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インドにおける法定文書の保存期間と電子保存

2022年04月27日(水)

インドにおける法定文書の保存期間と電子保存についてニュースレターを発行いたしました。  PDF版は以下からご確認ください。

インドにおける法定文書の保存期間と電子保存

 

インドにおける法定文書の保存期間と電子保存

2022年4月27日
One Asia Lawyers 南西アジアプラクティスチーム

インドの会社法で定められている法定文書は、日本の法定文書よりも長い期間の保存が義務付けられている場合が多いため留意が必要です。

本ニューズレターでは、インドの会社法における法定文書の種類とそれぞれの保管期間、また電子保存の可否について、法規制と実務を解説いたします。

なお、2021年9月15日発売の『南アジアの法律実務』(https://oneasia.legal/7381)(中央経済社)では、インドやその他南アジア各国の会社制度、労働法、不動産法制等の法務実務を解説していますので、ぜひご参照ください。

1.インドの法定文書と保存期間

インドにおける会社の法定文書の作成と保存期間については、インド会社法(Companies Act, 2013)およびその下位規則等に、具体的な規定が定められています。

会社の文書管理を含む法令遵守等は、会社に会社秘書役(Company Secretary)の役職を置いている場合は、会社秘書役が担う役割とされています(同法205条)。常勤の会社秘書役は、①上場会社、および②払込資本1億ルピー以上の公開会社に任命が義務付けられる役職(同法203条)ですが、インドの会社法に基づくコンプライアンス上の実務や当局への報告は複雑であることもあり、特に外国企業においては、当該要件に該当しない会社においても会社秘書役を任命することが一般的です。

会社が作成し、保管が義務付けられる主な文書と、その保存期間は以下のとおりです。

インドの会社法および関連規則上、永久的(permanently)に保存が義務付けられる文書が多い点が特徴的といえます。日本においては、定款や株主名簿等、会社法等の法令による義務ではないものの、その性質から永久保存が望ましいとされている文書もありますが、インドにおいては永久保存が義務である点に留意した管理が必要です。

具体的な年限が定められている文書に関しては規定通りに履行することに加え、「永久保存」(規則ごとの表現は下表に併記)が必要な文書については、会社が存続する限りは無期限に保存する必要があります。

文書名

保存期間

法律名/条文番号

会社設立時に登記局(ROC)[1]に提出されたすべての書類と情報(基本定款(MOA)および附属定款(AOA)[2]を含む)

会社が存続する期間は永久保存(会社法に基づく解散まで(till its dissolution under this Act))

会社法7条4項等

株券発行に関するすべての帳簿および書類

30年間

会社(株式資本および債券)規則7条

第三者割当増資の記録

8年間(明文規定はないものの、一般的に8年間保存とされる)

会社法42条

会社(目論見書および有価証券の割当)規則[3]14条

株式名義変更証明(Renewed Share Certificate)および株券喪失証明(Duplicate Certificates)の登録簿

永久保存(shall be preserved permanently)

会社法46条

会社(株式資本および債券)規則[4]6条3項(a), (b)

功労株式登録簿(Register of Sweat Equity Shares)
※スウェット・エクイティとは、会社がその取締役または従業員に対して、ノウハウの提供、知的財産権または付加価値のような権利の利用を可能にするために、割引または現金以外の対価で発行する株式を意味する(その名称は問わない)(会社法2条88項)

30年間

会社法54条

会社(株式資本および債券)規則7条、8条14項

株式/優先株式の譲渡・送信登録簿

30年間

会社法56条

有価証券償還届出書

8年間

(明文規定はないものの、一般的に8年間保存とされる)

会社法68条9項

会社(株式資本および債券)規則17条

担保(Charges)登録簿
※Chargeは、担保権の一種だが、担保権者へ目的物の所有権権が移転するmortgageほど強い権利ではない

担保登録簿は永久保存(shall be preserved permanently)

(担保設定証書またはその変更は、担保の充足日から8年間保存)

会社法85条

会社(担保の登録)規則[5]10条4項

株主名簿

永久保存(shall be preserved permanently)

会社法88条

会社(経営・管理)規則[6]3条、15条1項

議事録(取締役会および株主総会)

永久保存(shall be preserved permanently)

会社(経営・管理)規則25条1項(e), (f)

