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フィリピンにおけるSIMカードとソーシャルメディアの登録義務化について

2022年05月12日(木)

フィリピンにおけるSIMカードとソーシャルメディアの登録義務化についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

フィリピンにおけるSIMカードとソーシャルメディアの登録義務化

 

フィリピンにおけるSIMカードとソーシャルメディアの登録義務化

2022年5月
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士  栗田 哲郎
日本法弁護士   難波  泰明
フィリピン法弁護士  Cainday, Jennebeth Kae

第1      はじめに

 数年前から、フィリピンではSMSを利用した詐欺やソーシャルメディア荒らしが深刻化しています。

 SMSを利用した詐欺の多くは、大企業の懸賞に当選したという虚偽情報や、コロナ禍によるフィリピンの失業率悪化に乗じた実在しない仕事のオファーなどの偽情報を送信するものです。被害件数の増加を受け、国家プライバシー委員会(National Privacy Commission)はGlobe Telecom、Smart Communications、Dito Telecommunity、Lazada、Shopee、複数の銀行など、フィリピンの通信、銀行、電子商取引プラットフォームの主要企業のデータ保護責任者 (Data Protection Officers)に対し、最近急増している個人情報を悪用したスパムメールに対する防止策やさらなる対策について報告を求めました。

 また、Facebook、TikTok、Twitterなどで誤報やフェイクニュースが横行し、ソーシャルメディアへの関心が高いフィリピン国民の世論や政治的視点、情報に対する信頼性に大きな影響を与えています。そのためフィリピンは、組織的な情報操作の格好の標的とされています。

この状況に対応するため、フィリピン議会は、SIMカードとソーシャルメディアのアカウントを登録することを義務付けるSubscriber Identity Module (SIM) Card Registration Act(以下「SIMカード登録法案」という)を通過させました。これに対し、ドゥテルテ大統領は、2022年4月15日、拒否権を行使し、フィリピン議会に法案を差し戻しました。これを受け、多くの議員が法案を成立させるよう働きかけており、今後、両院の3分の2以上の賛成をもって同法案が成立する可能性があります(フィリピン憲法第6章第27条(1))。

 今後の成否が注目される同法案の主要なポイントは、以下の通りです。

第2 SIMカード登録法のポイント

 1 目的(法案第2条)

   本法案は、情報通信技術が国家の存立と成長、発展に不可欠であることを認識しつつも、これが濫用されることが国民の生命、財産、公衆及び国家の安全につながることから、SIMカードおよびソーシャルメディアのアカウントの登録を義務付け、SIMカードおよびソーシャルメディアの利用に対する社会的責任を促進するとともに、かかる不正利用を阻止し、解決することを目的としています。

 2 適用範囲(法案第3条)

   本法案は、SIMカードを購入するすべての自然人及び法人を対象としています。SIMカードは、IMSI番号を記録し、携帯電話の利用者を特定し認証するために使用するカードとされており、日本で言及される場合と同様です。

   他方で、ソーシャルメディアアカウントに関しては明確な定義づけがされておらず、その適用範囲は明確ではありません。

 3 SIMカードおよびソーシャルメディアアカウントの登録義務(法案第4条)

   本法案は、公共電気通信事業者(PTE:Public Telecommunications Entity)に対し、SIMカードの販売及び利用に供するにあたって、同法案に従って定められるガイドラインに沿ってSIMカードの登録をすることを義務付けています。また、全ての既存の加入者も、法律の施行日から180日以内にPTEに登録することが義務付けられ、登録しない場合、PTEはSIMカード番号及び登録を無効化することが可能とされています。

   また、ソーシャルメディアアカウントのプロバイダーも同様に、アカウント登録時にユーザーの実名と電話番号を使用することを義務付けています。

  登録情報の開示(法案第10条)

   本法案に基づいて収集されるユーザーの個人情報(氏名、生年月日、住所など)は、2012年個人情報保護法(Data Privacy Act)の規定に基づきPTE又はソーシャルメディアプロバイダーが開示義務を負う場合などのほか、第三者に開示することができないこととされています。

他方で、本法案は、登録情報の開示が許容される場合として、特定の携帯番号またはソーシャルメディアアカウントが犯罪または不正行為に利用されているとする告訴に対する捜査のために必要で、かつ利用者を特定できない場合を定めており、この場合、PTE又はソーシャルメディアプロバイダーはすべての責任を免れるとされています。また、かかる目的を達するため、PTE又はソーシャルメディアプロバイダーは登録情報を10年間保存することとしています。

  外国人のSIMカードの登録(法案第5e

   外国人がSIMカードを購入する場合、以下の登録が義務付けられます。

滞在期間30日以内の観光客については、パスポート及びフィリピン国内での滞在場所を証明する資料を提示の上、氏名、パスポート番号、滞在場所を登録する必要があります。

   就労者や学生などの滞在期間30日以上の滞在者に関しては、上記に加え、外国人登録証明書識別カード(ACRI-Card:Alien Certificate of Registration Identification Card)、および外国人雇用許可証(AEP:Alien Employment Permit)または学校のIDを提示する必要があります。

 罰則(法案第11条)

   本法案には罰則が定められており、違反の内容や行為態様、行為主体に応じて、1万ペソ以上100万ペソ以下の罰金または6年以上の懲役刑が科されます。

第3 最後に

 ドゥテルテ大統領は、当初の法案に含まれていなかったソーシャルメディアアカウントの登録については、十分な議論と明確な定義づけがされておらず、憲法が定める人権保障との兼ね合いでさらなる調査が必要であるとして、法案を差し戻しました[1]。他方で、今後、法案を修正のうえ、再度審議される可能性もあることから、引き続き、当事務所のニュースレターにおいてもアップデートをしていく予定です。

 

[1] https://pcoo.gov.ph/OPS-content/on-the-presidents-veto-of-the-proposed-sim-card-registration-act/