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モロッコの投資規制と法制度について

2022年07月13日(水)

モロッコの投資規制と法制度についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

モロッコの投資規制と法制度

モロッコの投資規制と法制度

2022年7月13日
One Asia Lawyers 南西アジアプラクティスチーム[1]
インフラ輸出リーガルプラクティスチーム

2022年8月27日、28日のチュニジアでの開催がせまる第8回アフリカ開発会議「TICAD8」を前に、今回はアフリカ情報発信の第5弾として、同じ北アフリカ地域から、モロッコの各種投資規制と法制度を紹介して参ります。

ナイジェリアhttps://oneasia.legal/7141)、南アフリカhttps://oneasia.legal/7734)、エチオピアhttps://oneasia.legal/7938)、チュニジアhttps://oneasia.legal/8594)も公開しています。

【モロッコの概要】

国名

モロッコ王国

首都

ラバト

ISO国名コード

MAR、MA

面積

44.6万平方キロメートル(西サハラを除く)

人口

3,691万人(2020年)[2]

言語

アラビア語(公用語)、ベルベル語(公用語)、フランス語

民族

アラブ人(65%)、ベルベル人(30%)

宗教

イスラム教(国教)スンニ派等

政治体制

政体:立憲君主制

元首:モハメッド6世国王(1999年7月即位)

議会:二院制

政府

首相 サアディ・ディン・エル・オトマニ(2017年4月~)

外相 ナッセール・ブリタ(2017年4月~)

通貨

モロッコ・ディルハム(MAD)

会計年度

1月1日~12月31日

 

1.     地理[3]

モロッコは北アフリカに位置し、西は大西洋、北は地中海に面し、東はアルジェリアと国境を接している。海岸沿いは地中海性気候、内陸部は乾燥気候に属する。

モロッコの南に位置する旧スペイン領である西サハラ地域は、その主要部分を含む大部分が現在はモロッコの実効支配下にあるが、対抗するポリサリオ戦線が「サハラ・アラブ民主共和国(SADR)」樹立を宣言しており、これまで同地域の帰属を問う住民投票は度重なる延期の末に現時点まで実現しておらず、長年にわたり領土紛争が続いている。

なお、SADRは国連には未加盟であるもののアフリカ連合の正式加盟国であり、過去に約80ヶ国がその独立を承認しているが、承認取下げや停止を宣言する国もあり、現在は約40ヶ国が国家として承認している。他方、米国政府は2020年に旧西サハラの全領土に対するモロッコの主権を承認している。日本はSADRを国家と承認はしていないが、モロッコの西サハラ領有権も認めていない立場をとっている。国境・領土問題は依然としてモロッコの大きな外交課題であり国際問題でもあるため、企業においては事業計画等を地図上で示した資料を、外部、特に国外の関係者と共有する場合は、可能であればモロッコ全体の地図ではなく西サハラ地域との境はトリミングする、機微な名称は削除する、などの調整をしておくと無難と言える。

 

2.     人口

人口は3,691万人、生産年齢人口(15~64歳)は全人口の65.6%、失業率はコロナ禍前の9%台から11.5%(2021年)に悪化している[4]

 

【人口動態(1,000人)】[5]

1990

1995

2000

2005

2010

2015

2020

2,481

2,699

2,879

3,046

3,234

3,466

3,691

 

3.     国家・政治体制[6]

国家元首である国王が、首相および閣僚の任命権を有する(憲法47、48条)。また、軍の最高司令官であり、宗教上の最高指導者でもある(憲法53条、41条)。

チュニジアに端を発したアラブの春(チュニジアNL参照)の影響はモロッコにも及んだ。モロッコにおいては王政の転覆にはいたらず、政権崩壊となった北アフリカ諸国と比較すると、その影響は限定的ではあったものの、2011年2月から民主化を求める抗議運動は全国に拡大した。これを受け国王は、最初の大規模デモからわずか18日後に、憲法改正の意向を表明している。改正案では国王自身の権限縮小と首相の権限強化、権力分立の強化(立法権強化、司法の独立強化)等が提案され、国民投票では98%超の賛成を得て可決、2011年7月に新憲法が発布されている。

 

4.     法制度[7]

モロッコの法体系は、歴史的経緯からフランスの影響を非常に強く受けており、基本的には大陸法であるが、家族法や相続等に関してはイスラム法(シャーリア)が適用される。

ビジネスに関する主な法律には以下がある。

・1995年投資憲章

・会社法(「7.(2)進出形態」参照)

・労働法典に関する法律第 65-99号

 

5.     通貨・経済状況[8]

