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タイにおける債権回収と倒産対応の実務(第6回)について

2021年03月26日(金)

タイにおける債権回収と倒産の対応の実務(第6回と第7回)について報告いたします。

債権回収と倒産対応の実務(第6回)について

 

 

タイにおける債権回収と倒産対応の実務 第6回

2021年3月26日

One Asia Lawyersタイ事務所

6回 タイの保全手続きと強制執行手続きについて

第5回までは、タイにおける裁判制度や債権回収のポイントを述べてきたが、訴訟で判決を得る前に相手方のタイ国内の財産を適切に保全することができるか、また、仮に債権者が勝訴判決を得て、債務名義を取得できた場合、タイにおいて強制執行ができるか、ということについて相談を受けることも多い。今回は、タイにおける保全手続きと強制執行手続きについて紹介する。

1 保全手続きについて

保全手続とは、相手方から確実に債権を回収するために、訴訟での判決が得られる前に、相手方の財産を仮に差し押さえたり、仮に処分するような手続き等を意味する。例えば、相手方に土地や建物、現金預金などの価値がある財産があったとしても、土地や建物が第三者に売却されたり、現金が引き落とされ、流用されてしまっては、仮に勝訴判決を得たとしても、相手方から債権を回収することができなくなるおそれがあるため、あらかじめ相手方のそれらの財産について売却したり、利用したり、隠したりできないようにする手続きである。

タイにおける保全手続については、民事訴訟法第254条において、仮差押え(財産流用を防ぐため、財産を保全する手続き)、差止命令(契約違反や不法行為等の行為によって対象物の損傷や譲渡等を防ぐため、対象行為を停止させる手続き)、登記官等による処分(財産流用を防ぐため、登記変更等を停止させる手続き)、被告の身体拘束(逃亡や証拠隠匿等を防ぐため、対象者の身体を拘束する手続き)等が認められている。

債権者は訴状の提出と同時、又は、判決前までに裁判所に対して仮処分等の保全手続きを申し立てることが可能となっている。申立後、裁判所は、当事者に対して審問を行い、保全手続きについて、正当な事由と十分な根拠があると判断する場合においては、裁判所は保全命令を発する仕組みとなっている (民事訴訟法典254条、255条)。

但し、実務上、裁判所は、仮処分等の申立てを慎重に判断するといわれており、実際に保全命令が出されるケースは少ないといわれている。また、実務上の大きな問題として、日本とは異なり、タイでは、本案訴訟の提起後にしか保全申立を行うことができず、被告に訴訟提起の事実が知られないまま、保全手続を進めることはできない。したがって、裁判所から保全命令を取得できたとしても、その時点では、既に執行すべき財産がなくなっている状態になっている可能性があるため、十分に留意する必要がある。

2 強制執行手続きについて

タイにおいて、判決が言い渡されたにも関わらず、債務者が債務を履行しない場合、裁判所に対して強制執行の申立を行うことにより、執行手続きを行うことが可能となっている。勝訴者は判決日から、10年 以内に裁判所に対して判決の執行を申立ことができる(民事訴訟法第271条、274条)。なお、仲裁の場合は3年以内となっているので留意が必要である(タイ王国仲裁法第42条)。

強制執行の手続きの流れとしては、まずは債権者が裁判所に対して、執行官選任の申立を行った上、裁判所が執行官選任状を発行する(民事訴訟法第275条、278条)。その上で、財産が特定されていれば、債権者は、法務省内の民事執行局にその財産の強制執行を申し立て、執行官が執行を行う。動産や不動産の場合、競売によってその財産が現金化され、債権者に支払われる。また、給与債権や売掛金債権などの金銭債権の場合は執行官がその債権を差押え、現金を取り立てる(民事執行法第282条)。

なお、執行手続きに要する費用は、財産の種類によって異なり、競売価格や財産額の数パーセント等となっている。下表のようなリストが整備されており、執行にかかるコストも把握しておくことが肝要である。

<財産執行に関する費用一覧表>

※一覧表はPDFをご覧ください。

以 上

 

〈注記〉
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・ 今後の政府発表や解釈の明確化にともない、本資料は変更となる可能性がございます。
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yuto.yabumoto@oneasia.legal(藪本 雄登)