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ベトナム 労働法関連トピック 首相が労働者と対話

2022年07月13日(水)

ベトナム 労働法関連トピック 首相が労働者と対話についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

ベトナム 労働法関連トピック 首相が労働者と対話

 

<ベトナム 労働法関連トピック 首相が労働者と対話>

2022年7月13日
One Asia Lawyers ベトナム事務所

1 概要

 2022年6月12日、ファン・ミン・チン首相は、ベトナム北部の都市Bac Giang(バクザン)省において、工場労働者との対話を行いました。対話は、Bac Giang省の会場と全国63省市をオンラインで結ぶ形で実施され、計4,500人の工場労働者が参加したとされます。首相と労働者との対話は、今後の労働法改正に影響を与える可能性があるため、法令改正を先取りして理解する趣旨で、労働者からどのような声が上がったのかを今回紹介いたします。

2 労働者の関心が高い10の問題

 今回の対話を実施するにあたり、全国の労働組合を統括するベトナム労働総同盟(VGCL)は、政府に対する意見、質問、要望等を募集し、労働者から合計約1万件近くの意見が寄せられました。今回の対話の議題は、この意見の中から、労働者の関心が高いと考えられる次の10の問題に集約し、設定されました。

 1.最低賃金の引き上げ、生活に十分な給料の支給(給料・賃金)
 2.社会保険法の全面改正、無年金者が発生する社会保険の一時金引き出しの抑制(社会保障)
 3.工場労働者支援制度・政策の運用にかかる問題の解決(ワーカー支援)
 4.工業団地を中心とする工場労働者向けの幼稚園、学校、診療施設、文化施設の整備(養育・教育・医療)
 5.工場労働者に対する融資制度、ヤミ金融を利用しなくて済む融資制度の整備(融資)
 6.職業訓練、第4次産業革命に適応できる職業レベル・技能の向上(職業訓練・技能向上)
 7.使用者の法令違反に対する検査・監視・処罰の強化(使用者の違反行為)
 8.工場の食堂や市場(いちば)における食品の安全衛生の確保(食・健康)
 9.職場、工場労働者の住まい、工業団地における治安、交通安全の確保(治安・交通安全)
 10.下宿における家賃、電気代、水道代の不合理な値上げ、教科書の値上げ、戸籍登録が無いことにより工場労働者の子供の通学に支障が生じている問題(生活費・教育)

3 法令改正への影響

 ベトナムは共産党一党支配の社会主義国家ですが、世論、民意を重視し、これらが法律の制定・改正に大きく影響しています。実際に、現行の2014年社会保険法は、国会で法律が成立した後の2015年に、一時金の取り扱いに関する規定について外資工場で大規模なストライキが発生し、当該規定をほぼ成立前の状態に戻す部分改正が行われ、更に2018年には、経済特区法案で定める最長99年の土地使用権を与える規定が乱用されかねないと激しい抗議デモが発生し、法案採択が見送られたこともあります。

 近年ベトナムでは、法令の制定・改正にあたってパブリックコメントもしっかり実施されるようになりつつあり、ベトナム政府ができるだけ、民意、世論を汲んだ法整備をしようとしている姿勢がうかがえます。

 今回、首相はじめ対話に参加した政府関係者らは指摘された問題点を解決、改善していくことを約束しており、具体的にどのような形で実現するかは不透明ではあるものの、上記対話の議題に関する分野について、労働者に有利な方向で改正がなされることが予測されます。

上記議題に関して現地法人運営上の懸念がある場合に、事前に検討を行った上、仮に法令が改正された場合であっても、速やかに対応ができるよう備えておくことが重要となります。また、日系企業、特に製造業においてベトナム人労働者をどのようにリテンションするかということが課題として挙げられることが多くなってきていることから、上記の点を解決できるような制度設計とすることで、労働者にとって魅力的な労働環境を提供することにつながり、安定した雇用を実現することもできるのではないでしょうか。

以上