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フィリピンにおける公共サービス法の改正について

2022年04月13日(水)

フィリピンにおける公共サービス法の改正についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

公共サービス法が改正されました:公共サービスの100%外国人所有

 

公共サービス法が改正されました:公共サービスの100%外国人所有

2022年4月
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士  栗田 哲郎
日本法弁護士   難波  泰明
フィリピン法弁護士  Cainday, Jennebeth Kae

第1      はじめに

 1987年フィリピン憲法では、公益事業(Public Utility)を運営する権限は、フィリピン国民、またはフィリピンの法律に基づいて組織され、その資本の60%以上を当該国民が所有する企業または団体にのみ付与されると規定されています。

 公共サービス法(Public Service Act、Commonwealth Act (C.A.) No. 46、以下「公共サービス法」)では、公共サービスの運営に認可や証明書(Certificate of Public Convenience及びFranchise)が必要な公共サービスを列挙しており、電気、ガス、水道、交通、電話、電信の各サービスの運営など、広範な事業がこれにあたるとされていました。そして、これらの公共サービス(Public Services)が公益事業(Public Utilities)であると解釈されていたことにより、広範な事業が外資規制の対象とされていました。

 ドゥテルテ大統領は、2022年3月21日、公共サービス法改正法案に署名し、同日、改正公共サービス法が成立しました(The Public Service Act, as amended、R.A. 11659)(以下「改正公共サービス法」)。フィリピン政府は、経済を改善し、フィリピンの消費者により良い公共サービスの選択肢を提供するため、公共サービス法を改正し、公益事業の定義を明確化し、外資規制の対象となる公共サービスの範囲を限定し、完全外資のビジネス産業を開くことができるようにしました。

改正についての主な改正点は以下の通りです。

第2 主な改正点の概要

①公益事業(Public Utility)の定義の明確化

 改正公共サービス法では、公益事業(Public Utility)の定義が明確に規定されました。そして、同法はいかなる法律でも、公共サービスのうち公益事業に分類されないものについては、国籍要件(外資規制)が課されないものとされました。

 下表は、フィリピン国民およびフィリピン人が60%以上を所有する企業のみが運営できる公共サービスの一覧です。左側が従前から規定されている公共サービスの一覧、右側が今回新たに規定された公益事業の一覧となっています。

公共サービス(Public Service)
(公共サービス法第13条)

公益事業(Public Utility)
(改正公共サービス法第13条(d))

・コモンキャリア、鉄道、道路鉄道、牽引鉄道、サブウェイ自動車、あらゆるクラスの貨物または運搬サービス
・エクスプレスサービス、蒸気船または蒸気船ライン、ポンティン、フェリー、および水上クラフト、乗客または貨物の輸送業
・造船所、海洋鉄道、海上修理工場
・倉庫業、埠頭またはドック
・製氷工場、氷蓄熱工場
・運河、灌漑システム
・ガス、電灯・熱供給・電力供給、石油
・下水道システム
・有線または無線通信システム、有線または無線放送局
・その他類似の公共サービス

・電力流通
・送電
・石油・石油製品パイプライン輸送システム
・上水道パイプライン配水システムおよび下水道パイプラインシステム 下水道パイプラインシステム
・海港
・公共事業用車両

 この改正により、外国人はフィリピンの通信会社、運輸会社、内航海運会社、鉄道、地下鉄などを完全に所有することができるようになりました。

 ただし、バス、UVエクスプレス、タクシー、ジプニーなどの公益事業用車両(PUV:Public Utility Vehicles)は、公益事業(Public Utility)として分類されています。しかし、同法では、交通ネットワーク企業(TNC:Transport Network Corporations)と認定され、運行されている交通車両は、公益事業用車両とみなさないことを明示しています。TNCとは、Grabタクシーのようなオンラインを利用した交通サービスやライドヘイリングサービスを提供する企業です。

②大統領による公益事業(Public Utility)の分類勧告

 改正公共サービス法では、国家経済開発庁(NEDA: National Economic and Development Authority)の勧告を受け、以下の基準に基づいて、大統領が公共サービス(Public Service)を公益事業(Public Utility)に分類することを議会に勧告する権限が与えられています。

 -個人または法人が、ネットワークを通じて、公共性の高い商品またはサービスを定期的に供給し、公衆に送信・配布していること
 -その商品またはサービスが自然独占であり、公共の利益のために規制される必要があること
 -商品またはサービスが、生計の維持に必要なものであること
 -公衆の要求に応じて適切なサービスが提供される必要があること

③重要インフラ(Critical Infrastructure)に関する規定

 重要インフラ(Critical Infrastructure)とは、物理的なものか仮想的なものかを問わず、フィリピンにとって極めて重要なシステムや資産を所有、使用、運用する公共サービス(Public Service)のことで、そのようなシステムや資産の機能不全や破壊が国家の安全保障に有害な影響を与えるような、フィリピン大統領令で定める電気通信を含む重要な公共サービス(Public Service)とされています。

 外国人は、相互主義を定めている国の者でない限り、重要インフラ(Critical Infrastructure)の運用・管理に携わる事業体の資本の50%以上を所有することはできないこととされました。

④外国政府または外国国有企業の投資制限

 外国政府または外国国有企業に支配され、またはそのために行動する企業は、公共事業または重要インフラ(Critical Infrastructure)に分類される公共サービス(Public Service)の資本を所有することができなくなります。

⑤その他の修正

 -公共サービス法に基づいて発行された認証は、保有者が独立評価チームによる年次業務監査に3年連続で不合格となった場合、停止または取り消される可能性があります。
 -災害時に人的、物的、経済的、環境的損失が拡大しないよう、行政機関が緊急に使用、提供、または提供するよう求めた場合、個人または法人がこれを拒否またはた対応しないことは違法となりました。
 -資本金増加のための株式または株券の発行、および社債の発行に政府の事前承認を必要とする規定は削除されました。
 -証明書または委員会の命令、決定、規則の条件に違反した場合、または遵守しなかった場合の罰金を、1日あたり最高200ペソから5,000~2,000,000ペソに増額され、その他の罰則も引き上げられました。また、これらの罰則については法人役員や管理職等の両罰規定が設けられています。

第3 最後に

 フィリピンでは、今年5月に大統領選挙が行われる予定です。このことは、フィリピンにとって政権交代への希望の光となっています。これと相次ぐ法改正で外資の参入が容易になり、特に上記の改正公共サービス法は、外国人投資家にとってフィリピンへの投資を再検討する良い機会と思われます。引き続き、当事務所のニュースレターにおいてもアップデートをしていく予定です。