インドの消費者保護(EC)規則案について

2021年07月13日(火)

インドの消費者保護(EC)規則案についてニュースレターを発行しました。

PDF版は以下からご確認下さい。

インドの消費者保護(EC)規則案について

 

 

インドの消費者保護(EC)規則案について

 

 

2021年7月15日

One Asia Lawyers

南アジアプラクティスチーム

 

インドでは、2020年7月に新消費者保護法(The Consumer Protection Act, 2019)[1]が施行されています。

また、同法の下位規則として、Eコマース(EC)に関する「消費者保護(EC)規則」(The Consumer Protection (E-Commerce) Rules, 2020、以下「EC規則」)[2]も同年同月に発行しており、翌2021年5月には、通知により改正規則[3]も発行されています。

いずれも、事業者に対し新たな義務が追加されており、日系企業にも一定の影響があるものでした。

今般、インド政府は、EC規則を、さらに厳格化する内容で改正案[4]を発表しました。

本ニュースレターでは、一連の規制による影響を解説いたします。

 

1.2019年消費者保護法の概要

インドにおいて、消費者の保護や製造者の責任等を規定する消費者保護法は、1986年に制定され、数回の改正を重ねていましたが、近年の商取引形態の変化にも対応する形で、2020年7月に新法が施行され、それに伴い旧法が廃止となっています。

消費者保護法は、旧法からの変更点として、主に以下が挙げられます。

 

  • 消費者の定義における「オンライン購入」の追加:

同法の保護対象となる消費者の定義において、製品購入・サービス利用の手段として「電子的手法によるオンライン(online transactions through electronic means)」が追加され、EC取引が適用対象となることが明確化(同法2条7項)

 

  • 製造物責任(Product liability)の追加:

製造者の「無過失」責任が明示的に規定(同法2条34項、82-87条)

製品・サービスの欠陥(defective product/ deficiency in services)により消費者に生じた損害は、その製造者・販売者・サービス提供者が補償する責任を負うとされ、特に製品の製造者(product manufacturer)に関しては、製品保証説明に過失や不正(negligent or fraudulent)がなかったとしても、製造物責任を負うと規定(同法84条2項)

 

  • 事業者への罰則強化
  • 虚偽または誤解を招く広告により消費者の利益を害した場合、2年以下の禁固または100万ルピー以下の罰金(初犯以降は5年以下、500万ルピー以下まで罰則加重)(同法89条)
  • 異物(adulterant)混入製品や、偽造品(spurious goods)の製造・販売・輸入等を行った場合、消費者に生じた影響の程度に応じた罰則が規定。消費者死亡の場合は無期禁固および100万ルピー以上の罰金、および初犯の場合はライセンス停止(最大2年間)、2回目以降はライセンス没収(同法90条、91条)

 

  • 中央消費者保護局(Central Consumer Protection Authority)の設置:

消費者権利の侵害、不公正な取引、虚偽広告等に対し、調査、申立て、リコール・停止措置命令、罰金を科す権限を有する行政機関の新設(同法10、16、18、20、21条等)

 

  • 調停手続き(Mediation)の導入:

消費者紛争の迅速な解決手段として、調停委員(Mediator)による当事者間の紛争和解を図る制度の導入(同法74-81条)

とりわけ、新消費者保護法において、EC取引が同法の適用対象となることが明示的に規定されたことで、EC取引に関わる事業者の責任範囲が相当程度変わることとなりました。

2.2020年EC規則・2021年改正規則

2019年消費者保護法の施行と同時に、インド政府は、同法に基づく「消費者保護(EC)規則」を2020年7月23日通知し、同日施行しました。

また、2021年5月15日付け通知にて、EC事業者に対する追加義務を規定する改正もなされています。

同規則は、EC取引に関わるすべての商品・サービス、事業体に適用されるものであり、インド国内向けに商品・サービスを提供している外国企業も含まれます。

同規則は、EC取引に関わる事業者を、以下のように分類、定義しています。

 

  • EC事業者(e-commerce entity)

EC取引のためのデジタル機能やプラットフォームを所有・運営・管理する事業者

  • マーケットプレイス型EC事業者(marketplace e-commerce entity)

買主・売主間の取引を促進するためのデジタル/電子ネットワーク上のITプラットフォームを提供するEC事業者

  • 在庫型EC事業者(inventory e-commerce entity)

商品・サービスの在庫を保有し、それらを消費者に直接販売するEC事業者

※なお、インドFDI政策(Foreign Direct Investment Policy)上、外国企業による在庫型EC取引モデルへの投資は認められていません。

  • 出品者(seller)

消費者保護法における「製品販売者」を指すが、同規則では主にECサイト上に商品・サービスを販売・提供する事業者を指す

 

その上で、各事業者に対する義務を規定しています。主な内容は以下のとおりです。

 

EC事業者(同規則4条)

①      消費者保護法および規則の遵守を確保するための、インド居住の統括責任者(Nodal Officer or an alternate senior designated functionary)の設置

