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フィリピンにおける中小企業を支援するためのフランチャイズ強化法について

2022年06月03日(金)

フィリピンにおける中小企業を支援するためのフランチャイズ強化法についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

フィリピンにおける中小企業を支援するためのフランチャイズ強化法

 

フィリピンにおける中小企業を支援するためのフランチャイズ強化法

2022年6月
日本法弁護士   難波  泰明
フィリピン法弁護士  Cainday, Jennebeth Kae
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士  栗田 哲郎

第1      はじめに

 フランチャイズ産業はフィリピンのビジネスの中で比較的大きな割合を占めています。フィリピン統計局 (PSA: Philippine Statistics Authority)のデータによると、フィリピンの企業の約99.5%が中小企業(MSME:Micro, Small and Medium Enterprises)であり、実にそのうち68%がフランチャイズ産業に関係しています。

 このような状況を踏まえ、政府は、フランチャイズ産業が、雇用機会の創出、消費の活性化、観光の促進など、国の経済を維持する上で極めて重要であると位置づけています。そのため、政府は、透明でビジネスに適した環境を整備し、公正・公平な慣行を促進することによりフランチャイズ業界を強化し、中小企業を中心とした企業を支援するための取組みを強化しています。

 大統領令第169号「中小企業保護のためのフランチャイズ産業の強化令」(Executive Order No. 169、以下「本大統領令」または「E.O. 169」という)が署名される以前は、フィリピンでは貿易産業局(Department of Trade and Industry、以下「DTI」という)令第10-24号と知的財産に関する関連法を除き、フランチャイズ事業を規制する法律は存在しませんでした。数年前に、フランチャイズビジネスを規制する法案が議会に提出されましたが、法律として成立しませんでした。このE.O. 196の制定が、フランチャイズ業界を規制する法律の制定を促すきっかけになるかもしれません。

 本大統領令のポイントは、以下の通りです。

第2 中小企業保護のためのフランチャイズ産業の強化令のポイント

 1 本大統領令の適用対象

   E.O.169は、以下の定義により、その適用対象を定めています。以下の定義を参照しながら、それぞれの契約が本大統領令の適用対象となるかご確認ください。

 (1) フランチャイズとは、フランチャイザーとフランチャイジーとの間で結ばれる契約で、以下の内容を含むものとして定義されています。

  (i) フランチャイザーが、フランチャイジーに対して、定められた一定期間、フランチャイズシステムに従って事業を運営する権利を与えるもの
  (ii)フランチャイザーが、フランチャイジーに対し、フランチャイザーの商標、営業秘密、秘密情報または知的財産を使用する権利を与えるもの
  (iii)フランチャイザーが、フランチャイズシステム上、フランチャイズ期間中、フランチャイジーの事業運営の管理権を有するもの
  (iv)フランチャイジーが、上記の権利の対価として一定の手数料などを支払うもの

 (2) フランチャイズ契約とは、フランチャイザーとフランチャイジー間の書面での契約であって、前者が後者に対し、一定の対価を得て、マーケティング制度、技術供与契約の下で商品やサービスを提供、販売または流通する事業に従事する権利を付与するものと定義されています。ここでの権利には、契約に別段の定めがない限り、特定の事業に関連する商標、サービスマーク、商号・事業名、ノウハウ、ロゴタイプの広告またはその他の商業上のシンボルの使用が含まれます。

 (3) E.O.169では、中小企業の分類として、以下のように中小企業基本法(R.A. 6977[1])改正前の分類が用いられています。

  (i)マイクロ :50,000ペソ未満
  (ii)コテージ :50,001~ 500,000ペソ
  (iii)小企業 :50,001~500,000ペソ
  (iv)中堅企業:5,000,001~20,000,000ペソ

  なお、中小企業基本法(R.A. No. 6977)はその後に導入された改正[2]により、現在は以下のように大きく変更されています。

  (i)マイクロ               :3,000,000ペソ以内
  (ii)小企業 :3,000,001~15,000,000ペソ
  (iii)中堅企業               :15,000,001~1,000,000,000ペソ

