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シンガポールにおける2022年シンガポールにおける永住権(PR)の最新情報

2022年02月28日(月)

シンガポールにおける2022年シンガポールにおける永住権(PR)の最新情報についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

シンガポール:2022年シンガポールにおける永住権(PR)の最新情報

 

シンガポール:2022年シンガポールにおける永住権(PR)の最新情報

2022年3月
One Asia Lawyers Group代表
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士
栗田 哲郎

1 シンガポールにおけるPRに関し

(1)基本情報

 シンガポールの永住権(Permanent Resident以下、「PR」)とは、自国籍を維持しつつ永住を目的として取得する権利をいう。市民権(Citizen ship)とは異なる大きな点として、シンガポール国籍を有することが可能かという点がある。もっとも、「永住権」という名前であるが実際は長期滞在ビザであり、5年ごとに更新が要求される。

 日本国外務省の資料[1]に基づくと2022年現在シンガポールには全体のおよそ10%に当たる3.432人の日本人永住者が存在するとのことである。コロナ渦によってシンガポールは長期滞在パスを有している者以外の入国が制限しているためPRの取得率は、前年比およそ1.5%増加しているとのことである。

(2)申請資格

 PRの申請を行うことが可能となるのは以下に該当する人物である。現在PR申請は全てオンラインで行われる。また、1回の申請には申請の許可にかかわらず、SGD100がかかる。

 政府の基本方針としてPRが認められるかに関しては、「将来シンガポール国民となる可能性があるか」などの事情を総合的に考慮して判断しており、後述する兵役の義務(National Service)との関係においても問題となる。

 申請権を有する者

1.EPパス(Employment Pass)又はSパス(S Pass)に基づき居住と勤労の実績を積んだ人
2.シンガポールに留学中の学生Eパス又はSパスの者
3.グローバル投資プログラム(GIP)利用の場合
4.シンガポール国民・永住権保有者の配偶者
5.シンガポール国民又は永住権保有者の21歳未満の実子又は正式な養子
6.シンガポール国民の高齢の親

(3)PR取得のメリット・デメリット

 PRを取得する主なメリットは以下のとおりである。

 第1に、PR取得後3年後にHDB(公団住宅)を購入可能な点にある。物価が高騰しているシンガポールにおいては住居費もその例外ではなく高額である。そのため、8割程度のシンガポール国民はHDB に居住している。よってHDBに入居可能であることは、シンガポールにおいて生活をする上で大きなメリットであるといえる。また、不動産を購入する際の取得税が、外国人に比べて優遇されている。

 また、PRの保有者は、原則、ビザの保有なしに入出国が可能である。特にコロナによって外国人の移動に制限が加えられる可能性のある現在において、MOMなどの許可なくPR保有者は移動ができることから、こちらも大きなメリットといえよう。

 第4に、中央積立基金(CPF)の形における経済的利益が存在する。外国人労働者にはCPFは適用されない一方、永住権者にはCPFが適用される。

 第5に、医療費・公立学校の費用が安くなる点が存在する。さらに公立学校の選択権に関して、外国人と比較し、より良い順位となる可能性があるとされている。もっとも、公立学校の選択権については、近年では以前ほどのメリットはなくなってきているとも評価されている。

 他方、シンガポールにおいてPRを取得する場合日本人が最も懸念する点は、以下記載する兵役(National Service)であるため、以下詳述する。

2 シンガポールにおける兵役の義務について

(1)基本情報

 シンガポール国民の男性とPRを有する親から生まれた2世代の男性は、16歳半になると兵役登録が要求され、18歳頃から、2年間の兵役が義務化されている。

 兵役を終了した場合においても予備軍として40歳 (士官の場合は50歳) になるまで、年に1日最大40日徴兵される。2004年以前は2年半の兵役が要求されていたが、2004年以降は2年間の兵役が要求される。訓練に関しては、テコン島にある基礎軍事トレーニングセンターで行われる。報酬も存在し、兵役に対する給料が階級別に支払われる。また14日間休暇を取得することも可能である。