会計帳簿

少なくとも8会計年度

会社法128条5項

取締役および主要経営責任者名簿

保管期間の規定なし

株主名簿同様に永久保存されることが一般的

会社法170条1項

会社(取締役の選任と資格)[7]規則17条

投融資保証登録簿

永久保存(shall be preserved permanently)

会社法186条

会社(取締役会の開催とその権限)[8]規則12条

他人名義出資登録簿

永久保存(shall be preserved permanently)

会社法187条

会社(取締役会の開催とその権限)規則14条

取締役が利害関係を有する契約または取り決めに関する登録簿

永久保存(shall be preserved permanently)

会社法189条

会社(取締役会の開催とその権限)規則16条


2.法定文書の電子保存

前述の法定文書を含め、会社法上保存が求められる文書(登記簿、契約書、議事録等)は、電子形態での保存が認められています(2000年情報技術法(IT法)4条)。IT法の具体的な規定としては、当該情報または事項が以下の要件を満たすものであれば、その電子記録(electronic records)は法的に有効とみなされます。

a)電子的形態で提供され、又は利用可能であること(rendered or made available in an electronic form)、かつ

b)後日閲覧できる状態でアクセス可能であること(accessible so as to be usable for a subsequent reference)

したがって、必要に応じていつでも閲覧・参照できる状態であれば、PDF等の形式による保存も可能です。

ただし、議事録については、別途規定[9]が設けられており、タイムスタンプを付した上で永久保存する点に注意が必要です(shall be preserved permanently in physical or in electronic form with Timestamp)。また、議事録には議長、会社秘書役等の署名が必要ですが、議事録を電子保存する場合は、電子署名されることと規定されています(SS-1規則7.6、SS-2規則17.5)。

また、IT法上、以下の文書については物理的な紙媒体での保存が求められます。

a)インド国内の不動産に関する契約(売却、権利の譲渡等)

b)1882年委任状法(Powers-of-Attorney Act)に定義される委任状

c)1925年相続法(Indian Succession Act)に基づく遺言書

d)1881年譲渡性預金法(Negotiable Instruments Act)に基づく譲渡性金融商品(小切手を除く)

e)1882年信託法(Indian Trusts Act)に基づく信託

なお、上場会社または株主、社債権者、証券保有者が1,000人以上の会社は、会社法上求められる文書を電子形式で保管することが勧奨[10]されています(会社法120条、会社(経営・管理)規則27条1項)。

電子的な保存については所定の方法が規定されており、具体的には以下のとおりです(会社(経営・管理)規則27条2項)。

(a)法律または下位規則に規定された形式で、その他すべての要件に従って保管されること。

(b)法律または下位規則に基づき要求される情報は、将来の参照のために適切に記録されること。

(c)印刷物として読み取り、検索、複製が可能であること。

(d)法律または下位規則に基づき必要とされる場合には、デジタル方式で日付および署名を付すことができること。

(e)一旦デジタルで日付および署名をした記録は、編集または変更を行えないこと。

(f)法律または下位規則に基づき更新が可能であり、更新の都度、更新日を記録することが可能であること。

特に議事録等の保存期間について、日本の会社法上で定められている10年間と比して、インドにおいてはすべての取締役会や株主総会の議事録を無期限で(会社解散まで)保存する必要があります。タイムスタンプとともに管理する等の規定に則った形で保存された電子文書は、紙媒体の文書と同等の法的地位と重要性を有することとなるため、必要に応じ、電子保存を有効に活用することが推奨されます。

 

[1] Registrar of Companies

[2] Memorandum of Association、Articles of Association

[3] Companies Act (Prospectus and Allotment of Securities) Rules, 2014

[4] Companies (Share Capital and Debentures) Rules, 2014

[5] Company (Registration of Charges) Rules, 2014

[6] Companies (Management and Administration) Rules, 2014

[7] Companies (Appointment and Qualification of Directors) Rules, 2014

[8] Companies (Meeting of Board and its Powers) Rules, 2014

[9] Secretarial Standard on Meetings of the Board of Directors(取締役会に関する会社秘書役基準、通称「SS-1」)規則8.1および、Secretarial Standard on General Meetings(株主総会に関する会社秘書役基準、通称「SS-2」)規則18.1

[10] 2014年の規則制定当初における、27(1)“Every listed company … shall maintain its records … in electronic form.”は、その後、”shall”から”may”に修正されているものの、e-Governanceの流れによる各種政策もあり、大企業には電子保存が強制はされないものの強く推奨されているといえます。

以上