reason of some event which the promissor could not prevent, unlawful, becomes void when the act becomes impossible or unlawful.“

但し、今回の政変の影響により履行が、上記でいう「Impossible」になったと評価できるかは現時点では明確ではなく、Doctrine of Frustrationを主張すれば、相手方からそのような抗弁が出されることが想定されます。今後、軍事政権下で何らかのガイドラインが出される可能性もあり、状況を注視する必要があります。

他方、契約書上、Force Majeure条項が存在する場合は、その規定に従って処理する必要があります。特に、インフラのプロジェクトにおいては、International Federation of Consulting Engineers(国際コンサルティング、エンジニア協会、「FIDIC」)が発行しているピンクブックやゴールドブック等の約款が利用されることが多くなっていますが、その中のForce Majure要件においては、Force Majureの定義が詳細に規定されることが一般的であり、約款においても、例示として「戦争」、「反乱」、「テロ」、「暴動」、「軍による行動」等が規定されており、例示を踏まえると、今回の政変は「Force Majure」にあたる可能性が高いと考えています。

(2)労務上の問題について

また、ミャンマー国内においては、次のような労働に関するご相談を受けることが増えています。

ア デモ参加の禁止規定

従業員の安全を保護する観点から、就業規則上、デモ参加禁止規定を加えられないかという相談を受けています。就業時間中については、就業規則などで就業時間中の政治活動を禁止することは可能と考えられます。一方、就業時間外においては、デモ参加を禁止することは、表現の自由等への制限となり、会社が就業時間外においてもデモに参加することは困難だと考えています。また、デモを理由として休暇申請を行う従業員が増えており、どのように対応すべきか相談を受けていますが、法的には、医療休暇や臨時休暇等には該当しないと考えられ、有給休暇として処理するか、無給休暇として処理するかたちになります。デモの参加を理由として、雇用者が、従業員の有給使用権を制限したり、拒絶することは困難と考えられているため、一方的に拒絶することはないよう慎重に対応する必要があります。

イ 解雇について

今後の状況の悪化を想定して、会社の一時休眠や撤退を検討する企業も増えてきており、整理解雇等に関する相談が増えています。ミャンマーでは、統一労働法典は存在しておらず、解雇補償金に関する規制を除いて、解雇に関する規制が存在していません。そのため、雇用契約や就業規則で定められた内容に従い、処理する必要があります。

まず、解雇に関する事前通知については、労働省発行の雇用契約書の雛形において、1か月前の事前通知が求められており、会社代表者の署名を付した上で、十分に解雇理由を付した書面を送付する必要があります。また、解雇補償金については、雇用および技術向上法第5条4項において、契約期間終了前に契約を解除した場合の処理について規定が存在しています。具体的には、2015年労働省通達第84号において、退職者の勤続年数に応じて、退職直前の月額給与に、下記表記載の通り、勤続年数を基礎に、給与を乗じた金額を解雇補償金として支払う義務を負う旨が規定されています。

【解雇補償金の計算方法】 

勤続年数

解雇補償金の給与割合

6カ月以上  1年未満

50%

1年以上  2年未満

100%

2年以上  3年未満

150%

3年以上  4年未満

300%

4年以上  6年未満

400%

6年以上  8年未満

500%

8年以上 10年未満

600%

10年以上 20年未満

800%

20年以上 25年未満

1,000%

25年以上

1,300%

 

最後に、もっとも相談の多い、整理解雇については、ミャンマー労働関連法上、規定は存在していません。ただし、雇用契約書の雛形においては、以下の記載が存在しており、労働組合が存在していない場合は、職場調整委員会(労働紛争解決法第3条によれば、30名以上の労働者を雇用する使用者は、職場調整委員会を設置する必要があると規定されています)との調整、労働組合が存在している場合は、組合および職場調整委員会との調整が必要となっており、留意が必要となっています。ここでいう「調整(liaise)」は、相談だけでいいのか、委員会からの許可が必要なのかについては明確ではありませんが、一般的に相談および説明で足りると考えられています。ただ、実務的には、整理解雇が行われる場合には、所轄の労働局の担当者が調停に参加したり、実質的には労働局の許可が必要となるようなケースがあるともいわれており、留意が必要となっています。

以 上

本記事やご相談に関するご照会は以下までお願い致します。
yuto.yabumoto@oneasia.legal(藪本 雄登)