※2021年5月の改定にて追加された義務

②      EC事業者の名称・住所・顧客ケアおよび苦情処理責任者(Grievance Officer)の連絡先の表示

③      苦情処理手続きの規定、苦情処理責任者の設置

④      消費者の一方的な商品キャンセルでも、キャンセル料金を課すことの禁止

⑤      商品購入に対する消費者の明示的な同意の記録

⑥      その他、不正取引の禁止、輸入商品の輸入元情報の表示、関連法に基づく合理的期間内の返金、不当な価格操作の禁止、消費者間差別の禁止等

マーケットプレイス型EC事業者(同規則5条)

①      商品等の説明・写真等が、実物の外観・性質・品質等の特徴に合致することを、出品者(seller)に確保させること

②      出品者、返品、返金、交換、配送、苦情処理手続、支払方法、解約等に関する情報のECサイト上への明示

③      商品・出品者のランキングを決定するアルゴリズムの説明

④      出品者間との関係を規定する規約の制定

⑤      知的財産権の侵害により削除された商品を繰り返し出品する出品者の記録

マーケットプレイス出品者(同規則6条)

①      消費者を装った商品レビュー投稿の禁止

②      商品の瑕疵、公告記載内容との不一致、配送遅延等を理由とする返品・返金の拒否の禁止

③      苦情処理責任者の設置

④      商品の広告内容と実物の特性・使用条件等が一致させること

⑤      価格の内訳、使用期限、原産地、交換・返品・返金ポリシー、配送方法、保証等の商品詳細情報の明示

⑥      その他、不正取引の禁止、EC事業者との書面締結、出品者の名称・住所・納税番号等のEC事業者への提供等

在庫型EC事業者(同規則7条)

①      交換・返品・返金ポリシー、保証内容、配送方法、支払方法、価格の内訳、苦情処理手続等の明示

②      消費者を装った商品レビュー投稿の禁止

③      商品の広告内容と実物の特性・使用条件等が一致させること

④      商品の瑕疵、公告記載内容との不一致、配送遅延等を理由とする返品・返金の拒否の禁止

⑤      自社が販売する商品の真正性を保証する場合には、当該商品の真正性に関し適切な責任を負うこと

 

このように、ECサイトでの取引において、消費者が不利益を被る状況を改善することを主な目的としているため、EC事業者側には大幅な義務の増加となりました。

3.改正規則案と規制強化の背景

2021年6月21日、インド政府は、各事業者の義務や禁止事項を大幅に増やす形で、EC規則を改定する方針であることを発表しました。

背景の一つには、消費者からのEC取引に関連する苦情が依然として多いことが挙げられます[5]。消費者ヘルプライン(National Consumer Helpline)に寄せられる毎月平均7万件の苦情のうち、EC関連の苦情が22%を占めており、これは苦情件数上位5分野の中で最も高い割合となっています(銀行業8.7%、電気通信7.7%、電子製品4.7%、耐久消費財3.7%)。

EC関連苦情の総数自体も年々増加しており、2020年7月にEC規則が施行されたにもかかわらず、2020年4月から2021年2月までの11カ月間のEC関連苦情件数は18.8万件と、EC規則施行前の前年度15.4万件からさらに22%増えていることになります[6]

また、AmazonやFlipkartのような外国資本の大手マーケットプレイス型EC事業者の台頭により、インド国内の中小企業やKirana(家族経営等の零細商店)が廃業に追い込まれているとして、小売業界団体である全インド商人連盟(Confederation of All India Traders )等複数の業界団体が政府に対し働きかけを行っていることも背景にあると言えます[7]

これらの企業は、自社ECサイト上での大幅な値引き(Deep discounting)や、検索結果の上位に優先的出品者(preferred sellers)が表示されるよう検索バイアスのある結果表示(Preferential Listing)、特定のブランド等との独占的な契約(Exclusive Tie-ups)などの不正行為により、非優先的出品者に不利益を与えている疑いがあるとして、インド競争委員会(CCI)が調査を命じています[8]

今般の改正規則案には、以下が含まれます。

  • 法令遵守・苦情処理責任者の設置(規則案5条5項(a)~(c))

苦情処理に関する現行の「苦情処理責任者(Grievance Officer)」を強化した体制が義務付けられます。すなわち、以下の要件でポストを任命することとなります。

  • 法令遵守責任者(Chief Compliance Officer)

法令遵守の責任者。EC事業者の管理職または上級従業員(managerial personnel or such other senior employee)から任命する必要があり、インド居住者かつインド国籍の者であることが要件。

  • 統括連絡担当者(Nodal Contact Person)

法執行機関と役員との24時間365日の調整役(24×7 coordination with law enforcement agencies and officers)。法令遵守責任者との兼務は不可。EC事業者の従業員(employee)であり、インド居住者かつインド国籍の者であることが要件。

  • 常駐苦情処理担当者(Resident Grievance Officer)

EC事業者の従業員(employee)であり、インド居住者かつインド国籍の者であることが要件。

 

  • 輸入品販売における規制追加(規則案5条7項)

