タイ版下請法のマニュアルの概要について
タイ版下請法のマニュアルの概要について報告いたします。
タイ版下請法のマニュアルの概要について
2022年 1月 7 日
1 はじめに
取引競争委員会より「中小企業が商品販売者またはサービス提供者である場合の与信期間に関するガイドライン(以下、「本告示」)」の解釈等を説明する取引競争委員会の告示・中小企業が商品販売者またはサービス提供者である場合の与信期間に関するガイドラインの件に関する説明書(以下、「マニュアル」)が、昨年末に公表されました。
本ニュースレターでは、このマニュアルの概要について説明致します。これまで公聴会の説明などにて本告示の解釈が示されていましたが、今後はこのマニュアルに従い与信期間について運用する必要があるものと考えます。
2 中小企業の定義(本告示第2条)
マニュアルでは、雇用者数または年間売上高のいずれかの要件に該当すれば、中小企業に該当すると説明されています。
本告示施行前の公聴会の説明では、年間売上高で中小企業性を判断すると解釈されていましたが、マニュアルでは、雇用者数または年間売上額のいずれかの要件を満たせば中小企業に該当する、という解釈に変更されました。
事業の種類 |
雇用者数 |
年間売上高 |
1.製造業 |
200人以下 |
5億バーツ以下 |
2.サービス、卸売、小売業 |
100人以下 |
3億バーツ以下 |
※雇用者数とは、賃金を得て労働またはサービスを提供する自社の従業員を意味します。つまり、掃除員や警備員を従業員として雇っている場合は雇用者数に含めますが、清掃会社や警備会社から自社に派遣されている者は含めません。
※年間売上高とは、各種経費控除前の利益全てを意味し、商品やサービスの販売から得られる利益だけでなく、その他の利益(例えば、預金の利子、会社資産の売却益、余った材料や部品の売却から得られる利益など)も含まれます。
3 中小企業該当性
例1: 従業員200人以下、年間売上高5億バーツ以上のバナナの加工食品会社A
雇用者数 200人以下 |
年間売上高 5億バーツ以下 |
該当性 |
〇 (200人以下) |
× (5億バーツ以上) |
中小企業である |
例2:従業員100人以上、年間売上高3億バーツ以下の機械修理サービス会社B
雇用者数 100人以下 |
年間売上高 3億バーツ以下 |
該当性 |
× (100人以上) |
〇 (3億バーツ以下) |
中小企業である |
例3:機械を製造し、修理サービスも提供する会社Cは、従業員150人を雇用し、製造事業の年間売上高は5億バーツ、修理サービス事業の年間売上高は1億バーツ
<主要事業である製造事業の要件が適用される>
雇用者数 200人以下 |
年間売上高 5億バーツ以下 |
該当性 |
〇 (150人) |
× (6億バーツ) |
中小企業である |
※年間売上高の割合が多い方が会社の主要事業とみなされます。
4 与信期間
与信期間とは、購入者が商品またはサービスの納品または提供を受けた後、一定期間内にその代金を販売者に支払うことを約する販売者とその購入者間の文書による合意事項のことをいいます。
※「文書による」とありますが、文書がない場合でも合意事項や与信期間が無効となったり、裁判所への訴えが認められなくなるわけではありません。ただし、与信期間を文書で定めていない場合は、2560年取引競争法第57条の違反行為について取引競争委員会による調査が行われる際、その調査結果に影響を及ぼす可能性がございます。
5 本告示の適用範囲
施行日(12月16日)時点で過去の契約が終了していない場合も本告示の対象となります。つまり、過去に締結した契約が12月16日時点で有効な場合は、当該契約上の与信期間を見直し、必要に応じて本告示の要件に基づき変更を行う必要があります。
6 本告示が定める与信期間(本告示第4条(1)第1項)
1)一般的な商品またはサービスの場合:45日
2)農産物もしくは農産物の加工品またはサービスの場合:30日
※農産物もしくは農産物の加工品は腐りやすいため、与信期間が1)より短く定められています。
※上記より短い期間で既に合意している場合は、それに従う必要があります。
「農産物」とは
農業、漁業、畜産業、または林業から得られるものを意味し、例えば、米、とうもろこし、魚などが含まれます。
「農産物の加工品」とは
農産物を簡単に加工処理したものを指します。簡単な加工処理とは、油で揚げる、乾燥させる、天日干しにする、など。干し肉やドライフルーツなどが該当します。
※加工工程が複雑なもの、最新技術や機械、機器を使用するものは含みません。
7 本告示の例外(本告示第4条(1)第2項)
本告示は「法」であるため、本告示で定める要件より短い与信期間で合意している場合を除き、原則として本告示に従う必要があります。ただし、本告示に従うことができない理由または必要性がある場合、または本告示に従うことで重大な影響を受ける場合は、取引競争委員会が契約内容及び条件の下でのビジネス上、マーケティング上、または経済上の正当理由を事案ごとに判断することになります。
