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One Asia Lawyers コンプライアンスニューズレター(2021 年 11月号)

2021年11月12日(金)

One Asia Lawyers コンプライアンスニューズレター(2021 年 11月号)を発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

One Asia Lawyers コンプライアンスニューズレター(2021 年 11月号)

 

One Asia Lawyers コンプライアンスニューズレター(2021 年 11月号)

カンボジアの新競争法

2021年10月5日、カンボジアは新競争法(以下「本法」)を可決し、ASEAN経済共同体(AEC)ブループリント2025[1]で想定されている競争法を制定した最後(10番目)のASEAN加盟国となりました。 本法の制定は、ASEANおよび世界貿易機関に対するカンボジアの取り組みを果たすものです[2]。競争法は7章41条で構成されており、反競争的行為を防止し、「公正で誠実な取引関係を奨励し、経済効率を高め、新規事業を奨励し、消費者が高品質で低コスト、多様で多彩な製品やサービスにアクセスできるようにする」ことを目的としています[3]。 本法は、(1) 反競争的協定、(2) 市場支配的地位の濫用行為、(3) 反競争的企業結合という3つの柱を中心に構成されています。

適用範囲および規制当局

本法は、カンボジア国内外を問わず、反競争的(すなわち、カンボジア市場での競争を著しく妨げ、制限し、または歪める)事業活動を行う者、またはそのような活動を支援する行為に適用されます[4]

本法を執行する規制当局として、カンボジア競争委員会(Competition Commission of Cambodia、以下「CCC」という)が設置されました[5]。 CCCは商業省大臣が主導し、関係省庁が関与することになっており、消費者保護・競争・詐欺抑圧局(Consumer Protection, Competition and Fraud Repression、以下「CCF」という)が事務局を務めます[6]

本法にて、CCCの主な機能と義務が規定されており、政策や計画の策定、法律や規制の草案への助言、決定、命令、罰金の発行、苦情の受付などの責務が含まれています[7]。 また、CCCは自発的に、あるいは管轄の規制当局や個人から苦情を受けた上、調査を開始する権限を有します[8]

反競争的協定

本法は、水平的および垂直的の両方の協定を禁止します。「水平的協定」(Horizontal Agreement)とは、サプライチェーンの同じレベルで活動する人の間の協定であり、「垂直的協定」(Vertical Agreement)は、異なるレベルで活動する人の間の協定を意味します[9]

水平的協定:

直接的または間接的に競争に影響を与える水平的協定の締結および実施は禁止されています。このような協定とは、(1) 価格の固定・管理・維持、(2) 商品・サービスの数量・種類・新規開発の防止・制限、(3)地域や顧客による市場の割り当て、(4)入札談合など含まれています[10]

個人が水平的協定約禁止規定に違反した場合、1ヶ月〜2年の禁固刑と、500万〜1億カンボジアリエル(約1,230~24,600 USD)の罰金が科せられます。法人の場合は、1億~20億カンボジアリエル(約2万4,600~4万9,000 USD)の罰金が科せられます[11]

垂直的協定:

また、本法にて、反競争的な意図や効果を持つものだけでなく、売主が設定した最低価格で商品やサービスを再販することを購入者に直接または間接的に要求する垂直的協定の締結および実施も禁止しています。このような垂直的協定とは、次の要件を購入者に課す契約となります。(1) 購入した商品・サービスを定義された地域内でのみ、または特定の顧客・特定種類の顧客にのみ再販すること、(2) 特定の商品・サービスを販売者から独占的に購入すること、(3) 購入者が購入を希望する商品・サービスに加えて、他の関連性のない商品・サービスを購入すること。また、販売者が他の購入者に商品やサービスを販売することを妨げる垂直的協定も禁止されています[12]

この規定に違反した企業は、書面による警告と、違反した年数のうち最大3年分までの総売上高3%〜10%の罰金が科せられる可能性があります。これらの罰金を受けるにもかかわらず、違反を続ける場合、事業登録証明書、許可証やライセンスの取り消し・撤回がされる可能があります[13]

市場支配的地位の濫用

本法は、市場で支配的な地位にある者が[14]、反競争的な意図や効果を持つ活動を行うことを禁止しています[15]。 これらの活動とは、(1) 供給者・顧客に競合他社と取引しないよう要求または誘導すること、(2) 競合他社への商品・サービスの供給を拒否すること、(3) 購入者が契約の目的とは無関係の商品・サービスを別途購入する必要があることを条件に、その商品・サービスを販売すること、(4) 製造原価を下回る商品・サービスを販売すること、(5) 競合他社が必要不可欠な施設にアクセスすることを拒否することが含まれます[16]

