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オーストラリアの公益通報者保護法(Whistleblower Protection)について

2021年07月13日(火)

オーストラリアの公益通報者保護法(Whistleblower Protection)についてニュースレターを発行しました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリアの公益通報者保護法(Whistleblower Protection)前編

 

オーストラリアの公益通報者保護法(Whistleblower Protection)前編

2021年7月
One Asia Lawyers Group
オーストラリア・ニュージーランド事務所

1.適用法令

 オーストラリアにおける公益通報者保護に関する法令は、会社法(Corporations Act 2001 (Cth))のPart 4.9AAA(以下、「本法令」)に定められています。本法令は、2019年に大幅な改正[1]が行われ、民間企業の不正行為の通報を促すためのより強固な公益通報者保護体制が導入されました。更に、2021年2月24日には、オーストラリア証券投資委員会(ASIC)が金融サービスに関する通報者の免責方針を発表[2]し、不正が発覚した場合の告発を推奨しています。

 本ニュースレターにおいては、オーストラリアの公益通報者保護制度をご紹介する前編として、本法令の適用対象となる通報とは何かを、主要なコンセプトの解説を交えご紹介いたします。

2.保護の対象となる通報(Qualifying Disclosure)

 本法令において公益通報者保護の対象となる通報は、適格通報者(Eligible Whistleblower)が、規制対象事業体(Regulated Entities)の不正行為に関する情報を、①オーストラリア証券投資委員会(ASIC)、オーストラリア健全性規制庁(APRA)、その他指定された連邦政府機関へ開示する場合、②適格受領者(Eligible Recipient)へ開示する場合、または③本法令に関するアドバイスを受けるために弁護士へ開示する場合を指します。

 通報の対象となる不正行為は、明らかな違法行為(Misconduct)の他に、不適切な実情(Improper State of Affairs or Circumstances)を含みます。本法令には不適切な実情の定義はされていないため、極めて広範囲な行為・事情が対象となる可能性があります。不正行為の例として、事業体(およびその役員・従業員もしくは関連会社)が、本法令または金融関連の法令違反、12か月以上の禁固刑に処される違法行為、その他公共制度または金融制度に対するリスクとみなされる行為に関与した場合を含むとされていますが、これらに限られません。

 2019年の改正法前は、通報の誠実性(Good Faith)が要件となっていたため、通報者の過去の行為や動機などから誠実性が欠けることを証明することで本法令の適用を受けないということもありましたが、改正後はこの主観的要素がなくなり、代わりに、対象情報が事業体の不正行為に関する情報であると疑うに合理的な根拠があったことが要件となっています。

 この「合理的な根拠」の有無に関し、最近の判例[3]では、通報の時点で通報者が実際に知っていた事項が判断要素であり、通報者が通報の時点で知らなかった事項または通報の対象となった行為の意図・効果に関する主張は、通報者保護が適用されるか否かの判断には関係しないとされています。企業としては、通報があった場合に、その時点で通報者が知る事実をできるだけ詳細に聞き取り、通報者保護規制の適用対象となるか否かの客観的な判断を行うことが求められます。

3.適格通報者(Eligible Whistleblower)

 本法令上の保護の対象となる適格通報者(Eligible Whistleblower)とは、①規制対象事業体(Regulated Entities)の役員・従業員に限らず、②規制対象事業体へ物品や役務を供給する者およびその従業員、③規制対象事業体の関連会社の取締役・秘書役、ならびに④上記①~③の親族(配偶者、親、子供など)を含みます。

 4.規制対象事業体(Regulated Entities)

 規制対象事業体(Regulated Entities)とは、主にオーストラリアで設立または登録された会社、銀行、保険会社、退職年金基金を幅広く指します。当該事業体の役員、従業員、および関連会社の不正行為に関する通報も、保護規制の対象に含まれることになります[4]

5.適格受領者(Eligible Recipients)

 適格受領者(Eligible Recipients)も広義に定義されており、事業体により公益通報を受け付ける役割を任命された人物(社内外を問わない)の他に、事業体の取締役・秘書役(オーストラリアでは、登記上の取締役や秘書役の他に、取締役の行為を行う事実上の取締役(De Facto Director)も該当するため注意が必要です)、その他オフィサー(会社の決定の過程に参加する者や会社の決定に影響力をもつ者、管財人、清算人など)、シニアマネジャー(事業の全部または重大な部分に影響する決定に参加する者)、および社内外の監査人を含みます。なお、従業員や下位のマネジャーは適格受領者には含まれません。従って、通報受付窓口となる方以外の取締役や経営管理層が通報を受け付けた場合にも、守秘義務等、本法令上の通報者保護義務を負う可能性がありますので、日ごろから通報を受けた場合の対応方法について周知しておくことが重要です。

 なお、具体的な通報者保護義務の内容については、後編にて詳述いたします。

 以上、オーストラリアの公益通報者保護法の適用対象についてご紹介しましたが、次回の後編では、保護対象となった通報者に関し、実際にどのような保護義務が課されるのか、企業の注意すべき点や例外規定等を踏まえ解説する予定です。

以 上

[1] Treasury Laws Amendment (Enhancing Whistleblower Protections) Act 2019

<参照: https://www.legislation.gov.au/Details/C2019A00010>

[2] ASICは、他者と共謀し金融サービスに関する不正行為に関わった者が、ASICへ通報し調査に協力するなどの要件を満たした場合に、その者に対し民事または刑事免責を与える方針を発表しました。詳しくは、下記ASICのHPに記載されています。

<参照:https://asic.gov.au/about-asic/dealing-with-asic/asic-immunity-policy/

[3] Quinlan v ERM Power Ltd & Ors [2021] QSC 35

[4] Corporations Act 2001 第1317AA条(4)(b)および(5)(b)