※本告示で定める与信期間より長い与信期間について両者が合意し、取引競争委員会への違反申立てが行われなかったとしても、同委員会は違反行為について調査及び審理する権限及び義務を有しています。
※契約自由の原則に基づき両者は本告示の範囲内で契約条件について自由に合意できますが、優越的交渉力を行使していたり、不当な取引条件が定められていたりする場合は違反行為とみなされるため注意が必要です。
8 与信期間の起算点(本告示第4条(2))
商品・サービス及び書類の引き渡し完了日が起点となります。
<商品・サービスの引き渡し完了日とは>
購入者が合意した商品またはサービスの数量、種類、品質、基準に基づき、販売者が全商品を納品した、またはサービス提供者が全サービスを提供した日を意味します。
※購入者が受領した商品またはサービスの検品期間については、合意内容、またはそれぞれの業界の通常の商習慣に従うことになります。
<書類の引き渡し完了日とは>
販売者が通常の取引で必要とする全書類(例えば請求書や納品書)を引き渡した日を意味します。
(例)飲料水の販売業者であるA(中小企業に該当)が与信期間を45日とすることでBと合意。2021年8月31日に商品及び書類の引き渡しが完了した場合、民商法193/3条に基づき与信期間の起算日は2021年9月1日となり、支払期限は45日後の2021年10月15日となる。
※与信期間の起算日を遅らせるために、正当な理由なく合意した商品またはサービス及び書類を故意に受領しなかったり、検品を遅らせたり、合意した日より遅れて商品またはサービスを受領した場合、不当行為であるとみなされる恐れがあります。
9 商品またはサービス購入者側がすべきこと
支払に関する詳細及びプロセスを明確に示す必要があります。
※これを行わない場合、または本告示の要件に基づき与信期間を変更しない場合、不当な取引を行っているとみなされる可能性があります。
なお、マニュアルでは、購入者側が販売者側の中小企業該当性について積極的に確認する義務について触れられておらず、購入者側にこのような確認義務はないと解釈してよいと考えます。
10 中小企業に該当する商品またはサービス販売者側がすべきこと
雇用者数または年間売上高により自身が中小企業に該当することを証明する必要があります。
<雇用者数を証明する書類の例>
社会保険納付書類、個人所得税納付書類(歳入局発行の領収書を添付)など。
<年間売上高を証明する書類の例>
昨年度の法人税納付書類(歳入局発行の領収書を添付)、財務諸表、DBDに提出する情報、など
※雇用者数を証明する書類については契約締結時時点のものを提示し、年間売上高を証明する書類については昨年度末のものを提示することになります。
※マニュアルでは、中小企業に該当することを証明する書類の提示は、変更がない限り一度きりで良いとされています。
※購入者が上記証明書の提示は不要であると合意した場合を除き、販売者側が上記の証明を行わない場合、本告示に基づく保護及び利益を受ける権利を放棄したとみなされる可能性があります。
11 不当行為の例(本告示第5条)
1)支払い遅延
正当な理由なく、商品またはサービスの代金支払いが定められた与信期間内に行われなかった場合(例えば、合意に基づく商品を受取ったにもかかわらず、承認が得られていないなどの理由で支払いが行われない場合など)
2)与信期間またはその他の条件の変更
正当な理由なく、または60日以上前の事前通知なく、与信期間または契約上のその他の条件(与信期間に関する条件に限る。例えば、検品期間を延長し、与信期間の起算日を遅らせるなど。)を変更した場合。一方的な変更の場合だけでなく、販売者が変更に合意している場合でも、正当理由または60日以上前の事前通知がなく、いずれかの当事者(販売者に限らず、サプライチェーンに関わる全事業者)が不利益を被った場合、2560年取引競争法第57条の違反であるとみなされる可能性があります。
3)その他の行為
・特別条項を設け、優越的交渉力を行使した場合(例えば、本告示の要件を満たした与信期間を受け入れる代わりに、他社への販売を禁止したり、値引きを要求したりする場合)
・与信期間を定めない場合。
・支払いプロセスを明確に示さない場合
・支払いを受けるためにこれまでの取引では必要とされなかった書類を要求する場合
・中小企業に該当することを証明する書類を受取らない場合
12 罰則
上記不当行為に該当する場合、2560年取引競争法57条の違反であるとみなされ、同法82条に基づき、違反を犯した年の売上高の10%を超えない額の罰金を科され可能性があります。
また、法人が違反を犯した場合は、同法第84条に基づき、法人の取締役に対しても法人と同等の罰則(違反を犯した年の会社の売上高の10%を超えない額)が科される可能性があります。
以上
〈注記〉
本資料に関し、以下の点ご了解ください。
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