通貨は、1USドル=10.10MAD(2022年6月現在)。世界銀行の低中所得国(Lower middle income countries)に分類される。

主な経済指標と推移は以下のとおり。

 

 

 

 

指標

2017

2018

2019

2020

2021

名目GDP(10億USドル)[9]

109.7

118.1

119.9

114.7

132.7

1人当たり名目GDP(USドル)[10]

3,036

3,227

3,235

3,059

3,497

GDP成長率[11]

4.3%

3.1%

2.6%

▲6.3%

7.4%

 

2020年に6.3%GDP成長率は6.3%縮小したものの、2021年には7.4%に回復した。これは、世銀のレポートによると、2年連続した干ばつ後の穀物収穫により農業付加価値が増加したことや、マクロ経済政策、堅調な製造業輸出、送金の急増、COVID-19ワクチン接種の進捗などによるものとされている。

 

6.     産業

モロッコの主要産業は農業、水産業、鉱業(リン鉱石)工業、観光業である。麦、ジャガイモ、トマト、オリーブ等の農産物の生産に適した国土を有する農業国であり、重要な輸出品であるが、近年は工業化を図る政策やFDI誘致が推進されており、現在の輸出品は自動車、自動車部品(ワイヤーハーネスを含む)等が上位を占める。FDIの対象として、再生可能エネルギー、インフラ、自動車産業などが多く、産業の活性化が見られる。

主要な貿易相手国は、輸出入ともにスペイン、フランスである(2019年)[12]

産業ごとのGDP寄与率[13]は、農業が14%、工業が29.5%、サービス業が56.5%(2017年)と、同じマグリブのチュニジアと類似した産業構成となっている。

 

7.     外国投資

モロッコはヨーロッパに近く、労働コストが比較的低いこともあり、2020年時点で70社の日本企業が拠点を設けており、南アフリカ(268社)、ケニア(89社)に次いでアフリカでは第3位の進出先となっている[14]

世界銀行の「Doing Business 2020」[15]では世界190カ国中53位であり、2019年からは7位、過去10年間では75位順位を上げている。会社形態のうち最も多い有限会社(S.A.R.L)の最低資本金要件の撤廃(2011年以降)、ワンストップ窓口での事業登録の簡素化など、投資促進策が奏功してきていると言える。Doing Business 2020の国別レポート[16]によると、起業までの手続き所要日数は9日間(チュニジアと同日数)と、中東・北アフリカ地域平均の19.7日間を大きく下回り、起業における手続数は4と、OECD高所得国平均の4.9をも下回る。

モロッコは、EU・モロッコ連合協定を締結しており(2000年発効)、日本企業がモロッコで製造し、EUに輸出する際には非課税・低課税の恩恵を受けうる。

また、モロッコはアフリカで唯一、米国と自由貿易協定(FTA)を結んでおり(2006年発効)、工業製品等の95%以上について関税が撤廃されている。

なお、日本とモロッコ間においては、租税条約と投資協定が、2022年4月23日に発効している[17]

モロッコにおける投資促進機関はモロッコ投資開発庁[18]であり、2020年にはJapan Desk[19]が設置された。

会社設立手続きは、全国12カ所に設置されている地方投資管理センター[20](CRI)がワンストップ窓口として機能している。

 

  • 投資規制

投資に関わる主要な法律である「1995年制定投資憲章」[21]上、農業やリン鉱石関連分野を除き、自由に外国投資が認められている。外国投資における出資比率も規制はなく、100%出資が可能である。

 

利益送還

投資憲章16条において非居住者の利益と資本の自由な本国送還が規定されており、外国人・外国企業は、モロッコに投資を行って得た利益を、自由に外国に送金することができる。譲渡や清算による資金や、キャピタルゲインも含まれる。

 

  • 進出形態

モロッコの会社法[22]では以下のような会社形態が規定される。

  • 有限責任会社(société à responsabilité limitée: S.A.R.L.
  • 株式会社(société anonyme:A.)
  • 簡素型株式会社(Société par Actions Simplifiée:A.S.)
  • 合資会社(société en commandite simple)
  • 株式合資会社(société en commandite par actions)
  • 持株会社(société en participation)
  • ジェネラル・パートナーシップ(société en nom collectif)

外国企業がモロッコに進出する際には一般的に有限会社、株式会社、簡素型株式会社の形態がとられている。

 

有限責任会社

株式会社

簡素型株式会社

最低払込資本金額

設定なし

30万ディルハム(約400万円)※公開会社は300万ディルハム

30万ディルハム

出資者

1人以上50人以内※50名超は公開有限会社への変更が必要

5人以上

200万ディルハム(外貨可能)以上を所有する法人2社以上

経営

代表1名を任命。経営形態は定款の定めによる

代表(社長)が率いる経営陣(執行役会)、または取締役会による経営。取締役会を設置する場合は3~12人

代表(社長)1名を任命。経営形態は定款の定めによる

 

