日本等の外国判決のシンガポール裁判所における承認・執行手続について

2021年06月04日(金)

日本等の外国判決のシンガポール裁判所における承認・執行手続についてニュースレターを発行しました。
PDF版は以下からご確認ください。

日本等の外国判決のシンガポール裁判所における承認・執行手続

 

日本等の外国判決のシンガポール裁判所における承認・執行手続

2021年6月
One Asia Lawyers Group代表
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士 栗田 哲郎
シンガポール法弁護士 三好 健洋

1 概要

 シンガポールには、一部の諸外国で得た判決をシンガポールにおいて直接的に承認・執行することを認める法律(Reciprocal Enforcement of Judgments Act、Reciprocal Enforcement of Commonwealth Judgments、Choice of Court Agreements Act等)が存在する。ただし、これらの法律は、日本における判決の直接的な承認・執行を認めていない。

 したがって、日本で勝訴判決を得た者(以下、「原告」という)が当該勝訴判決をシンガポール国内において執行することを望む場合、当該判決を相手方(以下、「被告」という)に対して、シンガポールで直接的に承認・執行することはではない。

 そのため原告は、日本の判決による債務(以下、「日本の判決債務」という)を訴因として、被告に対してシンガポールで新たな訴訟手続きを開始する必要がある。すなわち、日本の判決を証拠の一つとして、別途シンガポールにおいて訴訟を提起する必要がある。

2 シンガポールにおける手続

 日本の判決債務をシンガポールで執行するためには、主に以下の2つのステージが存在する。

第一ステージ:

 まず、原告は、日本の判決債務をひとつの証拠してシンガポールの裁判所で訴訟を開始する。被告が出頭して訴訟を争うかどうかに応じて、被告に対する欠席判決(Default Judgement)または略式判決(Summary Judgement)(以下、「シンガポール判決」という)を得ることを目指す。

第二ステージ:

 原告は、第一ステージで取得したシンガポール判決をもとに、被告が支払いを行わない場合にはシンガポールにおいて強制執行手続きを行う。

3 第一ステージ:シンガポールでの日本の判決債務に関する新たな訴訟手続きの開始

 第一ステージでは、原告は、日本の判決が以下の3つの要件が満たされていることを証明する必要がある。

(i) 管轄権を有する裁判所からの判決であること、
(ii) 日本の法律に基づいて確定した判決であること、および
(iii) 確定した金額が示された判決あること。

 これらの要件がすべて満たされ、日本の裁判所の書類が被告に適切に送達され、日本の裁判所の訴訟に手続き的な瑕疵等がなければ、被告に対して略式判決を得ることは困難ではないものと考えられる。

 第1の要件については、日本の裁判所が有効に管轄権を有していたことを証明する必要がある。この点、訴因となる契約書の管轄条項に日本の裁判所が記載されている場合、あるいは日本以外の国が非排他的裁判権を有する条項などである場合には、基本的には問題にならない可能性が比較的高い。

 第2の要件については、日本の判決は、当事者間の権利を最終的に決定し、判決を下した日本の裁判所が変更や再審を行うことができない場合にのみ、「最終的かつ決定的」とみなされる。したがって、例えば、原告が取得した日本の判決が欠席判決である場合、当該欠席判決が最終的に与えられた判決である必要がある。他方、仮差押え判決などの暫定的判決の場合、当該要件が満たされない可能性がある。

 第3の要件については、日本の判決がシンガポールで執行可能であるためには、確定した明確な金額の支払いを求めるものでなければならない。つまり、日本の判決が特定の救済(差止命令や特定の履行など)を命じたもの場合、その救済はシンガポールでは原則として執行できない可能性が高い。他方、日本の判決が、確定された明確な金額の支払いと特定の救済の両方を認めた場合、判決の特定の救済の部分が執行不能であっても、判決の金銭部分は執行可能である。

 上記の3要件が満たされ、被告がシンガポールでの日本の判決の執行可能性に対して有効な抗弁を提起しない場合、原告は被告に対して略式判決を得ることができる可能性は比較的高いと考えられる。

4 第二ステージ:被告がシンガポール略式判決に基づく支払いを行わない場合の強制執行手続き

 被告 がシンガポールにおける略式判決に基づく債務を支払わない場合、原告は、当該略式判決を強制執行することとなる。当該強制執行手続きには複数の方法があり、最も適切な方法に応じて、原告は以下を行うことが可能である。

(i) 差し押さえおよび売却の令状を取得する、
(ii) 被告の資産調査を裁判所に申請する、
(iii) 差し押さえ手続きを開始する。

 また、被告 の支払いを促すために倒産手続きが有効であると判断される場合には、被告 の倒産を申請することも可能である[1]

5 まとめ

 かように、日本における判決は、シンガポールで直接的に執行することは認められていない。しかし、原告は、日本の判決で発生した判決債務を訴因として、被告に対して執行することが可能である。

 シンガポールに資産を有する相手、シンガポールの法人・個人等を提訴する際には、これらの執行方法や執行の実現可能性などを考慮した上で、適切な提訴地を検討することが求められよう。

 

[1] シンガポールの執行手続きの詳細は、下記のニューズレターを参照されたい。

https://oneasia.legal/6549