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日本におけるメガソーラー事業に対する行政処分の違法性について

2021年07月14日(水)

日本におけるメガソーラー事業に対する行政処分の違法性についてニュースレターを発行しました。
PDF版は以下からご確認ください。

日本:メガソーラー事業に対する行政処分の違法性

 

日本:メガソーラー事業に対する行政処分の違法性

2021年7月14日
One Asia Lawyers Group
弁護士法人One Asia大阪オフィス
代表パートナー弁護士 江副  哲

 

1. 事案の概要

 本年3月,再生可能エネルギーを活用した脱炭素化の取組みや企業の脱炭素経営の促進を図るべく地球温暖化対策推進法が改正され,2050年までのカーボンニュートラルの実現が明記されるとともに,政府が4月に開催された気候変動サミットにおいて温暖化ガス排出削減目標として2030年で2013年比46%減を掲げたこともあり,今後国策として再生エネルギー事業の促進に向けた政策がとられていくと思われます。このような環境下で,今回取り上げる裁判例(東京高裁令和3年4月21日判決)は,裁判所がメガソーラー事業の推進を止める判断をしたものです。

 本件は,メガソーラー(大規模太陽光発電所)の事業者が,メガソーラー建設工事用道路の橋を架ける目的で,河川管理者である伊東市に河川占用許可の申請をしたところ,伊東市が不許可処分をしたため,事業者が不許可処分の取消しを求めた訴訟です。本件の背景として,本事業に対して2万5000を超える反対署名が市に提出され,それを受けて市議会が本事業に係る開発行為に反対することを議決し,その後,メガソーラーの建設に市長の同意を義務付ける内容の条例(メガソーラー規制条例)が制定されています。なお,本規制条例の施行に際しては,「現に太陽光発電設備設置事業に着手している者」には適用されないという経過措置の規定が設けられていたところ,本条例施行前に宅地造成等規制法に基づき本事業に係る工事の許可が下りている状態でした。

2. 太陽光発電所建設に対する法規制

 本件のメガソーラー建設工事に対する法律の規制としては,森林法に基づく林地開発許可,宅地造成等規制法に基づく工事許可,河川関連法令に基づく河川占用許可があり,一般的な太陽光発電所建設工事においてもこのような法令による規制をクリアしなければなりません。また,本件でも適用の可否が問題となった規制関連の条例が施行されていることもあるため,事業者としてはこれらの法令による規制を事業計画段階から十分に確認しておく必要があります。

3.市による処分の違法性判断

 不許可処分の違法性について,裁判所は,①裁量の逸脱又はその濫用と②不当な動機及び目的を有していたかに分けて判断しています。

 ①について,本件の対象河川が適用される普通河川条例では市長の許可が河川占用の要件となっており,当該占用が河川についての災害の発生防止や流水の正常な機能維持の妨げにならないような場合であっても,市長は必ず占用の許可をしなければならないわけではなく,河川法の目的等を勘案した裁量判断として許可しないことが相当であれば不許可が適法として認められるという前提に立ち,静岡県河川管理事務必携が考慮事項として勘案するとしている一般社会住民の容認するものか,占用により河川及びその付近の自然的及び社会的環境を損なわないか,必要やむを得ないと認められるものかについて,公共性や公益性も踏まえて判断するとし,本事業に対して住民から景観や環境への影響等の様々な懸念事項が示され多数の反対署名が提出されたことや市議会で反対の議決がなされたことから一般社会住民の容認するものに至っていたとは認め難いと認定しています。本規制条例の経過措置の適用の有無については,適法な届出に基づいて施行前に行われていた伐採行為は本事業の準備行為にすぎず,また区画形質変更に伴う掘削については本事業者が計画変更申請をしていたがその変更許可の前に行われていたこと,しかも宅地造成工事の許可に際して防災措置を行うことや防災工事を先行し造成工事は市の確認後でなければならないという条件が付されていたがこれらが履践されていなかったことから,経過措置の適用はないと判断されています。

 ②については,市長が本事業を阻止・妨害するために本規制条例を利用して河川占用の不許可処分をしたことを的確に裏付ける証拠がないという理由だけであっさりと否定されています。

