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産業競争力強化法の改正の概要について

2021年08月12日(木)

産業競争力強化法の改正の概要についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

産業競争力強化法の改正の概要

 

産業競争力強化法の改正の概要

2021年8月12日
One Asia Lawyers 東京オフィス
弁護士 松宮浩典

 2021年6月16日に「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律」(以下「改正産業競争力強化法」といいます。)が公布され、同日、同法律で措置する制度の一部が施行されました。

1 改正の背景

 日本経済は、新型コロナウィルス感染症の影響などにより、2021年1月から3月期の国内総生産(GDP)で実質年率比が3.9%減(内閣府 2021年1~3月期四半期別GDP速報(2次速報値))と、大幅な落ち込みを見せました。改正産業競争力強化法は、こうした経済の低迷から脱却し、脱炭素やデジタル化などの新たな課題に対応できるよう、「新たな日常」に向けた構造変化を図ることが目的とされています。

 今回の改正では、以下の点がポイントとなっています。

 ①「グリーン社会」への転換
 ②「デジタル化」への対応
 ③「新たな日常」に向けた事業再構築
 ④バーチャルオンリー株主総会に関する制度の創設
 ⑤ベンチャー企業の成長支援
 ⑥事業再生の円滑化
 ⑦規制のサンドボックスの恒久化

 本ニューズレターにおいては、④バーチャルオンリー株主総会に関する制度の創設、⑦規制のサンドボックスの恒久化について解説します。

2 バーチャルオンリー株主総会に関する制度の創設

  現行の会社法では、株主総会を招集する場合、「場所」を定めなければならないとされており(会社法第298条1項1号)、実際に開催する株主総会の場所がなく、バーチャル空間でのみ行う方式での株主総会、いわゆるバーチャルオンリー株主総会の開催は解釈上難しいとされていました。そこで、会社法の特例として、改正産業競争力強化法にて、「場所の定めのない株主総会」に関する制度を創設し、バーチャルオンリー株主総会の開催を可能にしました(改正産業競争力強化法第66条1項、2項)。

 バーチャルオンリー株主総会の開催にあたっては、次の要件を満たす必要があります。

 ①上場会社であること
 ②省令において定められる要件(以下「省令要件」といいます。)に該当していることについて経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けること
 ③株主総会を「場所の定めのない株主総会」とすることができる旨を定款に定めること
 ④招集決定時に省令要件に該当していること

 ②の省令要件に関しては、改正産業競争力強化法に基づく場所の定めのない株主総会に関する省令(法務省経済産業省令第1号)にて次の要件が定められています。

 ⑴議事における情報の送受信に用いる通信の方法に関する事務の責任者の設置
 ⑵議事における情報の送受信に用いる通信の方法に係る障害に関する対策についての方針の策定
 ⑶議事における情報の送受信に用いる通信の方法としてインターネットを使用することに支障のある株主の利益の確保に配慮することについての方針の策定
 ⑷株主名簿に記載・記録されている株主の数が100人以上であること

 なお、③に関しては、新型コロナウィルス感染症拡大の影響を踏まえ、施行(2021年6月16日)後2年間は、経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けた上場会社については、定款変更の株主総会決議を経ることなく、上記定款の定めがあるものとみなすことができるとされています(改正産業競争力強化法附則第3条1項)。

 バーチャルオンリー株主総会は、遠隔地の株主を含む多くの株主が出席しやすく、物理的な会場の確保が不要で運営コストの削減を図ることができ、また、株主や取締役等が一堂に会する必要がなく感染症等のリスクの低減を図ることができます。株主総会の活性化、効率化、円滑化につながることから、海外株主比率が高い企業やコスト低減を図りたい企業を中心に、今後バーチャルオンリー株主総会が普及すると考えられます。

3 規制のサンドボックス制度(新技術等実証計画)の恒久化

 規制のサンドボックス制度とは、IoT・AI・ビッグデータ・ブロックチェーンをはじめとする新たな技術やビジネスモデルの実用化・事業化が、現行規制との関係で困難である場合に、実証を行うことができる環境を整えることで実証を可能にするとともに、実証により得られた情報やデータを用いて規制の見直しにつなげていく制度のことをいいます。

従前、生産性向上特別措置法(2018年6月施行)において、規制のサンドボックス制度が創設、規定されました(生産性向上特措法第4条、第20条)。しかしこの特別措置法が2021年6月に廃止期限を迎えることから、同制度を改正産業競争力強化法に移管し、恒久化することになりました。

規制のサンドボックス制度の主な流れは以下のようになります。

 ①内閣官房の一元窓口に相談し、内閣官房の担当者と共に実証計画の内容を詰める。
 ②実証計画を主務大臣へ申請する。
 ③主務大臣は、実証計画が既存の規制法令に違反しないか確認し、違反しない場合は場合は認定する。主務大臣の見解は、新技術等効果評価委員会でも審議する。
 ④認定を受けた場合、実証実験が開始する。
 ⑤実証後、規制所管省庁は実証報告に基づき、必要な規制の撤廃又は緩和のための法制上の措置その他の措置を講じる。

 2018年6月の施行以降、Fintech、ヘルスケア、モビリティ、IoTなど多様な分野においてプロジェクトが認定されています。申請から認定までの期間は約1か月~2か月程度、実証期間は2年未満であり、規制の見直し実現までの期間が短縮される可能性があるため、経済的かつ時間的余裕が多くないスタートアップ企業を中心に制度のニーズが高まっています。

 また、規制のサンドボックス制度を利用した事業者は、同制度を利用することにより政府のお墨付きを得ることができ、事業のブランディング効果や信用補完効果があることを利点として挙げています。一方で、規制のサンドボックス制度の認知度が低い点や手続きが複雑な点が課題としてあげられており、認知度の向上や手続きの簡略化を今後取り組む必要があると考えられます(株式会社野村総合研究所「令和元年度産業経済研究委託事業(規制改革による新規事業創造に係る調査)」の報告書、p.13~14参照)。

 新しい技術に基づくビジネスを始める場合、既存の規制が想定していないことが多くあり、法改正に時間を要したりすることもあるため、円滑に実用化・事業化できない場合がありました。規制のサンドボックス制度を活用することにより、早期に社会実装することが期待されており、今回恒久化されたことにより、活用する企業がさらに増えると考えられます。

以上