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オーストラリアにおける現代奴隷法について

2022年04月13日(水)

オーストラリアにおける現代奴隷法についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリア:現代奴隷法(Modern Slavery Act 2018)

 

オーストラリア:現代奴隷法(Modern Slavery Act 2018)

2022年4月
One Asia Lawyers Group
オーストラリア・ニュージーランド事務所

1.はじめに

 2015年に、英国にて、現代奴隷(Modern Slavery)を防止する法令である2015年現代奴隷法(Modern Slavery Act 2015、以下「英国法」という)が制定されました。現代奴隷には、脅迫、暴力、強制、権力の濫用または詐欺的行為等によって、労働者が仕事を拒否または辞めることのできない状況を含みます。英国法は、事業者とそのサプライチェーンにおいて、かような現代の奴隷行為を特定し根絶するため、一定以上の収益をもつ企業に対し、会計年度ごとに、現代奴隷のリスクとその防止策についての報告を義務付けるものです。

 これに続く形で、オーストラリアでは、2019年1月1日に、2018年現代奴隷法(Modern Slavery Act 2018 (Cth))(以下「現代奴隷法」という)が施行されました。

 本ニューズレターでは、オーストラリアの現代奴隷法の概要をご紹介します。

2.適用範囲

 現代奴隷法においては、年間の連結収益が1億豪ドル以上のすべてのオーストラリアの企業およびオーストラリアで事業を営む企業が報告義務を負います。例えば、オーストラリア子会社の収益が20億円であり基準額以下であったとしても、日本の親会社との連結収益が基準額を超える場合は、報告義務が発生します。また、オーストラリアで事業を営む(Carry On Business)とみなされる海外企業の場合は、オーストラリアに子会社を保有していなくとも、適用を受ける可能性があります。

3.報告義務

 企業の会計年度末から6ヶ月以内に、現代奴隷法第16条の規定に則った内容の報告書を作成し、政府へ提出することが求められます。なお、グループ会社が共同で報告書を作成することも可能です。

 報告書の内容は、大別して主に以下の通りです。

 ・事業者の全世界のオペレーションまたはサプライチェーンにおいて現代奴隷(強制労働、劣悪な労働環境、債務束縛、人身売買、最も悪質な児童労働等)が行われているリスク
 ・事業者の管理する事業体における同様のリスク
 ・当該リスクの評価と対応のために事業者がとった措置(例えば、デューデリジェンス、ポリシー・対処手順の策定、内部通報ホットラインの構築、従業員トレーニング、サプライヤーとの契約・監査モニタリング等を通じた管理体制の構築等)
 ・当該措置の効果の評価方法、事業者の管理する事業体・サプライヤーとの協議プロセス
 ・その他の関連事項

 各企業の報告書は公表されており、政府HP(https://modernslaveryregister.gov.au/)にて閲覧することが可能です。

4.罰則

 所定の内容にそぐわない場合は、当局(移民・国境管理を行うAustralian Border Force)から指示を受けて28日以内に修正報告書を提出することが求められます。報告を怠ったとしても罰則や逮捕に至ることはありませんが、政府は報告義務を遵守しない企業を公表することができます。投資や消費者センチメントにおいてESGが重要視される中、企業にとって風評リスク・経済的損失につながる可能性が高いといえます。

5.おわりに

 現代奴隷法に基づく報告義務を負う企業は、報告書作成のための準備として、全世界の関連事業者について現代奴隷リスクの洗い出し、是正措置およびモニタリングを行うことが求められます。このためには、各事業者と協議、現地視察、現代奴隷リスクを加味した契約の締結、ホットラインの設置、ポリシーの策定・トレーニング、報告手順の確立等に代表される、一定の時間を要する複数の手立てを取ることが必要といえます。特に、過去に報告を実施していない企業、または今期同法の適用を受けることとなった企業は、専門家と協議の上、早急に対応を開始することが推奨されます。

以 上