一方、上記の活動が合法的に行われる場合もあります。この免除が適用されるためには、CCCが、合法的なビジネス上の利益のために活動を行うことを正当化する合理的な理由があり、その活動が市場での競争を著しく妨げ、制限し、または歪めるものではないことを納得しなければなりません[17]

本規定に違反した場合(もし免除が適用されない場合)の罰則は、上記の垂直的協定違反と同じです。すなわち、書面による警告と、違反した年数のうち最大3年分までの総売上高3%〜10%の罰金、また、違反が続く場合の事業登録証明書、許可証やライセンスの取り消し・撤回となります。

反競争的企業結合

最後に、本法は、市場における競争を著しく妨げ、制限し、または歪める効果を持つ、または持つ可能性のある企業結合(合併など)を禁止します[18]。 企業結合とは、ある者が他の者から株式や資産を購入することにより支配権や議決権を取得すること、または2人以上の者が既存または新規の法人の共同所有権を取得するために結合することを意味します[19]

CCCは、企業結合の評価・検査を行い、競争への影響を判断する責任があります。政府は、企業結合の要件と手続きを規定する政令を発行する予定です。この規定に違反した場合の罰則は、上述の垂直的協定や市場支配的地位の濫用の場合と同様です[20]

禁止事項の適用除外

本法にて、水平的・垂直的協定、市場支配的地位の濫用、反競争的企業結合の禁止に対する適用除外が定められています。これらの適用除外は、次の4つの要件を満たす場合に適用されます。(1) 技術的、経済的、または社会的に識別可能な大きな利益があり、(2)そのような利益はそれらの協定や活動がなければ存在しないものであり、(3)その利益は反競争的な効果を大幅に上回り、(4) 商品やサービスの重要な側面において競争を排除しないこと[21]

適用除外の申請は、協定や活動が有効になる前にCCCに行われなければならない。CCCは、上記4つの要件が満たされていると判断した場合に適用除外を認めます。免除申請に適用される要件や手続きは、CCC が定めます[22]。 同様に、CCC は特定種類の契約や活動が上記4つの要件を満たす場合、一括して適用除外を認めることがあります[23]

これらの適用除外に加えて、本法は水平的協定に対する課徴金減免制度(Leniency Policy)を定めました。本制度に基づき、CCCは、違法な水平的協定(上記に説明したように)に参加または協力した者に課される金銭的な罰金を減免することができます。減免が認められるためには、罰金の対象となる者が契約に関連する証拠や重要な情報を提供する必要があります[24]

 

[1] ASEAN経済共同体(AEC)ブループリント2025は以下のリンクからアクセス可能です:

https://aseandse.org/wp-content/uploads/2021/02/AEC-Blueprint-2025-FINAL.pdf

[2] ASEAN 競争専門家グループ(AEGC)。「Cambodia Adopts the Law on Competition to Curb Anti-Competitive Practices and Promote Competitive Markets」 (2021年10月19日)

https://asean-competition.org/read-news-cambodia-adopts-the-law-on-competition-to-curb-anti-competitive-practices-and-promote-competitive-markets

[3] 競争法第1条

アメリカ議会図書館が公開した競争法の非公式英訳は以下のリンクからアクセス可能です: https://perma.cc/9H88-JN52

[4] 競争法第2条

[5] 競争法第4条

[6] ASEAN 競争専門家グループ(AEGC)。「Cambodia Adopts the Law on Competition to Curb Anti-Competitive Practices and Promote Competitive Markets」 (2021年10月19日)

https://asean-competition.org/read-news-cambodia-adopts-the-law-on-competition-to-curb-anti-competitive-practices-and-promote-competitive-markets

[7] 競争法第6条

[8] 競争法第16条

[9] 競争法第3条

[10] 競争法第7条

[11] 競争法第38条

[12] 競争法第8条

[13] 競争法第35条

[14]「支配的な地位」とは、ある人物が他の競争相手からの有効な制約を受けることなく、市場で著しく行動する力を持っている状況を意味します。(競争法第3条)

[15] 競争法第9条

[16]「必要不可欠な施設」とは、複製できないインフラであり、そのような施設へのアクセスがなければ、競合他社はその顧客に商品やサービスを合理的に提供することができないことを意味します。(競争法第3条)

[17] 競争法第10条

[18] 競争法第11条

[19] 競争法第3条

[20] すなわち、書面による警告と、違反した年数のうち最大3年分までの総売上高3%〜10%の罰金、また、違反が続く場合の事業登録証明書、許可証やライセンスの取り消し・撤回。

[21] 競争法第12条

[22] 競争法第13条

[23] 競争法第14条

[24] 競争法第15条