 このような改正が、政府や関連機関によってどのように適用され、処理されるかは、まだ明らかではありません。

 2 中小企業とのフランチャイズ契約の遵守事項

 (1) 公証の必要性

   E.O.169は、フランチャイザーとフィリピン国内の中小企業のフランチャイジー間で締結されるすべてのフランチャイズ契約は、書面で締結され、かつ、公証されなければならないとしています。

 (2) フランチャイズ契約の必要記載事項

   また、E.O.169は、フィリピン国内のフランチャイザーと中小企業フランチャイジー間のフランチャイズ契約の必要記載事項を定めており、以下の規定を含まなければならないと定めています。

  ・フランチャイズの対象となる製品またはサービスの名称および詳細
  ・商標またはその他の登録知的財産権を使用する権利など、中小企業フランチャイジーに付与された具体的な権利の内容
  ・フランチャイズ料、販売促進料、ロイヤルティ料、その他関連する料金など、フランチャイジーに課される可能性のある契約前、契約締結時、定期的な全ての費用の開示
  ・支援の種類と詳細の列挙、およびDTIへのフランチャイズ契約の提出を含むフランチャイザーの責任の詳細
  ・中小企業フランチャイジーの責任の詳細
  ・差別禁止規定
  ・フランチャイズの期間および更新の条件
  ・フランチャイズ契約の事前解約、解除、期間満了の効力と原因
  ・中小企業に契約解除の選択肢として与えられるクーリングオフ期間の規定
  ・当事者の任意で2004 年ADR法(A. No. 9285、「Alternative Dispute Resolution Act of 2004」)に基づく調停により紛争を解決する旨の紛争解決条項
  ・フランチャイズ契約の条件に違反に対する救済措置

   また、中小企業以外のフランチャイジーとの契約においても、上記の必要記載事項を可能な限り規定することが求められます。

   E.O.169は、これらの必要記載事項を満たしたフランチャイズ契約に関して、フランチャイザー対して、政府がインセンティブまたは利益を提供することとしており、DTIが関連規定を整備することとしています。

 

3 フランチャイズ契約の登録義務

  フランチャイザーは、DTIが作成する中小企業フランチャイズ契約登録簿にフランチャイズ契約を登録することが義務付けられます。中小企業フランチャイズ契約登録簿には、上記の必要記載事項に定める契約条件を含んだフランチャイズ契約のみが登録可能となっています。

正規に登録されたフランチャイズ協会に加盟したフランチャイザーは、中小企業フランチャイジーとのすべてのフランチャイズ契約において上記の必要記載事項を含むことを約したうえで、標準フランチャイズ契約を登録することができます。

  他方で、正規に登録されたフランチャイズ協会に加盟していないフランチャイザーは、中小企業フランチャイジーとのすべてのフランチャイズ契約を締結後30日以内に登録する必要があります。

 その他

 (1) フランチャイザーは正式に登録されたフランチャイズ協会への加盟が奨励され、フランチャイズ事業を行おうとする中小企業はフランチャイズ協会に所属するフランチャイザーと取引することが奨励されます。
 (2) 中小企業とすでにフランチャイズ契約を締結しているフランチャイザーは、中小企業フランチャイジーとの各フランチャイズ契約の更新時に、O. No.169に定められた要件を遵守しなければなりません。
 (3) 本大統領令には罰則が定められていません。

第3 最後に

 フランチャイズ事業を営む事業者の中には中小企業に該当するものも多く含まれると思われますが、フィリピンでは、払込資本金が20万ドル以下の中小企業については外資規制がかけられています。したがって、外国企業が中小企業のフランチャイズ事業を経営する場合、20万ドル以上の資本金を払い込むか、または資本金10万ドル以上で、かつ外国投資法が定める特別な場合である必要があり、その場合でも、フランチャイズ事業に従事する企業として、E.O.196に従う必要があります。

 また、E.O. 196施行から90日以内にDTIからガイドラインが公表されることとなっていますので、こちらの動向も注視する必要があります。

 引き続き、当事務所のニュースレターにおいてもアップデートをしていく予定です。

[1] Republic Act No. 6977, Magna Carta for Small Enterprises

[2] Sec. 3, R.A. No 6977, Magna Carta for Micro, Small and Medium Enterprises (MSMEs), as amended by R.A. 8289 and R.A. No. 9501