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シンガポールにおけるNFT(Non-Fungible Token)の法的位置づけについて

2021年07月14日(水)

シンガポールにおけるNFT(Non-Fungible Token)の法的位置づけについてニュースレターを発行しました。
PDF版は以下からご確認ください。

シンガポールにおけるNFT(Non-Fungible Token)の法的位置づけ ~日本法との比較の観点で~

 

シンガポールにおけるNFT(Non-Fungible Token)の法的位置づけ
~日本法との比較の観点で~

2021年7月
One Asia Lawyers Group代表
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士
栗田 哲郎 

 現在、デジタル資産の一種である非代替性トークン(NFT (Non-Fungible Token)の人気が高まっており、アート作品の取引などで関心を集めています。本稿においては、NFTのシンガポール法上の取扱いについて、日本法と比較しながら説明いたします。

第1 NFTとは

 NFTはブロックチェーン上の暗号化トークンの一種で、「非代替性 (non- fungible)」という言葉にある通り、同一のNFTは存在しないのがコンセプトで、各NFTには固有の識別コードおよびメタデータが割り当てられたデジタルデータです。これとは対照的に、現金やビットコインは「代替可能 (fungible)」なものであり、交換が可能なデジタルデータとなります。このことから、NFTの特徴はデジタル資産の真正性や所有を証明できる点であり、すなわちNFTは所有証明書付きのデジタルデータとも考えることができます。

 例えば、デジタルアート作品はインターネットから閲覧・コピーできる場合がありますが、それらに所有権を主張することは困難です。一方で、デジタルアート作品に紐づけられたNFTの所有者は、そのデジタルアート作品の所有権を証明でき、その作品の唯一の所有者であることを主張することができ、また、その作品を唯一の作品として第三者に販売することも可能です。

 このNFTの人気が高まっている理由は、NFTを活用することで、アーティストたちがデジタルアート作品を収益化することができる可能性を有しているからです。物理的な作品と異なり、デジタルアートは複製されやすく、多くのアーティストたちが違法な複製行為によって損害を被っており、NFTはかような損害を減らし、そのようなアーティストがオリジナルのデジタルアート作品を収益化する方法となり得ることになります。

第2 シンガポールおける法律上の位置づけ

 シンガポールのアーティストがNFTを売却した例も実例として存在しますが、シンガポール法においては、NFTの作成・取引については明確な規制がなく、グレーゾーンにあると評価されています。NFTは、シンガポール金融庁(Monetary Authority of Singapore: MAS)が発効する紙幣や硬貨とは異なり、シンガポールの法定通貨として見なされておらず、MASによる規制の直接の対象ではありません。

 さらに、シンガポールにおいては、2020年1月、暗号通貨サービスプロバイダーおよび「デジタル決済トークン(digital payment tokens)」の規制を目的とした、支払いサービス法(Payment Services Act: PSA)が制定されています。しかし、①NFTは、PSAの適用を免除されている「限定目的のデジタル決済トークン(limited purpose digital payment tokens)」に該当する可能性があること、さらに②商品やサービスに対する支払いについて一般に認められた方法ではないことからPSAにおける「デジタル決済トークン」には該当しない可能性が高いことなどの理由から、現在のところはPSAの適用対象には含まれないと一般的には考えられています。

 また、NFTが仮にPSAの適用対象となったとしても、PSAはマネーローンダリングやテロ資金供与の防止に主眼を置いたものであるため、シンガポールにおけるNFTに対する規制は依然として不明瞭なのが現状です。

 なお、日本法においては、金融庁「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)」(16 暗号資産交換業者関係)I−1−1③によると、2号暗号資産該当性の判断要素の1つとして、「1号暗号資産を用いて購入又は売却できる商品・権利等にとどまらず、当該暗号資産と同等の経済的機能を有するか」という点があり、個性があり代替性のない、いわばデジタルな「モノ」としての性質を有するNFTについては、1号暗号資産と同等の経済的機能を有しないものとして、1号暗号資産にも2号暗号資産にもいずれにも該当しないと考えられています。

第3 購入者の所有権について

 シンガポール法においては、(スマートコントラクトの内容などによりますが)NFTを購入するとNFT自体の所有権類似の権利が付与される場合が一般的です。この際、所有者は、スマートコントラクトに含まれるNFTに適用される規約も確認する必要があります。スマートコントラクトはブロックチェーン上のNFTに埋め込まれ、NFTが2次流通される場合に原作者に還元する金額などの条件が定められます。シンガポールはコモン・ローの法域であり、購入するに際しては、当事者間の契約の内容が重視されることとなります。このため、購入するに際しては、その譲渡の契約条件などのみならず、フロックチェーン上のNTFに埋め込まれたスマートコントラクトの内容も理解しておくことが重要となります。

 なお、、日本法においては、民法上、所有権の客体となる「物」(民法206条参照)とは、「有体物」をいうとされており(民法85条)、また、東京地裁平成27年8月5日判決は、ビットコインについて有体性を欠くため物権である所有権の客体とはならないと判示しています。このため、NFTは、ビットコインなどの暗号資産と同様に、ブロックチェーン上のデジタルトークンとして発行されデータとして存在するにすぎず、有体性を欠くため民法上の「物」には該当しません。したがって、日本法においては、NFTについて所有権は観念できないと考えら得る可能性があります。

第4 譲渡の手続き

 シンガポールにおいては、不履行などの場合に備え、NFTの譲渡は書面による契約書でなされることが求められます。また、プラットフォームによっては、NFTの引き渡し後に支払いが行われるようにすることで、NFTが引き渡されないなどの問題が発生することがないようにしている場合もあります。

 また、NFTの作成者と売り手と購入者の間で契約書が締結されている場合、契約違反として訴訟を提起することも可能となります。ただし、売主の所在を特定することが難しい場合や、所在地がシンガポールでなければ訴訟手続きか複雑化する場合があることに留意する必要があります。

 そもそも契約なども存在しない場合、シンガポールではブロックチェーン取引に適用される法律や規定が不明瞭であることから、法律に基づいて購入者がとれる措置がないのが現状です。

第5 NFTに紐づけられたデジタルアート作品が破棄された場合

 NFTには、デジタル資産の場所に関する情報が含まれますが、このことは購入者が実際の資産を所有することとは同義ではありません。オリジナルのデジタルアート作品が削除されたり、それをホスティングしているサーバーがダウンしたりすることは起こり得るものであり、そのような場合、購入者は作品を失う可能性があります。

 このため、ドメイン全体を購入する、またはアート作品をオンラインで維持するための費用を支払う必要があり、このような問題に対応するため、一部のNFTでは、単一のドメイン所有者ではなく多数のホストを使用するInterPlanetary File Systemなどが利用されています。購入者と売主の間で従来の書面による契約書を締結しておくことも方法として考えられますが、NFTの破棄について売主に法的責任がないと定められている場合、デジタル資産の場所を特定できない場合などにおいては、購入者が法的な手段に訴えることは難しくなるため注意が必要です。

最後に

 シンガポールにおいても、NFTの重要性や人気はますます高まることになると思われます。そして、NFTを購入する場合は、その法的地位が安定しているわけではないため、詐欺のリスクなどを考慮したうえで、適切な契約等を締結することが重要となります。NFTに関する法的なアドバイスが必要な場合は、デジタル資産の取引やブロックチェーンの分野での経験が豊富なフィンテック専門の弁護士に相談されることが推奨されます。