• Instgram
  • LinkeIn
  • Lexologoy

日本における労働安全衛生規則等の一部を改正する省令案

2022年02月28日(月)

日本における労働安全衛生規則等の一部を改正する省令案についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

日本:労働安全衛生規則等の一部を改正する省令案

 

日本:労働安全衛生規則等の一部を改正する省令案

2022年2月28日
One Asia Lawyers Group
弁護士法人One Asia
弁護士 江 副    哲
弁護士 川 島  明 紘

1.はじめに

 昨年(2021年)5月17日付けの一連の最高裁判決[1](以下,「アスベスト訴訟判決」といいます。)を踏まえ,厚生労働省は,昨年12月24日,「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令案」(以下,「本改正案」といいます。)を公表し,意見募集を開始しました(既に募集終了)。同改正については,本年(2022年)3月下旬に公布され,来年(2023年)4月1日に施行される予定となっています。本改正案では,労働安全衛生法(以下,「安衛法」といいます。)第22条に基づいて定められた省令につき,保護措置の対象者を同法第2条2号で定義される労働者に該当しない者に対しても拡大すること等を内容とします(同法第57条関係の省令については,現行の関係省令において対象者を労働者に限定していないため,対象者拡大のための改正は不要とされています。)。アスベスト訴訟判決を受けての改正にはなりますが,アスベストに限らず,危険有害作業に関連する事業者に対して影響のある改正となるため,今後の改正状況は注視し,関連事業者においては,対応措置を講ずる必要があります。

2.アスベスト訴訟判決の概要

 ⑴ 概要

 一連の訴訟は,建設作業に従事し石綿に曝露した労働者やその遺族が,当該労働者が石綿肺や肺がん,中皮腫等の健康被害を被った原因は,①国が安衛法に基づく規制権限を適切に行使しなかったこと,及び②建材メーカーが石綿関連疾患に罹患する危険があることを示す等しなかったことにある等として提起した国家賠償請求訴訟・損害賠償請求訴訟です。

 この一連の訴訟の中で裁判所は,以下のように判示し,安衛法第2条2号において定義された労働者に該当しない者も含めて,規制権限を行使すべき対象であると判示しました。

 ⑵ 判示

 アスベスト訴訟判決のなかで,平成30年(受)第1447号等最高裁令和3年5月17日判決(いわゆる「神奈川訴訟第1陣」)においては,安衛法第57条について,「労働大臣は,昭和50年10月1日には,安衛法に基づく規制権限を行使して,石綿含有建材の表示及び石綿含有建材を取り扱う建設現場における掲示として,石綿含有建材から生ずる粉じんを吸入すると重篤な石綿関連疾患を発症する危険があること並びに石綿粉じんを発散させる作業及びその周囲における作業をする際には必ず適切な防じんマスクを着用する必要があることを示すように指導監督すべきであったというべきところ,上記の規制権限は,労働者を保護するためのみならず,労働者に該当しない建設作業従事者を保護するためにも行使されるべきものであったというべきである。」,「以上によれば,昭和50年10月1日以降,労働大臣が上記の規制権限を行使しなかったことは,屋内建設現場における建設作業に従事して石綿粉じんにばく露した者のうち,安衛法2条2号において定義された労働者に該当しない者との関係においても,安衛法の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,著しく合理性を欠くものであって,国家賠償法1条1項の適用上違法であるというべきである。」と判示しました。

 そして,平成31(受)491号等最高裁令和3年5月17日判決(いわゆる「大阪訴訟第1陣」)において,安衛法第22条等に基づく規制につき,労働者に該当しない者まで保護の対象としないと判断した原審に対して,上記神奈川訴訟第1陣における判示を参照し,労働者に該当しない者との関係においても規制対象となる旨,判示しました。

3.本改正案の概要

 ⑴ 概要

 上記アスベスト訴訟判決をうけて,厚生労働省は本改正案を公表し,その中では,次のような改正を行う旨記載されており,以下で各改正予定内容につき概観します。

 ① 安衛法第22条に基づく保護措置の対象者の範囲の拡大
 ② 労働者以外の者の保護措置
 ③ 労働者以外の者による遵守義務
 ④ 有害性等の警告表示(掲示)

 ⑵ 保護措置の対象者の拡大(①)

 改正では,(ⅰ)危険有害作業に直接する従事する労働者に対して事業者が講ずることとされている保護措置について,事業者が当該作業の一部を請負人に請け負わせる場合は,当該請負人も保護措置の対象に加えること,(ⅱ)危険有害作業に直接従事していない労働者も含め,危険有害作業を行っている作業場にいるすべての労働者に対して事業者が講ずることとされている保護措置について,当該作業場で何らかの作業に従事する全ての者(当該作業場に資材を搬入する業者等を含む。)を保護措置の対象に加えることとなります。特に(ⅱ)においては,危険有害作業を行っている事業者とは契約関係がない事業者やその労働者等であっても,その対象に含まれる点,注意が必要です。

 ⑶ 労働者以外の者の保護措置(②)

 上記①により拡大した対象者に対する保護措置の内容について,労働者と同等水準が確保されるよう,関連規定を見直すことを改正内容とします。労働者以外の者については,労働者と異なり指揮命令関係にないことを踏まえた改正が行われることとなります。例えば,労働者を危険有害作業に従事させるにあたって設置・稼働させる義務のある設備(排気処理装置,休憩設備等)について,必要に応じて,労働者以外の者(請負人等)が当該設備を自ら稼働させることができるよう,その使用を許可する等の配慮義務を事業者は負うこととなります。

 ⑷ 労働者以外の者による遵守義務(③)

 上記のとおり,保護措置が拡大したことと併せ,従前労働者に遵守義務を設けているもの(立ち入り禁止,喫煙・飲食禁止等の措置)について,労働者以外の者に対しても当該遵守義務を設けることとされました。

 ⑸ 有害性等の警告表示(掲示)(④)

 石綿障害予防規則における掲示義務の内容を改正するとともに,石綿以外の有害物に関する規則について,石綿障害予防規則と同様に改正・新設を行うこととなりました。

4.今後の展望

 本改正は,アスベストに限らず,危険有害作業に関連する事業者に影響あるものとなります。契約関係にない作業者・関係者に対しても保護措置を取らなければならない場合が生じる等,本改正を踏まえた対応措置の見直しが必要となりますので,関連事業者におかれては,本改正の内容をご確認の上,今後の対応方法の策定に当たっていただきたいところとなります。

以上

 

[1] 一連の最高裁判決では,国・建材メーカーが作業従事者の石綿関連疾患り患の危険性を認識できたか,石綿含有建材が建設現場に到達していたか等の多数の争点につき判断していますが,ここでは,本改正案と関連する判示部分のみを指摘しています。