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マレーシアにおける相手方の財産調査について

2022年03月11日(金)

マレーシアにおける相手方の財産調査についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

マレーシアにおける相手方の財産調査について

 

マレーシアにおける相手方の財産調査について

2022年3月
One Asia Lawyers Group
マレーシア担当
日本法弁護士   橋本  有輝
マレーシア法弁護士  Clarence Chua Min Shieh

1.  Introduction

 近年、コロナ禍の影響もあって、マレーシアの現地法人への債権の回収に関する相談が増加傾向にある。

 このような状況下においては、現地でビジネスを行うにあたって、パートナー候補の財産や信用情報を事前に調査することは、より重要な意味を持つことになる。また、債権回収に疑義が生じた後においては、訴訟の結果得られた判決を実現するために、訴訟の相手方の資産を調査することはもちろん重要である。

 そこで、本ニュースレターでは、取引関係を結ぶ前の時点と、取引関係が終了し相手方に対する判決を取得した時点の2つの場面についての、相手方の資産調査について、説明を行う。

2. 取引関係を結ぶ前における、相手方の資産調査について

 (a) 会社に対する資産調査

 取引の相手方が会社の場合、次の2つの方法が考えられる。

 1つ目は、相手方に対するデューデリジェンスを実施する方法であり、これは現地法人に対しM&Aを実施する際や現地法人とジョイントベンチャーを立ち上げる際等に広く用いられている。これは、いわば当事者間の協力を通して相手方の資産等を調査することに他ならない。

 2つ目は、当局等を通じた情報収集である。

 ・SSMを通じた情報収集

 この点で最も一般的なものは、SSM(英名からCCMとも呼ばれる)という会社に関する登録を司る機関を通じた情報収集である。マレーシアでは、全ての現地法人は、SSMに対し、事業の詳細を記した年次報告書を提出することが義務付けられているため、多くの情報がSSMに集約されているのである。SSMでは、誰でも少額の費用さえ支払えば、Web上で[1]日本の法人登記では明らかとはならない株主に関する情報や財務状況に関する情報も手に入れることが可能である。特に年次報告書に含まれる財務諸表(Financial Statements)を見れば企業が保有する資産、流動資産、無形資産などに関する情報を入手することが出来るので、取引の相手方の財務情報を入手する貴重な情報源となっている。さらに、SSMの登記情報には、会社や会社財産に設定された担保に関する情報も記載されているため、自身と競合しうる債権者の存在も確認することが可能である。

 ・上場企業の場合

 以上とは別に、取引先がマレーシアにおける上場会社であれば、証券取引所のWebサイトから[2]、無料で上記報告書を入手することも可能である。

 ・CTOSを通じた情報収集

 CTOSというのは、日本でいう信用情報機関である。ここでは、対象会社の返済状況(他の債権者と間で不履行等がないか)、訴訟を抱えているか、取締役の詳細(住所等の個人情報、他の会社の取締役となっているか、他の会社の株式を持っているか等)の情報を入手することが出来る。ただし、これは相手方の同意が必要な点に注意が必要である

 ・破産調査

 取引先が破産手続きを申請していないか否かは、E-insolvencyのWebサイト[3]で会社名と登録番号の情報があれば閲覧することが可能である。

 (b) 個人に対する資産調査

 個人については、SSMを通じた情報収集の手段がないため、基本的には相手方の同意がなければ有意な情報を入手することは困難である。ただし、上記(a)の破産調査は個人についても実施可能である。他方CTOSサーチは、会社の場合同様、本人の同意がなければ十分な情報を得ることは出来ない。

3. 訴訟後における、相手方の資産調査について

 判決を得た後、債務者の財産を特定する最も一般的な方法は、Judgment Debtor Summons (JDS)を行うことである。JDSとは、裁判所から発行される召喚状であり、これを受けた債務者は裁判所へ出頭しなければならない。そのうえ、債務者は、宣誓の上、判決に基づく債務を支払ために自身の資産に関する情報やまたこれら資産をどのように処分できるかについての情報を提供しなければならない[4]。債務者が会社の場合、会社役員は会社を代表して裁判所に出頭し、会社の収入と資産に関する情報を提供し、それらがどのように判決債務を満たすために使用され、処分されるかを説明する必要がある。提供された説明を確認するために、証人が呼ばれることもある。また、この手続きにおいて、判決の和解として保有する不動産の所有権の譲渡が提案されることもある。

 JDSが債務者に適切に送達されたにもかかわらず、債務者が審理のために裁判所に出頭しない場合、裁判所は、逮捕命令を発し、債務者を裁判所に連行して尋問するCourt order[5]や、債務者不在時にはex-parte orderを出す権限を有している[6] 。債務者の尋問に基づき(または不出頭の場合)、裁判所は債務者に対し、一括または分割で債務を支払うよう命ずることができる[7]

 以上の手続きを経たうえで債務者が債務を支払いうる手段を有しているにも関わらず裁判所の命令に従わない場合、法廷侮辱罪となるため、この一連の手続きは、相手方の財産を探知するうえで強力な手段となる。

4. まとめ

 上記のとおり、当事者は、相手方の財産を特定するためのいくつかの手段を有しているが、何が最も適切な手続きであるかは、債権者が置かれた具体的状況によって大きく変わり得るものである。

 弊所のサービスに関してご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。

 

[1] https://www.ssm-einfo.my/

[2] https://www.myeg.com.my/services/mdi

 

[3] https://e-insolvensi.mdi.gov.my/

[4] Rules of Court 2012, which is read alongside the Debtors Act 1957

[5]Debtors Act 1957 第4条 (5)(a)

[6] Debtors Act 1957第 4 条 (5) (b)

[7] Debtors Act 1957第 4 条( 6)