日本における2021年プロバイダ責任制限法改正について

2021年05月17日(月)

日本における2021年プロバイダ責任制限法改正についてニュースレターを発行しました。
PDF版は以下からご確認ください。

日本:2021年プロバイダ責任制限法改正の要点

 

日本:2021年プロバイダ責任制限法改正の要点

2021年5月15日
One Asia Lawyers Group
弁護士法人One Asia
日本法弁護士 渡邉 貴士
同      栗田 哲郎

1. はじめに

 2021年1月、プロバイダ責任制限法(正式には「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」) の改正案が閣議決定され、2月26日国会に法案として提出されました。この法律は、インターネット上での誹謗中傷など他人の権利を侵害する「権利侵害情報」を投稿した者(以下「発信者」といいます)の住所・氏名などの情報開示の要件等を定めたもので、手続の迅速化などかねて改正が強く望まれていました。

 この改正案が滞り無く成立した場合、その後は実務運用等を定める規則等整備がなされ、交付後施行までの一定期間も考慮すれば、施行日は2023年以降になると予想されます。

2.改正のポイント

 今回の改正のポイントは主に次の2点です。

(1) 投稿者の情報開示を容易にする新たな裁判手続の創設

 現行制度では、仮処分、訴訟などと少なくとも2度の裁判手続を経ることが必要であるなど、権利侵害を受けた被害者にとって必ずしも使い勝手が良い精度であるとは言えませんでした(問題点は後に詳述します)。

 そこで、今回の改正では、被害者がより容易に発信者情報開示ができるよう、裁判所が事業者側に投稿者情報の開示を命じられるようになる新たな裁判手続が創設される予定です。

 また、従来問題であった開示手続中に発信者情報を消去されてしまう保管期間の問題も、消去禁止命令という新制度が設けられ、併せて対応がなされる予定です。

(2) ログイン型投稿におけるログイン関係情報の開示制度の新設

 SNS事業者など一部のコンテンツプロバイダは、それぞれ個別の投稿に関するユーザー(発信者)情報を保有せず、ログイン時及びログアウト時の情報しか保存していないことがあります。その場合、現行のプロバイダ責任制限法の規定では、ログイン・ログアウト時の情報の開示を正面から認めることは困難であり、「権利侵害情報を投稿した者は、その投稿時に利用した同一のインターネット回線を、ログイン・ログアウト時にも利用したはずだ」との経験則などを介してしかそれら情報の開示は認められないという問題点がありました(ただし、そのような経験則を認めなかった実際の裁判例も多数あります)。

 そこで、今回の改正では、ログイン・ログアウト時情報は「侵害関連通信」(新5条3項)として開示要件が明文で規定され、補充性など要件の加重はあるものの、それら情報の開示も法律上可能となる予定です。

3.投稿者の情報開示を容易にする新たな裁判手続の創設

(1) 改正の背景-現状の制度の問題点

 現状の発信者情報開示制度は、権利侵害をされた被害者に莫大な手続コスト(費用及び時間)がかかるという問題点がありました。

 現行制度では、発信者情報開示をするためには、SNSやインターネット掲示板管理者などのコンテンツプロバイダ(CP)を相手取る仮処分等の手続(第1段階)を経たうえで、インターネット接続サービス事業者などのアクセスプロバイダ(AP)を相手取る訴訟(第2段階)も提起する必要があります。

 こうした2度の裁判手続を要するということは、手続にかかる弁護士費用など出費かさむとの問題点のほか(なお、それら費用を開示後の発信者からの全額回収することは一般的には困難です)、そもそも訴訟手続がスムーズとはいえず、しかもCPが海外法人の場合には国際送達を行う必要もあり、情報開示完了までに1年以上も要することも珍しくないとの迅速性の問題点もありました。

 しかも、上述の通り、その開示手続中に、開示対象とする通信記録の保管期限が過ぎ、消去されてしまうリスクもあることから、その場合は更に当該通信記録を保全するために別途仮処分申立てを提起するなどの必要もありました。

 このように、現行の発信者情報開示制度はとても使い勝手が良いとはいえなかったため、これら問題点を解消し、被害者の権利救済を拡大しようと、かねてから簡易迅速かつ一回的解決が可能な制度が求められていました。

 そこで今回の改正で、以下の新たな裁判手続が新設されることとなりました。

(2) 新設される手続

 今回の手続においては、裁判所による以下の3つの命令が新設されます。

ア 発信者情報開示命令(新8条)

 これは発信者情報の開示を開示関係役務提供者に対して命じることができる手続です。
 発令の法律要件(新5条1項)や開示対象とする発信者情報は、現行法での発信者情報開示手続と同様です。
 もっとも、副本送達に代わる「申立書の写しの送付」(新11条)という新たな制度が設けられ、特にCPに多い海外法人を相手取る場合には現行法よりも柔軟かつ迅速な手続が期待できます。

イ 提供命令(新15条)

 新設された提供命令には次の2種があります(新15条1項)。

1号命命
コンテンツプロバイダ(CP)に対するアクセスプロバイダ(AP)情報の提供

2号命令
1号の提供命令により特定できたAPに対する発信者情報の提供

 提供命令の要件は、1号、2号共通の要件に加え、各号個別の要件もありますが、いずれも現行法での発信者情報開示の要件と比較してかなり緩和されています。

<1号・2号共通の要件>
①         発信者情報開示命令事件が係属する裁判所に対する申立てであること
②         侵害情報の発信者特定ができなくなることを防止する必要性があること

<1号固有の要件>
③         保有している発信者情報により当該侵害情報に係る他の開示関係役務提供者の氏名
または名称および住所(他の開示関係役務提供者)の特定をすることができること

<2号固有の要件>
③ ‘ 1号の提供命令により提供を受けたAPを相手方とする発信者情報開示命令の申立て
をした旨の通知を行ったこと

 なお、上記要件①との関係で、発信者の住所等の情報を一切保有していない(とされている)CPに対しては、発信者情報開示命令を申し立てたところで無意味ですが、提供命令の要件を満たすためだけに発信者情報開示命令の申立てを行う必要があるとも考えられます。こうした一見無意味な申立てが本当に必要とされるのかなどは、今後の規則制定などの動向を確認する必要があります。

ウ 消去禁止命令(新18条)

 これまで情報保管のためなされていた仮処分申立てに代わる制度であり、開示請求の対象となっている発信者情報の消去を禁ずる命令を発することができるようになります。

 消去を禁じられるのは、当該発信者情報開示命令事件が終了するまでの間ですが、被害者からすれば開示命令が出さえすればよいので、特に問題はありません。

 なお、この消去禁止命令に対しては即時抗告が可能です。

4. まとめ

 実務運用上及び解釈上の未決定事項は多く残るものの、かねてから改正が望まれていた発信者情報開示手続において簡略化目処が立った点では、今回のプロバイダ責任制限法の改正案は、被害者救済の点で大きな前進であると評価できます。

 特に、アクセスプロバイダの多重化が生じ、発信者情報開示のハードルが高かったMVNO経由での投稿については、今回の新たな裁判制度は非常に有用と思われます。

 今後はさらに省令改正等で詳細が固まっていくことになるため、引き続き本改正に関する動向には注目する必要があります。

以上