 以上の理由から,市の判断について,裁量の逸脱や濫用はなかったと結論付けられました。

 ただ,不許可処分には行政手続法上,処分の理由を付記する必要がありますが,「社会経済上必要やむを得ないと認められるに至らないことから不許可とする」としか記載されておらず,概括的,抽象的なもので違法であるとして,これを理由に不許可処分の取消し自体は認めています。つまり,実質的には市の裁量判断に違法性は認められないが,形式面から処分の取消しが認められました。このような場合,市としては理由を付記して再度不許可処分をすれば適法と認められることになります。

4.行政裁量の考え方

 基本的に行政の判断には広い裁量が認められ,合理性を欠き社会通念上妥当ではない場合には裁量の逸脱又は濫用であるとして違法と評価されます。

 本件での市の不許可処分について,一審判決では,河川を占用することになるカルバートや仮設排水管等が河川の機能を害するものではなく,河川やその周辺の影響とは別に事業に対する周辺住民や市議会の否定的評価をもって直ちに「一般社会住民の容認するもの」に該当せず不許可とすることは占用許可の判断において市議会や住民の同意を要件とするに等しいため不合理であると判断されました。他方,控訴審判決では,カルバートや仮設排水管等設置の必要性の判断となる基礎は本事業であり,事業規模から景観や環境への影響の大きさに照らすと,本事業に対する住民の反対や市議会の反対決議を考慮することは不合理ではないと判断されており,一審と控訴審では異なる評価を下しています。

5.開発事業者の説明責任

 形式的な要件だけで判断できない許認可はその判断に一定の幅の裁量があるため,違法性評価に際しては,考慮する事項の選択やどの事項を重視するかによって必然的に結論にも幅が出てくることになります。そのため,結局のところ,価値判断が優先し,その判断の根拠となる法令の解釈が後付けの理屈となっていることが往々にして見受けられます。本件では,住民の反対運動だけでなく,本事業に反対する市長が当選し,それに対抗するかの如く事業者が代理人弁護士を立てて行政と協議し,市だけでなく県や経済産業省による幾度の行政指導にもかかわらず行政の判断には応じられないとして本事業を強行的に進めようとしていたという経緯もあり,本事業については「法令適合性」というよりも「社会的妥当性」が争われていた事案であると言えるのではないかと思います。このような事案では,法的評価が割れる可能性が高く,現に一審と控訴審で判断が分かれていることを見ても,裁判所による法的判断を求めること自体の妥当性に疑義が出てきます。許可権者である行政が反対住民の意向に沿って判断しそうであったために事業者としては代理人弁護士を立てたのかもしれませんが,それでは事業を促進させるどころか行政や住民の態度を硬化させてしまうおそれがあり逆効果になった可能性もあります。また,このような行政と事業者との対立の構図になってしまうと,本来遂行されるべき事業も撤退を余儀なくされ,冒頭で触れました再生エネルギーの普及という観点から社会的な損失にもなりかねません。

 そのため,事業者としては開発事業を遂行する上で基本となる住民の理解を得るべく,技術的な安全性は当然のこと,周辺環境への配慮から事業の必要性や社会的意義についてまで説明責任を果たすべきであり,行政の協力も得られるように地道な努力が求められます。再生エネルギーによる発電事業は,従前建設事業に関わっていなかった企業等も参入している新規分野であり,開発事業者としての理解が十分でないこともあるため,このあたりの啓蒙も必要であると考えます。

6.まとめ

 今回のポイントとしましては,まずメガソーラー建設事業者としては,法令適合性や技術的安全性の確保は勿論のこと,説明責任を果たして行政や住民の理解を得ることが事業遂行において極めて重要になります。また,行政としては,開発事業の許認可に際して恣意的な判断をすると裁量の逸脱又は濫用であるとして処分が違法と評価され取り消される可能性があるため,客観的な評価をする必要があります。

 最後に,先日発生した熱海での痛ましい土石流災害を目の当たりにすると,再生エネルギー事業に限らず開発事業を行う場合は,必ず事業者,行政,住民の三者による建設的な協議に基づいた確認,理解の下で遂行していくべきであると痛感します。

以上