「債権取引所」オープン:ベトナムにおける債権回収の実態と日系企業の対策
「債権取引所」オープン:ベトナムにおける債権回収の実態と日系企業の対策についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下からご確認ください。
<「債権取引所」オープン:ベトナムにおける債権回収の実態と日系企業の対策>
2021年11月11日
One Asia Lawyers ベトナム事務所
1 はじめに
2021年10月15日、金融機関の不良債権購入や不良債権・担保資産の売却による債権回収などを実施するベトナム金融機関資産管理会社(Vietnam Asset Management Company :VAMC)が、その支店として「VAMC債権取引所」を開設しました。
ベトナムビジネスにおいて債権回収に困っている日系企業は多く、VAMC債権取引所を通じて不良債権の処理を検討される企業担当者の方々に向けて、今回は、VAMC債券取引所の機能およびベトナムにおける「債権売買」についてご紹介します。
2 不良債権の売買
ベトナムでは、民法上、不良債権の売買は認められており(民法第450条)、個人であれ企業であれ、自己が有する債権を、債権売買業を営む企業に対して売却することが可能です。ただし、民法その他不良債権取引に関連する法令において、不良債権の売買方法については詳細に定められていません。
ベトナムには、上記のVAMCとベトナム債権売買公社(Vietnam Debt and Asset Trading Corporation:DATC)という2つの大きな債権売買会社が存在しますが、両者ともに、100%国有資本の企業であり、原則として金融機関や国営企業の債権しか取り扱っておらず、民間企業や個人が有する不良債権の購入はしていません。
先日開設されたVAMC債権取引所も、ニュースなどでは、“企業や個人に対して債務や資産の売買に関するコンサルティングや仲介サービス等を提供する”[1]と、同取引所を通じて企業の不良債権の処理を図ることが期待できるような報道がなされています。しかし、同取引所は、開設したばかりであり、実態としてどのようなサービスを提供しているのか不明であるため、実際に企業が不良債権を処理する手段となり得るのかについても不透明な状態です。なお、弊所からVAMCに対して問合せを行ったところ、現時点で、VAMC債権取引所は、民間企業や個人の不良債権を取り扱っていないとのことでした。
3 民間の債権売買会社
VAMCとDATC以外にも、民間には多数の「債権売買会社」が存在します。しかし、債券売買会社という名前にもかかわらず、実態は、債権の売買は実施しておらず、債権回収サービスを提供し、回収した債権についてコミッションを得るという事業を行っています。
このように、債権回収サービスを実施しながら「債権売買会社」を名乗っているのは、2020年投資法によって、2021年1月1日より債権回収サービス業が事業禁止業種となった(2020年投資法第6条1項h))ことが関係していると考えられます。
債権売買会社へ債権を売却しようとする際に、上記の実態を理解しておらず、意図せずして違法な債権回収サービスを利用することのないように注意が必要です。もし、このような違法な債権回収サービスを利用した場合、債務者から法的な責任を追及されるほか、コンプライアンスの観点からレピュテーションリスクもあることにご留意ください。
4 日系企業が現実的にとり得る対策
VAMCやDATCといった国有企業では民間企業の債権は取り扱わず、民間の債権売買会社も、実態は、新投資法で禁止された債権回収業を違法に実施しています。したがって、現時点において、ベトナムにおいては、債権売買による不良債権の処理は債権回収手段の選択肢に含まれない、ということとなると考えられます。
ベトナムで活動する日系企業の債権回収方法として、任意交渉による自主的返済を求めるか、費用対効果の面で実施が難しいかと考えられる訴訟や仲裁など法的措置を取らざるを得ないという状況です。このような状況にならないように予防することが最も重要ですので、日々の与信管理や取引先の債権管理を徹底することが重要と考えられます。
[1] https://www.viet-jo.com/news/economy/211013192651.html
以上
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