輸入品・サービスをECサイト上で販売する場合は、フィルター機能による原産国検索システム提供、購入時の原産国通知、国産品の代替品提案、国内商品・出品者に差別的でない公正な商品ランキングの提供等が、EC事業者に義務付けられています。

 

  • EC事業者による不正な大規模値下げセール(Flash Sale)の禁止(規則案5条16項)

フラッシュセールとは、特定の商品・サービスについて、大幅な値下げや魅力的なオファー等で一定期間行うセールであり、EC事業者の管理下にある特定の出品者のみ(only a specified seller or group of sellers managed by such entity)が当該セールで販売できるよう組織されたものを指します。

規則案では、EC事業者が技術的手段により出品者をコントロールし、一般の出品者の業務を不正に妨害するようなセールの開催を禁止しています。出品者自身によるフラッシュセールは規制対象外であると解されます。

 

  • マーケットプレイス型EC事業者のフォールバック責任(Fall back liability)の追加(規則案6条9項)

規則案では、出品者の過失・不作為等により、消費者が注文した商品・サービスを提供できずに、消費者に損失を与えた場合、(出品者ではなく)マーケットプレイス型EC事業者がその責任、そのわち「フォールバック責任」を負うとし、当該事業者の責任範囲を実質的に増加する規定を追加しています。

 

  • 関連企業の優遇の規制(規則案6条6項)

マーケットプレイス型EC事業者が、自社の関連当事者や資本関係等のある関連企業(related parties and associated enterprises)に対する優先的な行為を禁止しています。具体的には、自社のECプラットフォームで得た情報を、関連企業等の不当な利益のために使用しないこと、関連企業等をECサイト上の出品者として登録しないこと、EC事業者が自ら行えないことを関連企業等に代行させないこと、とされています。

 

  1. 企業への影響

改正規則案は、15日間の意見公募を予定し7月6日を締切としていましたが、改正後の影響が大きいことなどから、業界関係者による期限延長を求め、7月21日まで意見受付が延長されました[9]

 

また、改正規則案の意見公募と同時期に、EC業界に対する監督強化の一環として、インド政府は、「電子商取引のためのオープンネットワーク(Open Network for Digital Commerce、「ONDC)」を立ち上げ、諮問委員会(advisory council)を設置しました[10]。ONDCは、独占行為の起こりにくい公平なネットワークを整備することを目指し、諮問委員会はその設計と導入促進に必要な施策について助言する役割をもちます。諮問委員会のメンバーは9名で、以下の組織から幹部が1名ずつ参加しており、EC業界大手の関係者は含まれません。

  • 国家保健機関(National Health Authority)
  • IT大手Infosys
  • インド品質評議会(Quality Council of India)
  • ベンチャーキャピタル大手Avaana Capital
  • デジタル・インディア・ファウンデーション
  • インド決済公社(National Payments Corporation of India)
  • 中央証券保管機関(National Securities Depository Limited)
  • 全インド商業連盟(The Confederation of All India Traders)
  • インド小売業協会(Retailers Association of India)

このように、EC業界に対する規制は、特に外資大手企業に対し厳格化する方針であると言えます。

しかしながら、規則案が草案の内容でそのまま施行された場合は、日系企業を含むEC事業者すべてに適用されることとなり、規制を遵守した社内体制の整備やECシステムの再設計といった対策を講じる必要が生じると予想されます。

本ニュースレター執筆時点では改正規則案は意見公募中であり、どのような改正がなされるのか、今後も注視し、最新情報を提供いたします。

[1] https://consumeraffairs.nic.in/sites/default/files/CP%20Act%202019.pdf

[2] https://consumeraffairs.nic.in/sites/default/files/E%20commerce%20rules.pdf

[3] https://consumeraffairs.nic.in/sites/default/files/Consumer%20Protection%20%28E-Commerce%29%20%28Amendment%29%20Rules%2C%202021.pdf

[4] https://consumeraffairs.nic.in/sites/default/files/file-uploads/latestnews/Comments_eCommerce_Rules2020.pdf

[5] https://www.pib.gov.in/PressReleseDetailm.aspx?PRID=1704938

[6] https://static.pib.gov.in/WriteReadData/specificdocs/documents/2021/mar/doc202131541.pdf

[7] https://www.financialexpress.com/industry/sme/karnataka-hc-to-hear-petitions-from-amazon-flipkart-cci-in-jan-against-alleged-marketplace-malpractices/2146766/lite/
https://www.hindustantimes.com/business/traders-body-says-agitational-approach-needed-if-mncs-are-not-reined-in-101623762226295.html
 等

[8] カルナータカ高等裁判所は2021年6月11日の判決で、AmazonおよびFlpkartによる、CCI調査に対する異議申立てを却下し、CCIによる調査実施を支持しています。http://karnatakajudiciary.kar.nic.in/judgements/WP_3363_2020_connected_matters.pdf

[9] https://consumeraffairs.nic.in/sites/default/files/file-uploads/latestnews/CommentseCommerce_Rules2020_upto_21July2021.pdf

[10] https://dipp.gov.in/sites/default/files/pressRelease_ONDC_06July2021.pdf

以 上

 

 

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