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マレーシア外国為替規制の基本概念について

2022年07月13日(水)

マレーシア外国為替規制の基本概念についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

マレーシア外国為替規制の基本概念

 

マレーシア外国為替規制の基本概念

2022年7月
One Asia Lawyers Group
日本法弁護士 橋本有輝
マレーシア法弁護士 Clarence Chua Min Shieh

1.はじめに

コロナが収束に向かいグローバルな市場が拡大するにつれ、海外への投資意欲は再び強まってきています。とはいえ、この投資意欲を実現するためには、対象国への調査が欠かせません。この中で投資家が最も初めに直面する規制は、外国為替(foreign exchange)に関する規制です。それゆえ、投資家は、投資を検討するにあたって外国為替に関する規制をよく調査する必要があります。本稿ではマレーシアにおける外国為替に関する規制であるForeign Exchange Notices (“FE Notices”)[1]について概観します。

2.FE Noticesの背景

FE Noticeは、Bank Negara Malaysia (マレーシア中央銀行)が発行する外国為替に関する基準です。また、このFE Noticesは、Financial Services Act 2013[2]に基づくマレーシア中央銀行の権限の下発行されているため、法律と同等の効果を有しています。

このFE Noticeは以下の通り8つあります。

a) Interpretation;
b) Notice 1: Dealings in Currency, Gold and Other Precious Metals;
c) Notice 2: Borrowing, Lending and Guarantee;
d) Notice 3: Investment in Foreign Currency Asset;
e) Notice 4: Payment and Receipt;
f) Notice 5: Securities and Financial Instruments;
g) Notice 6: Import and Export of Currency; and
h) Notice 7: Export of Goods

(a)のInterpretation通知は、他のFE Noticeにおける様々な用語の定義を規定したものです。

同通知によれば、非居住者(“non-resident”[3])とは、①居住者でない者(any person other than a resident)、②Resident Companyの海外支店(overseas branch)、海外の子会社(subsidiary)、駐在員事務所(representative office)等、③ マレーシア人ではあるものの国外で永住権を有し現に国外に居住する者を意味します。

他方、居住者( “resident”[4])は次の通り定義されています。

a) マレーシア国民(但し、上記③を除く)
b) 非マレーシア国民であり、マレーシアで永住権を有し、かつ、マレーシアに居住する者
c) マレーシアにおいて設立された法人、マレーシア当局に登録された又は承認された法人
d) マレーシア当局に登録された又は承認された法人化されていない団体又は
e) 政府、州政府

3.マレーシア国内にある子会社の資金調達の範囲

本項では、FE Noticeが、どのように海外にある本社等(以下“本社”)からマレーシア国内にある子会社等(以下“現地法人”)に対する資金移動を規定しているのかに焦点を当てます。これは、外資系企業が経験する最も可能性の高いシナリオであり、通常、設立間もない子会社が本社からの支援を必要とする場合が多いためです。

FE Notice 2は借入、貸付及び保証に関する原則を規定したもので、現地法人は、マレーシア国内で資金を利用する目的で、マレーシア中央銀行の承諾を得ずに、マレーシア・リンギット(“RM”)建てで、現地法人と同じグループ内の“非居住者”から、RM1,000,000まで借入を行うことが出来ると規定されています(なお、海外の金融機関からのリンギット建ての借入は不可)[5]。ただし、上記借入がReal Sector Activityを使途とする借入[6]や転換可能優先株式の発行に伴う送金であれば[7]、本社から制限なく借入を行うことができます。

ここでいうReal Sector Activityとは、Interpretation通知によれば、以下の活動を指します。

 (a) 住宅用または商業用不動産の建設または購入(建設や商品・サービスの生産に利用されない土地の購入は除く)。
 (b) 商品又はサービスの生産又は消費に関する活動であって、次のものを除く。
 (i) イスラム教か否かを問わず、金融サービス部門における活動。
 (ii) 証券またはイスラム証券を購入すること。
 (iii) 金融商品またはイスラム金融商品の購入。

また、外貨建てであれば、現地法人は、本社から、金額の制限なく借入をすることが認められています[8]

すなわち、現地法人は、以下の金額を外国通貨で借り入れることができます。

 (a) 認可されたオンショア銀行から
 (b) 居住者のグループ内の非居住者(例えば本社)または居住者の直接の株主(ただし、第10項(b)又は第10項(c)に掲げる団体を除く)
 (c) 他の居住者に対する外貨建社債又はスクークの発行によるもの。後者による当該社債またはスクークの引受は、通知 3 に従うことを条件とする。

さらに、FE通達2第10項では、現地法人は、以下の主体から、合計1億リンギット相当まで外貨で借入をすることが認められてます。

 (a) 居住者のグループ外の非居住者。
 (b) 海外の金融機関
 (c) 非居住者特別目的事業体(NPV)で、居住者グループ外の主体から借入を行う場合

4.本社との間の金銭授受

本社から現地法人への送金については、さらに、FE Notice 4を参照する必要があります。

同通達では、一般論として、非居住者(すなわち本社)は、マレーシアで得た所得または発生した費用[9]について、他の居住者(すなわち現地法人)との間でリンギットによる支払いを行い、または支払いを受け取ることが認められる[10]と規定されています。FE Notice 4におけるこれら送金については、金額的な制限がないことに留意する必要があります。

さらに、本社のような非居住者投資家は、マレーシアでリンギット建て資産や外貨建て資産への投資を自由に行うことができ、マレーシアでの投資から生じる売却収入、利益、配当、所得を本国へ送金することができます。なお、本社への送金は外国通貨で行います[11]

5.結論

以上概観した通り、FE Noticeは、投資の流動性について明確な規制を可能としております。しかしながら、企業それぞれ外国為替の必要性やあり方が異なるかと存じますので、ここで取り上げていないFE Noticeの詳細をお知りになりたい、またより具体的なアドバイスが欲しい場合は、お気軽にお問い合わせください。

 

[1] https://www.bnm.gov.my/documents/20124/60360/Foreign+Exchange+Notices_Consolidated.pdf

[2] Section 140 and 214 of the Financial Services Act 2013

[3] Page 14, Interpretation FE Notice

[4] Page 15, Interpretation FE Notice

[5] Item 8, FE Notice 2

[6] Item 6, FE Notice 2

[7] Item 7, FE Notice 2

[8] Item9, FE Notice 2

[9] Item 2(b), FE Notice 4

[10] Item 2(c), FE Notice 4

[11] https://www.bnm.gov.my/fep