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シンガポールにおける外国介入対策法(FICA)の可決について

2021年11月15日(月)

シンガポールにおける外国介入対策法(FICA)の可決についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

シンガポール:外国介入対策法(FICA)の可決

 

シンガポール:外国介入対策法(FICA)の可決

2021年11月
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士
栗田 哲郎

 シンガポール議会は2021年10月4日、外国介入対策法(Foreign Interference (Countermeasures) Act, FICA)を可決し、成立した。

 これは、敵対的な外国の団体が、世論を操作するなどして国内政治へと秘密裏に干渉することに遅対して、対処する権限を当局に与えるための法律である。

1 FICAの概要

 FICAは、SNS等を用いて世論を操作する動きや、政治家への働きかけといった、ネットでの発信及び特定の個人や組織への献金等を介した、外国勢力からの干渉を防止するため、SNS事業者やISPに対し情報開示、遮断、削除、政府見解の掲載を命じることや、特定の個人や組織を指定し、献金情報や外国の政治団体との関係などを開示することを可能とするものである。

 具体的には、以下のようなプロセスで行われる。まず、シンガポール内務省など当局は外国勢力が背後に存在すると思われる敵対的な情報発信活動について、政治的な目的に向けられたものであって、対策を講じることが公共の利益にかなうと判断した場合、当該情報の拡散を防止する具体的な措置を講じることができる。その措置には、SNS事業者やISP、ウェブサイト運営者等に対し、国内において特定のアカウントやコンテンツ、特定のアプリの配信をブロックするよう強制することが可能である。これらの命令に反した場合、最も厳しい罰則が適用されると、10万シンガポールドル以下の罰金、14年以下の禁錮もしくはその両方を課すことも可能となっている。

 また、「政治的に重要(Politically Significant)」(個人や団体、政治家等が含まれるが、それに限らない)を指定し、指定された個人や団体は、献金や外国との連携に関する定期的な報告書の提出を求められることとなる。

 また、以上の規制は、シンガポール内務省など当局が、裁判所の判断を経ることなく行うことができる。

2 導入の背景

 シンガポール内務省(Ministry of Home Affairs)は、こうした外国が主権国家としてのシンガポールにおける国家安全保障に対し、深刻な懸念となっていると説明している。同省は実例を挙げてその必要性を訴えており、近年、アメリカ大統領選挙への介入疑惑によってウクライナの個人や団体に制裁措置が課された例、フランスのマクロン大統領のメールが漏洩した件など、外国勢力が軍事力ではなく、インターネットを介して世論操作やハッキング等を行い、国内政治に介入しようとする試みが増加しており、ネットによる世論操作の危機が差し迫っているとする。また、中国系実業家がオーストラリアの議員に献金し、南シナ海問題で中国寄りの発言をさせた事例等を紹介し、法律による規制の必要性を訴えている。

 これらの危機に対し、干渉を防止するための強力な権限をもって対抗する一方で、国民や海外から、政府が恣意的に反政府的な動きを封じることができるとの懸念に対しては、シンガポール人がシンガポール人の意思で政治的発言をする場合、それがどのような形、内容であれFICAによる規制の対象とはならないこと、そして外国人や外国メディアであっても、「オープンかつ透明な方法」で行われる限り、同様に内容の如何にかかわらず、規制の対象外であると説明している。

 なお、本法律で規制される対象は以上のように説明されているが、シンガポール国民や企業、団体であっても、外国勢力からの影響や献金を受けていると判断される場合、外国人と同様に同法の規制の対象になることや、規制対象がインターネットを介した活動にも及ぶことから、それらが規制対象となるかどうかなどの点についてはこれからの具体的な実務的判断が待たれている。

3 資金源・インターネットに関する規制

 また、シンガポールは外国との交流によって発展している国であるから、FICAは、アメリカやオーストラリアにおける同様の規制より意図的に緩やかな法律であるとしつつも、敵対的な活動として一線を超えたものを規制する必要性を主張し、懸念点には以下のように説明した。

 まず、国内の個人や団体の政治活動について、国内の個人や団体が規制対象として指定されるのは、外国の勢力のために行動し、シンガポールの公共の利益に反する海外の活動を支援している場合のみだとし、指定されると資金源を公開する必要があるとしている。多くの国、例えばイスラエルではこのような要件をNGOに課しており、特異な規制ではないとした上で、政府への批判を含め、政治的発言を禁止する趣旨ではなく、あくまで外国の勢力が秘密裏にシンガポール国民や団体を通じてプロパガンダを広めることを防止するため、その資金源を明らかにすることで、透明性を確保するに過ぎないとした。

 また、海外の個人や団体がインターネットを通じて活動する場合の線引きについては、そもそも海外の個人や団体がそれと明記して何かを主張することは完全に自由であるとする。例として、海外の新聞を挙げ、シンガポールの国家運営に対して度々批判的な記事を書いているとしつつも、そのような記事や活動がFICAによる規制対象とはならないとし、ネットを通じて、シンガポールの政治や意思決定に向けられ、それに干渉する目的で、あえて外国の団体の主張だとわからない形での活動が規制の対象となるのみだとした。

4 日本企業が留意すべき点

 また、K Shanmugam内相の説明によれば、シンガポールの政治、社会問題についてはシンガポール人が判断して決定すべきであり、当然シンガポール人が政治活動をすることは合法と強調する一方、Employment Pass、S-Passなどの就労ビザを取得してシンガポールに滞在している者については、シンガポール国内での政治活動に関与すべきではないこと、シンガポールにおける政治活動に参加した場合は就労ビザの取り消しなどもあり得ることを強調しており、日本企業も注意が必要である。日本企業としては、就労ビザを有して勤務している従業員に対し、シンガポールにおける政治活動には関与するべきではないことを強調し、特にSNSでの発信などには仮に日本語であったとしても留意するように注意喚起すべきであるといえる。

以 上