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日本における男性の育児休業取得推進に関する育児・介護休業法改正の概要について

2021年06月10日(木)

日本における男性の育児休業取得推進に関する育児・介護休業法改正の概要についてニュースレターを発行しました。
PDF版は以下からご確認ください。

日本:男性の育児休業取得推進に関する育児・介護休業法改正の概要

 

日本:男性の育児休業取得推進に関する育児・介護休業法改正の概要

2021年6月9日
One Asia Lawyers Group
弁護士法人One Asia大阪オフィス
代表パートナー弁護士 江副  哲
弁護士 藤村 啓悟

. 改正の目的

 2021年6月3日,衆議院において「育児休業,介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律案」(以下,「改正法」といいます。)が可決されました。[1]施行日は2022年4月1日となります。

 法改正の主な目的は,男性の育児休業取得を推進することにあります。男性の育児休業は,現行の「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(以下「現行法」といいます。)に従い,制度上は取得可能です。しかし,男性の育児休業取得率は2019年10月1日時点で7.48%にとどまり,女性の取得率(同時期で83.0%)と比較しても極めて低い水準にあるのが現状です。[2]

 少子高齢化による人口減少が社会問題となる中,男性の育児休業取得を推進し,そこから男性の育児への継続的な参加を促し,従来,育児を負担してきた女性の雇用継続や,子の出生数増加につなげることが今回の育児・介護休業法改正のねらいです。

2. 改正の概要

 改正法における主な改正点は,以下のとおりです。

 ①出生時育児休業の新設
 ②育児休業の分割取得制度
 ③育児休業を取得しやすい職場環境の整備
 ④育児休業取得率の公表促進

 これらは大要2つの趣旨に分けることができます。すなわち,育児休業制度の柔軟化と,男性が育児休業を取得しやすい職場環境の整備です。

 現行法の育児休業制度下では,男性の多くは出産直後の時期に育児休業を取得していました。[3]このため,出産直後の育児休業の取得をより容易にすべきことが,育児休業取得を希望する男性のニーズに沿っています。また,男性が育児休業を取得する際に,業務の都合や職場環境・雰囲気が取得の妨げとなっている実情があります。これらの事情を踏まえ,男性がより育児休業を取得しやすいように,育児休業制度の利用と職場環境の改善を促すという内容で改正が行われました。

3. 各新設制度の解説

 ⑴ 出生時育児休業

 改正法9条の2は「出生時育児休業」という新たな制度を設けました。子の出生から8週間に限り取得することができる育児休業となります。

 現行法でも,子の出生から8週間以内に育児休業を取得した場合,育児休業を再度取得することができる,いわゆる「パパ休暇」制度が設けられていました。しかし,その建付けは,育児休業を複数回取得することができるというものに過ぎず,育児休業の申出は休業開始日の1か月前までに行うのが原則でした。また,子の出生から8週間以内には1度しか育児休業を取得することができず,業務の状況や母子の状況を見て,育児休業を分割取得することもできないというものでした。

 改正法では,これらの問題を解消するために,通常の育児休業とは別の制度として「出生時育児休業」を設けました。同制度では,子の出生から8週間以内に,計4週間の休暇を2回まで分割して取得することができます(改正法9条の2第2項1号)。また,出生時育児休業取得の申出期限は休業開始日の2週間前までとされており,休業開始日の1か月前とされていたパパ休暇制度より短縮されています(ただし現行法と同様に,労働者が申出から2週間以内の日を休業開始日としても,事業主が同意すれば労働者の希望通りの日程で出生時育児休業を取得させても何ら問題ありません(改正法9条の3第3項)。)。また,労働者側から申出があった場合に限定されますが,出生時育児休業期間中に労働者を就業させることも可能となり(改正法9条の5第5項),業務と育児休業の調整が容易になっています。

 ⑵ 育児休業の分割取得制度

 出生時育児休業の期間(出生から8週間)経過後から子が1歳になるまでに,労働者は分割して2回(現行法は分割できず1回のみ)の育児休業を取得することができるようになりました(改正法5条2項)。

 また,現行法では子が1歳になった時点から1歳6か月になるまでと,1歳6か月になった時点から2歳になるまでにも育児休業を取得できましたが,休業開始日はそれぞれ子の1歳到達日及び1歳6か月到達日の翌日のみに限定されていました。これを改正法は,配偶者がすでに育児休業を取得している場合は,休業開始日を配偶者の育児休業終了予定日の翌日以前の日とすることができるようにしており(改正法5条6項),配偶者と交代で育児休業を取得できるようになりました。

 以上のとおり,改正法では現行法と比較して,育児休業の取得タイミング・期間が柔軟化し,男性が育児休業を取得しやすく,かつ女性の職場復帰が容易となるように配慮されています。

 ⑶ 育児休暇を取得しやすい職場環境の整備

 事業主は,労働者から本人またはその配偶者が妊娠・出産したことの申出を受けたときは,当該労働者に育児休業に関する制度を知らせるとともに,育児休業の申出に係る当該労働者の意向を確認するための面談等の措置を講じなければならないとされました(改正法21条第1項)。

 また,事業者が当該申出を受けた場合,その申出をしたことを理由として解雇その他不利益な取扱いをしてはならないとの規定も同時に設けられています(同条2項)。現行法では育児休業の申出又は育児休業取得を理由として不利益な取り扱いをしてはならないと規定されており(現行法10条),当該規定を拡張する形となっています。同項違反に対する刑事罰は設けられていませんが,育児休業取得を理由とする不利益的取扱いに対しては,現行法10条違反を理由として労働者側からの損害賠償請求等を認めた裁判例[4]も多々存在しますので,改正法21条2項違反も損害賠償請求等が認められる可能性が高いことには十分留意する必要があります。

 ⑷ 育児休業取得率の公表促進

 常時雇用する労働者の数が1000人を超える事業主は,毎年少なくとも1回,雇用する労働者の育児休業の取得の状況を公表する義務を負うことになりました(改正法22条の2)。

4. まとめ

 改正の概要は以上のとおりであり,育児休業制度・職場環境の両面からのアプローチにより,特に男性の育児休業の取得を推進しようとしています。

 男性の育児休業取得率は依然として低いものの,一貫して上昇し続けています。[5]また,男性の育児休業取得期間も長期化の傾向があります。[6]制度としてはすでに用意されている状況で,更に今回の改正が行われたことから,更なる男性の育児休業取得率向上を目指すという国の意向が明らかです。このため,今後も男女問わず育児休業取得率は上昇すると考えられます。また,大企業には育児休業の取得状況公表義務が課されることにより,各事業者の取り組みに対する社会的評価も行われることになります。事業者においては,改正法への対応のみならず,育児休業取得のための職場環境の整備等がより一層求められることになります。

以上

[1] 衆議院「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律案」(https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g20409042.htm

[2] 厚生労働省「調査結果の概要」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r01/06.pdf

[3] 厚生労働省労働政策審議会雇用環境・均等分科会「男性の育児休業取得促進等に関する参考資料集」4頁(https://www.mhlw.go.jp/content/11901000/000727936.pdf)

[4] 東京地裁平成29年7月3日判決『判例タイムズ』1462号176頁

[5] 男女共同参画推進局「Ⅰ-特-21図 男性の育児休業取得率の推移」(https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r02/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-00-21.html

[6] 男女共同参画推進局「男女共同参画白書令和2年版 第2節家族類型から見た「家事・育児・介護」と「仕事」の現状」(https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r02/zentai/html/honpen/b1_s00_02.html