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マレーシアにおける外資規制について

2021年03月04日(木)

マレーシアにおける外資規制についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

マレーシアにおける外資規制について ~流通業・サービス業~

 

マレーシアにおける外資規制について
~流通業・サービス業~

2021年3月
One Asia Lawyers Group
マレーシア担当

 日本法弁護士 橋本 有輝

 本稿では、流通業・サービス業の企業がマレーシアに進出する際の外資規制の問題について概説します。

1 マレーシアにおける外資規制の全体像

 マレーシアにおいては、過去数十年にわたってブミプトラ政策(マレー人等の地元民族の優遇政策)に基づく各種規制措置が盛んにおこなわれてきましたが、徐々にこれが緩和されてきました。現在では、海外からの投資という観点において、ASEAN諸国の中では、シンガポールには及ばないもののメコン諸国をはじめインドネシア・フィリピン等に比べても自由度の高い国として位置付けられています。

 具体的には、国家権益に関する事業や生活に密着した小売店等への参入には規制 が残っているものの[1]、製造業や流通(上記を除く)・サービス業では原則として外資100%の会社を設立すること(マレーシア資本の会社の買収することも含みます)も可能です。

2 流通業・サービス業の進出における留意点

(1)ガイドライン

 上記の通り、流通・サービス業の企業は、原則として、100%外資で会社を設立したり、企業を買収することが出来ます。

 ここだけを見ると、これら業種の企業が、マレーシアに進出することは非常に容易になったように見えますが、注意しなければならない点があります。

それは、上記した外資規制の撤廃は、2010年5月12日に国内取引・協同組合・消費者省(Ministry of Domestic Trade Co-operatives and Consumerism: MDTCC)によって発表された「マレーシア流通取引・サービスへの外国資本参入に関するガイドライン」[2] に基づいているということです。

 そして、このガイドラインは、外資100%の会社の参入を認めると同時に、ほとんどの企業が該当する「その他のさまざまな販売形態:Various Other Distributive Formats」の会社(サービス業も基本的にここに含まれます)の最低資本金を100万リンギットとしているのです。

そ の他にも、ブミプトラの取締役を任命する、経営陣を含め全てのレベルにおいてマレーシアの人口構成を反映するような雇用を行う、といった条件が課され得るとされています(ただし、裁量により最低資本金の条件をクリアすれば他には条件を課されないことが一般的です)。

 このように、外資100%での出資が可能になったといっても、外資規制という意味では今でも規制が残っているのです。

(2)ガイドラインに違反した場合の効果(WRT Approval

 次に、以上のガイドラインに違反した場合の効果について概観します。

 ガイドラインですので、これに違反しても罰金や禁錮刑といった罰則はありません。
 では、このガイドラインを無視しても大丈夫か、というとそうではありません。

 例えば、ある企業がマレーシアに会社を設立し従業員や取締役を日本から派遣するとします。この場合、当然ですが、当該従業員等は就労ビザ(Employment Pass)を取得する必要があります。

 ところが、これを審査する移民局は、上記ガイドラインに基づいた承認(これを「WRT Approval 」といいます。[3])を当局(MDTCC)から得ている証拠を申請書類として要求し、これがない場合終了ビザを発給しない運用となっております。つまり、WRT Approvalを取得することが事実上就労ビザ発給の要件となっているのです。

(3)その他ライセンス等について

 上記の説明は、あくまでWRT Approvalに限ったものでして、現地で事業を行うには、これ以外にも事業に関連した様々な承認やライセンス等を取得する必要があります。従いまして、実際にマレーシアに進出する際には、外資規制や必要なライセンスの調査を現地に詳しい弁護士等の専門家に依頼することを強く推奨いたします。

 

[1] 規制の詳細はGUIDELINES ON FOREIGN PARTICIPATION IN THE DISTRIBUTIVE TRADE SERVICES MALAYSIA(https://www.kpdnhep.gov.my/images/dokumen/perdagangan/perdagangan-pengedaran/WRT_Guideline.pdf)を参照頂きたい。

[2] 上記脚注1と同じもの。

[3] WRTとはWholesale, Retail Tradeの略です。サービス業は明示的には入っていませんが、実務上ここに含まれて運用されています。