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ロシア・CIS関連の法務事情について

2022年02月16日(水)

ロシア・CIS関連の法務事情についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

ロシア・CIS関連の法務事情(2022年2月)

 

ロシア・CIS関連の法務事情(2022年2月)

2022年2月
弁護士法人One Asia
日本法弁護士
南    純

 ニュースレターでは、最新の専門的な法律実務をお伝えするのが一般的かと思います。しかし、アジアの国々と比べて、「ロシアについて全く知らない、行ったことすらない」という読者がほとんどだと思います。そこで、本ニュースレターでは、ざっくばらんなテーマでロシアの情報をお届けし、若干ロシアや関連する法令等の話も織り交ぜていくというスタイルをとっていきたいと思います。極力平易な内容を心掛けて、少しでもロシアを身近に感じ、興味を持っていただけたら幸いです。

第1 「シャンパン法」の成立

 2021年7月、物議を醸す法律がロシアで誕生しました。正確には「アルコール商品規制法Закон «о регулировании алкогольной продукции» (171-ФЗ)」を改正したものですが、特にシャンパンの呼称問題が内外で波紋を生み、別名「シャンパン法」と呼ばれています。

話題となった理由は、この改正により、ロシア産スパークリングワインだけを「シャンパン」と表記し、それ以外のスパークリングワインはフランス・シャンパーニュ産も含めて「スパークリングワイン」としか表記できなくなったからです。

 なぜこのような法律ができたのでしょうか。結論から言えば、ロシアのワイン産業を保護するためです。ロシアでシャンパンはシャンパンスコエ(Шампанское)と呼ばれており、お祝い事の際によく飲まれます。そのようなブランド化した「シャンパン」という表記をロシア産のみに限定したのは、保護主義的な政策の現れでもあります。法案作成者であるコンスタンチン・バハレフ下院議員は報道機関に対し、「本改正は、ロシアのワイン生産を支援するため」だと明確に述べています。

 ロシア連邦国家統計局は、2021年11月、2021年第3四半期(7-9月)の実質GDPを前年比4.3パーセント増と発表しました。これは一見ロシア経済が好調であるかのように見えますが、2020年に新型コロナウイルスが経済を大幅に減速させたベース効果(2020年実質GDPは2019年比3.1%減)と、原油等資源価格の高騰による下支えが要因であると見られています。したがって、ロシア経済は必ずしも好調とは言えません。また、食品禁輸制裁や通貨ルーブル安の影響をロシア国民が直接受けています。それらを考慮して、極力輸入に頼らずにワインも国産で賄いたいという立法者の意図が本改正に透けて見えます。

 ロシア国内での反応はというと、話題にはなったものの、目立った世論の反対はありませんでした。多くの庶民はフランス産の輸入シャンパンなど買えませんから、愛国心に飢えたロシア国民へのアピール(政治家の人気取り)という見方もできるかもしれません。そして、その愛国心をさらに刺激する事態が、ウクライナで起きようとしています。

第2 ウクライナ問題について

 ウクライナに対する武力紛争が新たな政治的・経済的リスクとして注目されています。もし武力衝突が起きた場合、仮に戦争という大規模なものでなかったとしても、追加制裁などによりロシア経済はさらに減速する可能性があります。これは、ルーブル安・ユーロ安などに派生して、欧州に進出している日本企業にも少なからず影響がでるでしょう。

 ウクライナ問題の原因として大きなものがNATO(北大西洋条約機構)へのウクライナ加盟問題です。ウクライナは、2019年2月に憲法改正をし、将来的なNATO加盟を目指す方針が明記されました。北大西洋条約5条では、「締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなすことに同意する。そのような武力攻撃が行われたときは、…その攻撃を受けた締約国を援助することに同意する」とあります。つまり、仮にウクライナがNATOへ加盟した場合、西側諸国の軍事力を背景にしてロシアに対して強い発言権を獲得することができるのです。これは、ロシアのウクライナに対する影響力が大幅に減退することを意味します。

 ロシアとしては、歴史的・民族的・経済的・安全保障的な結びつきの強いウクライナのNATO加盟を絶対に阻止したいと考えています。だからこそ、大規模な軍隊をウクライナ近郊に展開し、それらを背景に大幅な外交的譲歩を西側諸国に求めていると一般的に考えられています。しかしながら、いまだに緊張状態が続いています。今後の展開によっては、戦争に近い武力紛争状態に突入する可能性も否定できません。

 仮にそのような事態となれば、たとえウクライナがNATO未加盟だったとしても、西側諸国有志連合軍による反撃の可能性もゼロではありません。したがって、ロシアや欧州に進出している企業(または今後進出を考えている企業)は、引き続き本問題を注視していく必要があるでしょう。

第3 結語

 シャンパン法やウクライナ問題など、ロシア人の考えることは理解に苦しむと考える方もいるかもしれません。その一因は、ロシアについて断片的なことしか日本で報道されていないからだと思います。ビジネスの前提条件は誤解を招かない適切な情報収集である、とモスクワ駐在中に何度も痛感しました。だからこそ、皆様には、ロシアの最新情報を今後もお伝えしていき、同時に少しでもロシアという国に興味をもっていただけたらと思っております。どうぞ引き続きよろしくお願いいたします。