(2)対象

 永住権を取得した本人は兵役の対象とはならないが、第2世代以降は、徴兵対象となる。

(3)兵役免除の特則

 原則として兵役に関しては延期・免除を行うことができない。しかし一定の事項に該当する場合には、兵役の実施を1年から4年延長することも可能である。

 一定の事項の例

1.ジュニア・カレッジ(通常JC)で加速教育を受けている学生
2.高校を卒業し、ポリクリニックを学習している学生
3.工業学校(ITE)の学生
4.国のスポーツチームのメンバーであって、18歳の時からスポーツイベントに参加している選手は、イベントから戻るまでは延期が可能

 このような特権がないにもかかわらず、兵役を回避しようとした場合には、罰則が適用され、最悪3年間投獄されるか、SGD5,000の罰金を課され、又は両方の適用がされることがある。

(4)近年の兵役の義務に関する報道

・オーストラリア人が実刑を受けたケース

 近年では兵役を受けずに国外に出国したオーストラリア人の男性に実刑が下されたという報道[2]が存在する。

 男性はシンガポールで出生し、その後一家でオーストラリアに移り住んだ。そしてオーストラリアにおいて市民権を得た。男性の父親が中央労働力基地(CMPB)からのNS登録義務を男性に知らせず、男性が違反を知ったのは2016年(25歳の時)であった。男性は、シンガポールに戻ってNSを終了したが、裁判所は、有効な出国許可なしに、国外に逃亡した罪に基づき、実刑を課した。

・サッカー選手のプレミヤ契約に関するケース

 シンガポールのサッカー選手がプレミア契約に基づき徴兵登録を怠った違反に基づき禁錮または罰金刑となる可能性があると報道[3]されている。SG国防相は声明文で「兵役の義務を逃れる手段とて市民権の放棄を利用してはならない」としている。 

・政府の兵役の義務に対する考え方

 以上の事件から、政府は安全保障に対して高い優先順位を置く傾向が存在する。そのため親は永住権を取得するが、子は永住権を取得しないという申請を行うことはできるが、実務上は、PR申請自体が却下される可能性が高いのが現状である。すなわち、現在においては兵役の義務から逃れるため子供を申請の対象から場外し、申請を行うことは可能であるが、このような場合にPRが認められる可能性は高くない。なぜなら、政府の基本方針として“将来シンガポール国民となる可能性があるか”において判断するためである。

(5)シンガポールにおけるPRの放棄に関して

 PRを放棄する方法に関してシンガポール入局管理局のHPにおいては何ら記載がなく「ICA(入局管理局)にメールでお問い合わせください」とのみ記載されている。

 子息の兵役直前にPRを放棄すること自体を禁止する規定はみあたらない。しかし後述するように、兵籍直前にPRを放棄する場合においては、息子及び家族が、将来PRを取得する際、重大な不利益が生ずる可能性が存在する。

 すなわち、過去にPRを放棄した外国人に対してシンガポール国防長官は、「18歳(兵役に従事)より前にPRを放棄した外国人に対して再びPRを出したことは当然ないし、再びシンガポールで仕事や勉強をしたいと考えた際の就労ビザや学生ビザもほぼ許可しない可能性がある」とコメントとしている。また、入国管理局もHPにおいて明文で「兵役をフルタイムで務める、または完了することなくPR資格を放棄する、または失うと、シンガポールでの就労、就学、居住、シンガポール市民権またはPR資格の申請において、即時または将来的に不利な影響を与えることになります。また、フルタイムの兵役を務めることなくPR資格を放棄または喪失した場合、家族またはスポンサーによる即時または将来の再入国許可更新の申請にも悪影響を与える可能性があります。」と規定しているため注意が必要である。

 以上を踏まえると子息を有するPR申請者は、申請を行う際において以下の利益と不利益を考慮して申請する必要がある。

 利益として、PRが通りやすいという点がある。PRが通った場合には上述した利益を受けることができる。しかし不利益として、事実上子息を除外する両親に限定するPRが認められない可能性が高く、そのためPRを申請する場合には子息を一緒に申請する必要があるが、その場合には子息が兵役に従事しなければ、自信のシンガポールでの滞在・就労に不利益がある可能性があるということに留意が必要である。

 

[1] 外務省 海外在留邦人数調査統計 https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/hojin/index.html 

[2] https://www.channelnewsasia.com/singapore/ns-defaulter-who-stayed-outside-singapore-without-permit-more-8-years-gets-jail-653386  

[3] https://www.afpbb.com/articles/-/3373427