カンボジアにおける労働法上の労働者に対する年金制度の開始について
カンボジアにおける労働法上の労働者に対する年金制度の開始についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。
労働法上の労働者に対する年金制度の開始
2022年7月11日
2022年7月より、労働法上の労働者を対象とした年金制度が開始されました。
この年金制度は、2019年11月制定の新社会保障法、2021年3月4日の政令32号に基づき概要が決定されていたものですが、コロナ禍による企業運営の困難等を考慮し、施行が延期されていたものです。
年金制度の開始は本年7月1日からとされ(本年6月28日付け労働省・経財省共同省令165号)、年金保険料の支払開始は本年10月分から(11月15日が初回の支払期限)とされました(本年7月5日付け労働省令170号)。また、国家社会保険基金(NSSF)への登録および社会保険料支払いの詳細も定められました(本年7月5日労働省令168号)。
1.導入された年金制度
労働法に服する労働者、すなわち企業の従業員等を対象とした強制加入の年金制度です[1]。
国家社会保険基金(NSSF)が所管しており、NSSFに対し、使用者・従業員の双方が登録する必要があります。もっとも、既存の社会保険制度としては健康保険、労働災害保険があり、これらについてNSSFに登録済みの場合は、年金について別途の登録は不要です[2]。新規に雇用した従業員がNSSFに登録していない場合、使用者は、雇用開始後3日以内に登録させる必要があります。
2.年金保険料の算定・納付、関連事項
(1) 年金保険料の算定
年金保険料は、給与(基準給与額)に保険料率を掛けて算定することになります。
① 基準給与額
賃金および諸手当を含んだ各月の給与額(税引き前)になります(労働法上の賃金、同法103条1項)。
ただし、③の通り上限額と下限額があります。なお、この基準給与額は、年金・健康保険・労災保険の給付額の算定の場面でも使用されます。
② 保険料率
基準給与額の4%で、使用者と労働者の各2%均等負担となります。
当初5年間は固定ですが、6年目以降は8%に、その後は10年ごとに2.75%ずつ増額することが予定されています。
③ 下限額と上限額
保険料は、給与額にかかわらず、下限額と上限額があります。
【下限額】基準給与月額の下限額 :400,000リエル(約100USD)
→ 月額給与が400,000リエルを下回る労働者についての保険料:
400,000×4% = 計16,000リエル、労使各8,000リエル(計4USD、各2USD)
【上限額】基準給与月額の上限額:1,200,000リエル(約300USD)
→ 月額給与が1,200,000リエルを超える労働者の保険料:<
1,200,000×4% = 計48,000リエル、労使各24,000リエル(計12USD、各6USD)
(2) 年金保険料の納付
使用者は、自らの負担分と合わせて、労働者負担分の年金保険料を徴収し、合計額をNSSFに対し納付する必要があります。これは、健康保険・労災保険の保険料と同時に行うものとされ、各月のこれら保険料合計額について、翌月の15日までに納付することを要します。
納付方法は、銀行振込、インターネットバンキング等による支払いが可能です。
支払はクメールリエルにより行う必要があり、給与がUSドル等の外貨での支給の場合、中央銀行の平均レートに基づきNSSFが通知するレートに基づき換算し納付します。
また、各月、翌月の20日までに、NSSFに対して従業員数等の報告を行う必要があります。
(3) 社会保険料納付に関する変更点
従来、健康保険・労災保険の保険料について、実支給額ではなく賃金テープルに基づき計算するものとされていました。しかし、新省令にはこの賃金テーブルの記載が無く、実支給額ベースで計算することになると考えられます。
また、新省令では、NSSFに申請することで年度単位での一括納付ができるとされています。その場合、申請の翌月に当該年度分の保険料を一括で納付し、翌年初にNSSFが差異を調整するものとしています。もっとも、実務における詳細は現時点では不明です。
(4) 社会保険料金額の概要
年金に健康保険・労災保険とあわせた社会保険料金額は、以下の表の通りです。
|
使用者負担 |
従業員負担 |
健康保険 |
2.6% |
– |
労災保険 |
0.8% |
– |
年金 |
2% |
2% |
合計 |
5.4% |
2% |
下限額(人/月) |
約5.4USドル |
約2USドル |
上限額(人/月) |
約16.2USドル |
約6USドル |
3.年金制度に基づく給付
年金制度に基づく給付は、概要、次の表の通りです。
|
受給条件 |
支給額 |
老齢年金 |
年金登録されていること 最低60歳以上であること 12か月以上、年金保険料を支払っていること |
受給資格取得前の期間(最大120か月)の平均基準給与額 × 積算掛率(政令32号別表) |
障害年金 |
年金登録されていること 障害状態に陥る前に60か月以上、年金保険料を支払っていること |
受給資格取得前の期間(最大120か月)の平均基準給与額 × 積算掛率(政令32号別表) |
遺族年金 |
老齢年金または障害年金の受給資格のある者、または60か月以上保険料を支払ったNSSF加入者の死亡 遺族(配偶者、子)に対して支給 |
死亡した者の老齢年金または障害年金受給額の45% 配偶者・子に対して50%ずつ分割して支給(一方のみの場合100%) |
葬儀手当 |
老齢年金または障害年金の受給資格のある者の死亡 遺族年金の受給資格者または葬儀を手配した者に対して支給 |
5か月分の年金額 ただし、下限は2,000,000リエル(約500USD) |
以上
[1] 使用者が保険料の支払義務を負わない60歳以上の従業員等のための任意加入の保険制度も導入されましたが、本レターでは扱いません。
[2] 仮に登録していない場合は省令発布日の7月5日から、新規設立の企業・事業所の場合は労働省への事業所開設申告の時点から、30日以内に登録が必要となります。