• Instgram
  • LinkeIn
  • Lexologoy

マレーシアにおける雇用法の改正案について

2022年01月06日(木)

マレーシアにおける雇用法の改正案についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

2021年雇用法法案- 1955年マレーシア雇用法の改正案

 

2021年雇用法法案– 1955年マレーシア雇用法の改正案

2022年1月
One Asia Lawyers Group
マレーシア担当
日本法弁護士   橋本  有輝
マレーシア法弁護士  ナジャッド・ズルキプリ

1.はじめに

 Employment Act 1955(以下「雇用法」という)を改正する法案である Employment Bill 2021(以下、「本法案」という)は2021年10月25日にマレーシア議会に上程された。本法案は現在2回目の審議中で、法律として承認され施行される前に議会の手続きを踏むこととなる。

 本法案は以下に要約する通り雇用法に様々な改正を行うことを目指すものである。これらの改正案は国際労働機関(International Labour Organisation)から要求される基準に従おうとするものとされている。

 全ての雇用主は、これらの改正案を認識し、これが施行された際には従業員に関連する社内規定、契約及びガイドラインを改正する等して同法律を遵守する必要がある。

2.本法案の主要な改正点

(a) 国人労働者の雇用

 雇用法第60K条にかかるこの改正案は、外国人労働者を雇用しようとする雇用主は、申請書を労働局長官(Director General of Labour)から事前の承認を得ることが必要となる。従来は、雇用主が雇用主により外国人労働者の詳細について同局長に通知することだけが求められていたことから、外国人の雇用を厳格化するものである。

 また、雇用主の申請は以下を含む特定の条件を満たす必要がある。

 ・雇用法により基づく決定、命令もしくは指示に関連し未解決の事項がないこと;
 ・雇用法、1969年従業員社会保障法(SOCSO法)、労働者住宅最低基準法、1990年宿泊およびアメニティ最低基準法もしくは2011年国家賃金評議会法に違反する犯罪関する未解決事項乃至事案がないこと; 又は
 ・雇用主が人身売買防止および強制労働に関連する犯罪に対する有罪判決を受けたことがないこと。

 上記条項に違反した場合、有罪判決を受け、雇用主はRM100,000.00以下の罰金もしくは5年以下の禁錮、またはその両方の責任を負うことが提案されている。

(b) 妊婦保護および男性従業員への育児休暇の導入

 (i) 妊娠中の従業員の産休及び解雇

 本法案では、60日間の出産休暇を90日間の出産休暇に置き換える修正が提案されている。さらに、故意による雇用契約違反、不正行為もしくは事業閉鎖の場合を除いて、雇用主が妊娠中の従業員を解雇することは、雇用法違反となる旨の提案がなされている。現行法では、妊娠中の従業員の解雇の禁止は、雇用主による事業の閉鎖の場合にのみ除外されていますので、これら改正は女性従業員の保護を図ろうとするものである。

 (ii) 育児休暇の導入

 その他にも、男性従業員に対する育児休暇の導入が提案されている。男性従業員は、12ヶ月以上雇用され、かつ、その出産予定日を雇用主に30日以上前に通知した場合は、3日間の有給休暇を取得することができる権利を得るというものである。この改正案は従業員に最も肯定的に受け入れられるであろう改正案である。

 (iii) 第44A条の削除 – RM2,000以上の賃金の女性従業員の除外

 上記の通り、従業員にとっては肯定的な改正がある一方で、本法案は雇用法から第44A条を削除することを提案していることも重要である。現行雇用法の第44A条は、第XI章で提供されている産休等の妊婦保護の規定は、賃金額に関わらず全ての女性従業員に適用されると規定している。もしこの部分の改正がそのまま可決された場合には、妊婦保護の規定が適用される範囲は、月額RM2,000.00未満の女性従業員に限られることになる。

(c) セクシャル・ハラスメントに関する通知の掲示義務及び罰則の強化

 本法案は雇用主にセクシャル・ハラスメントの認識を高めるための通知を、雇用場所に目立つように掲示する新たな条項を提案するものである。さらに、本条項に関し、第81F条にて雇用主がセクシャル・ハラスメントの苦情に対し調査を怠った場合に対する罰則をRM10,000.00からRM50,000.00に引き上げる提案がされている。

(d) 一週間の最大就労時間の削減と病気休暇の条項の改訂

 一週間の最大就労時間が最大48時間から45時間へと短縮するよう提案されている。また病気休暇については、病気休暇の総数を規定している現行の第61F条にて、病気休暇の日数には入院日数60日を含むと規定されているが、これを削除することが提案されている。本条項の削除によって、従業員は通常の病気休暇から差し引くことなく60日間の入院休暇を利用できるようになる。

(e) 軟な就労形態

 本法案では従業員が雇用主に申請可能な柔軟な就労形態について導入されている。この申請において、従業員は、雇用に関する就労時間、就労日数もしくは勤務地の変更を申し出ることが出来る。当該申請を受領した雇用主は、承認もしくは却下することができるが、雇用主は却下した理由を書面で従業員に通知しなければならない。

 この改正は、多くの雇用主が、COVID-19の感染爆発を原因とする政府による移動制限令(MCO)の発令のために導入してきた柔軟な就労形態の発展に依拠して導入されようとしている。この改正はこの点を捉えたものであり、これが可決された場合、マレーシアの最先端技術に則した就労文化の向上に確実につながることと期待されている。

3.その他の改正

 上記の他にも様々な改正点が本法案にて提案されている。これらはひと月に満たない月の賃金の計算方法や強制労働に対する新しい罪の創設等の項目が含まれている。

4.結論

 本稿の発行時点では、法案はまだ手続き中であり法律として施行されていない。本法案がもし承認され議会で可決された場合、雇用主は既存の雇用体制の修正するための必要な手続きを取ることが要求される。

 弊所は本法案の影響に対し適切なアドバイスをお客様へ提供し、オーダーメイドの契約、社内規定もしくは雇用規則の作成のお手伝いをいたします。弊所のサービスに関してご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。

参照: Employment Bill (Amendment) 2021 [PN(U2)3164]