  • 土地に関する規制

外国人による土地の所有は認められている。農地に関しては外国人による所有は禁じられているが、最長99年間までのリースは可能である。農業分野への事業投資に際しては、長期リース契約を行うなどして農地を使用することとなる。

 

  • 労働関連法規

民間部門における労働関連の主な法律には「労働法典に関する法律第 65-99号(王令No. 1-03-194 of 14 rejeb(2003年9月11日))[23](以下「労働法典」)があり、主な規定は以下のとおりである。

【雇用比率】

外国人と現地人の雇用比率や雇用義務について法律上の規定はない。

 

【雇用形態】

雇用契約には、無期(durée indéterminée)、有期(durée déterminée)、特定職務を行うための雇用契約(accomplir un travail déterminé)の3形態がある。

このうち、有期雇用契約は、以下の場合に認められる。

ア)従業員の雇用契約が停止された場合の代替要員(ストライキによる場合を除く)

イ)企業活動の一時的な増加

ウ)季節労働の場合

雇用契約の書面による締結は必須ではないが、書面で締結した場合は、管轄当局の認証を受ける必要がある(同法第15条)。

【労働時間・時間外労働等】

労働時間は週44時間、時間外労働手当は給料の25%(21時から6時の間の時間外労働は50%)が支払われる。時間外労働が週休日(週休二日制)であった場合は、それぞれ50%、100%の手当支払いが必要となる。

 

【契約解除・解雇】

無期契約の従業員を解雇する場合、正当な理由とその根拠があり、所定の解雇手続きを踏む必要がある。同法上に規定される解雇の種類は以下の2とおりのみであり、また、いずれの場合も不当解雇であるとして訴訟に持ち込まれた際の立証責任は使用者側にある。

1)従業員本人を原因とする解雇(同一年内の4回超の懲戒処分、および、重大な不正行為のみが該当)

2)会社の経済的理由による解雇(人員整理)

期間に加え、被雇用者は以下の補償金を受け取る権利を有する

以上

[1] インド等経由でのアフリカ進出のご相談や、海外インフラプロジェクトに関する相談が増えてきているため、南西アジアプラクティスチームおよびインフラ輸出リーガルプラクティスチームが共同して、アフリカに関する情報発信を行っています。

[2] 国連世界人口推計 2019年 https://population.un.org/wpp/Download/Standard/Population/

[3] 外務省、在モロッコ日本大使館、国連広報センター、米国政府報道資料、アフリカ連合

[4] 世界銀行 https://data.worldbank.org/indicator/SL.UEM.TOTL.ZS?locations=MA

[5] 国連世界人口推計 2019年

[6] モロッコ憲法、外務省、在モロッコ日本大使館、CIAファクトブック、報道記事等

[7] モロッコ憲法、CIAワールドファクトブック、外務省等

[8] 世界銀行、外務省、JICA、JETRO、報道記事等

[9] 世界銀行 https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.MKTP.CD?locations=MA

[10] 世界銀行 https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.PCAP.CD?locations=MA

[11] 世界銀行 https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.MKTP.KD.ZG?locations=MA

[12] CIAワールドファクトブック

[13] CIAワールドファクトブック

[14] 外務省 海外進出日系企業拠点数調(2020年調査結果) https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page22_003410.html

[15] 世界銀行 https://www.doingbusiness.org/en/reports/global-reports/doing-business-2020

[16] 世界銀行 Economy Profile Tunisia Doing Business 2020:

https://www.doingbusiness.org/content/dam/doingBusiness/country/m/morocco/MAR.pdf

[17] 外務省2022年3月25日付報道発表https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press3_000775.html

外務省2022年3月25日付報道発表https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press3_000776.html

[18] 仏Agence Marocaine de Développement des Investissements et des Exportation: AMDIE|英Moroccan Investment and Export Development Agency

[19] Japan Desk E-mail:japandesk@amdie.gov.ma

[20] 仏Centres régionaux d’investissement:CRI|英Regional Investment Center

[21] Loi-cadre n°18-95 Charte des investissements

[22] Loi n° 17-95 relative aux Sociétés anonymes

Loi n° 5-96 sur la société en nom collectif, la société en commandite simple, la société en commandite par actions, la société à responsabilité limitée et la société en participation

[23] Dahir n° 1-03-194 du 14 rejeb (11 septembre 2003) portant promulgation de la loi n° 65-99 relative au Code du Travail