フィリピン小売業に関する外資規制の改正動向について

2021年02月24日(水)

フィリピン小売業に関する外資規制の改正動向についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

フィリピン小売業に関する外資規制の改正動向について

 

フィリピン小売業に関する外資規制の改正動向

2021年2月
One Asia Lawyers Group代表
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士
栗田 哲郎 

 フィリピンは他のASEAN諸国に比べても外資規制が厳しいのが有名であるが、その中でも小売業への外資規制は完全に禁止されていた。2000年には、小売自由化法(Retail Trade Liberalization Act of 2000)が施行され、一定の条件の下で小売業への外資参入が認められたものの、小売業者の大多数を占める中小零細事業者保護の観点から、下記の通り小売業への外資参入には比較的高い障壁が設けられていたのが実務であった。さらに、フィリピンにおいてはアンチダミー法などの存在により、他国のようにノミニーの利用を行うことも実務上厳しく制限されている。

 このために小売業への投資においては、現地のローカル企業とのフランチャイズやライセンス等の他の手法を検討したり、場合によっては投資を断念せざるを得ない日本企業・外国投資家の例が多いのが実情であった。

 今般、フィリピンにおいて、この小売業への外資規制が緩和される方向で議論が進んでおり、この緩和が実現された場合は、フィリピンに投資を検討する日本企業にとって重要な追い風となる可能性が高い。本稿においては、かような小売自由化法の改正の動向について説明する。

第1 小売自由化法の概要
1)払込資本金額等と外資による出資の可否
 小売業とは、一定の例外を除く、物品を公衆に直接販売する活動を行うものと幅広く定義されている。 

 そして、小売自由化法においては、払込資本金額がUSD2,500,000(約2億6,000万円)未満の小売業は、外国資本による出資は不可能とされており、多額の資本金を出資しなければ、外資はフィリピンの小売業に進出することができない。

 そして、小売業の外資規制における外資企業とは、外国資本が少しでも入った段階で外資企業と認定されてしまうため、USD2,500,000以未満の小売業の場合は、100%がフィリピン資本でなければならなかった。

 他方、払込資本金額がUSD2,500,000以上の場合は、外資出資比率に関する制限は存在しない。このため、この金額を超えた場合は、外国資本による100%出資も可能であった。

2)外国投資家に求められる要件
 もっとも、外国資本は、既にフィリピン国外で小売業の実績がある大規模な事業者が想定されており、以下の要件を満たさなければならないこととされている。

1. 純資産がUSD200,000,000(約210億円)以上であること
2. フィリピン国外において5つ以上の店舗又はフランチャイズを有する、またはUSD2,500,000ドル以上の資本を有する店舗を1つ以上有すること
3. 5年以上の小売業の実績があること
4. フィリピン国民が小売業を行うことを認めている国から投資を行うものであること

 以上に加え、外国資本の出資を受けた小売業者は、仕入れの30%以上をフィリピン国内で調達することが求められたり(内国調達義務)、外資出資比率が80%を超える小売業者は、事業開始から(事業開始後に外資出資比率が80%を超えた場合は当該超過時からとする)8年以内に、その株式の30%以上をフィリピン国内市場において公開しなければならない(上場義務)など、厳しい制限がかされており、2000年小売自由化法においては、外国資本が小売業を行うためには、厳しい制限が課されていた。

第2 小売自由化法の改正の動向
 以上の通り、外国投資家がフィリピンでの小売業に参入するハードルは相当に高いのが現状であった。かかる規制の緩和への外国投資家の期待は極めて高く、また外資誘致に積極的な姿勢を有すると評されるドゥテルテ大統領も、小売業に関する外資規制の緩和を重要な政策課題の1つとして捉えている。

これは、2017年の大統領通達16号において、小売業を含む8つの事業分野における外資規制の緩和を早急に検討すべき旨の指示が大統領から関係当局になされている点にも顕れている。このような規制緩和の機運を受けて、2020年3月には小売自由化法の改正法案が下院で承認されるに至り、現在は上院において改正法案が審議されている。改正法案自体はフィリピン大統領によって「緊急」としては認定されていないが、上院は法案の処理を続行すると声明にて述べている。

(1) 改正法案の概要
 上院において審議中の改正法案(第1840号)において、外資が出資するために必要な払込資本金額の要件が、現行のUSD2,500,000からUSD300,000(約3,100万円)に大幅に引下げられる可能性がある[1]。さらに、前稿にて紹介した、外国投資家に求められる特別要件である、株式公開義務、国内調達義務は、いずれも撤廃される見込みである。

(2) 適用税法の変更
 フィリピンの法人税率は、現在の30%の法人税率から国内法人および外国法人どちらに対しても25%に引き下げられる予定であるところ、さらに、特に既存のフィリピン国内法人に投資するか、フィリピンの法律に基づいて(例えば子会社として)法人化することを意図する将来の外国の小売業者に対しては20%への減税の可能性があるが、そのためには事業所のある土地を除いて、純課税所得が500万ペソ(約1,000万円)を超えず、総資産が1億ペソ(約2億円)を超えないことが求められている。

 2000年の小売自由化法の現在の資本要件の存在により、外国資本の小売業者はこの20%の法人所得税の減税メリットを享受することができなかったが、小売自由化法改正案が成立した場合、外国資本であったも上記の要件を満たすことが可能であり、20%への減税メリットを享受しながら小売業の進出することができることとなった。

第3 最後に
 以上の通り、現行制度よりも大幅に少ない資金での参入が可能となることに加えて、これまで多くの投資家が充足困難であった「外国投資家に求められる特別要件」が撤廃される等、小売業の門戸を外資に大きく開放する内容の改正法案であるといえる。上記はあくまでも上院で審議中の法案であり、また下院で承認済みの法案(第59号)とも若干異なる内容が含まれていることから、今後さらに内容の変更が生じる可能性はある(なお、現状、上院承認法案と下院承認法案の内容が異なる場合には、両院における内容調整のプロセスに進むが、本件に関して下院は上院案を受け入れる姿勢である旨の一部の報道もある)。

 今後の法案審議のスケジュールについて確たる予想をすることは難しいものの、現在(2021年2月末)の上院案に近い内容で法律として成立、施行されることとなれば、小売業に関する外資規制の大きな改正となるため、今後も同法案の国会審議の状況を注視する必要があるといえよう。小売自由化法に提案された改正は、最近のフィリピンの経済改革および外国投資家の誘致をもたらす一環であり、日本企業にとっては大きなビジネスチャンスになる可能性が高く、注意深く状況を確認しておいく必要があるといえよう。

[1] 但し、2つ以上の店舗を設ける場合には1店舗あたりUSD150,000の投資が必要となる。この最低資本金要件については5年毎に当局により適否の検討がなされる変更の可能性がある。