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マレーシアにおける民事裁判(制度の概要)について

2022年09月12日(月)

マレーシアにおける民事裁判についてニュースレターを発行いたしました。 PDF版は以下からご確認ください。

マレーシアにおける民事裁判 ~制度の概要~

 

マレーシアにおける民事裁判(1) <style=”text-align: center;”>~制度の概要~

2022年9月 <style=”text-align: right;”>One Asia Lawyers Group <style=”text-align: right;”>マレーシア担当 <style=”text-align: right;”>日本法弁護士   橋本  有輝 <style=”text-align: right;”>マレーシア法弁護士  Clarence Chua Min Shieh

1.はじめに

現代では、多くの個人や企業が海外に進出するようになっている。海外進出においては、その国の社会制度を理解することが重要な要素となる。

進出先において、法的リスクとどう向き合うかという意思決定を合理的に行うには、当該国において、紛争解決制度がどのように機能しているかを理解することが肝要である。そこで、筆者は、何稿かに分けてマレーシアの訴訟制度の概要を説明し、上記合理的意思決定の一助とすることを企図し、大要、以下のテーマについて説明することとした。

 ・マレーシアにおける訴訟とはどのようなものか。  ・いつに法的措置を取るべきか。  ・誰が、誰に対して、そのような行為を追及できるのか。  ・どこに提訴するのか。  ・法的措置はどのように行うのか?

本稿では、この議論の土台として、上記の内、上から4つまでを概観する。残りの点とその具体的なポイントについては、このシリーズの他の部分で詳しく説明することとする。

2.法的措置は何を根拠にするのか?

まず、一連の説明を行う前提として、当事者が裁判を起こしうる原因、すなわち請求原因(cause of action)について見ておくことが重要である。

この言葉が示すように、請求原因とは文字通り、訴訟が行われる原因を意味する。具体的には、請求原因は、訴えることのできる者と訴えられるべき者が存在し、かつ、原告の請求が成功するために立証すべき重要な事実がすべて存在している場合にその成立が認められる[1]

3.訴訟はいつから可能か?

訴訟を検討している者は、民事訴訟のタイムラインを常に意識しておく必要がある。

例えば、時効の問題がある。契約上または不法行為上の紛争に関与した者は、通常、請求原因が生じた日から6年以内に提訴することが要求される[2] 。2022年に欠陥のある商品を購入した場合、損害を受けた顧客は、当該商品の欠陥に関する請求を行うために最長6年(つまり、遅くとも2028年)以内に提訴する必要がある。

但し、請求原因発生後に、承認行為があれば、時効期間をリセットすることができる[3] 。例えば、上記例の供給者が2023年に欠陥を認め、欠陥の無い商品を提供すると約束した場合、制限期間は2029年に延長される(2023年から6年間)。なお、被告がマレーシア政府である場合、その場合の時効期間は、代わりに3年間となる [4]

4.当事者適格

訴訟においては、訴える側を原告(Plaintiff)と呼び、訴えられる側を被告(Defendant)と呼ぶ。

ここでいう原告と被告は、適切な法人格を有する必要がある。最も一般的なのは、生存する個人と会社であり、逆に言えば死亡した者や法人格のない団体を原告・被告とすることは出来ない。

また、複数の当事者がいる場合や複数の当事者の行為により生じた事象が請求原因を構成する場合、複数の原告・被告が関与する場合もある。複数の原告が参加する場合は、クラスアクションと呼ばれることが一般的である。

以上につき、若干の留意点を述べる。

一つは、個人事業主(sole proprietorship)である。個人事業主は、(日本と同様、)一人の個人によって所有され、実行されている事業の一形態である。個人事業主を運営する人は、自分の名前の下に他人に対する訴訟を提起する必要がある[5]。個人事業主となることは、別人格を作り出すわけではないからである(なお、マレーシアにおいては、個人事業主は登記所にその名称等が登記されている。)。ところが、個人事業主が被告として訴えられる場合については、自分の名前またはビジネス上の名称で訴えられることが認められている。

もう一つは、パートナーシップ(partnership)である。パートナーシップは、ビジネスのうち、2人以上によって利益を作るために行われているビジネスとして定義されている[6] 。このパートナーシップについては,彼らは団体名の名で訴えを提起しなければならず,彼らに対する訴訟は当該団体に対して提起されなければならない[7]。ただし、これは、最近導入された有限責任パートナーシップ(limited liability partnership)と混同してはならない。このようなパートナーシップは、別の法人として扱われるからである[8]。この場合は、通常の会社のように訴え、訴えられることになる。

5.当事者はどこに訴えればいいのか?

当事者と訴因が確認されたら、次はどの裁判所が訴訟手続を開始するのに適した法廷であるかを決定することになる。

請求額がMYR 0からMYR 100,000.00の場合、請求は治安判事裁判所(Magistrate Court)に提出される[9]

請求額がMYR 100,000.00からMYR 100万の場合、訴訟手続きは初級裁判所(Sessions Court)で開始される[10]

請求額がMYR100万を超える場合は、高等裁判所(High Court)に提訴する必要がある。

マレーシアの法制度は、2段階の上訴制度をとっており、事件が治安判事裁判所または初級裁判所で審理された場合、上訴はまず高等裁判所で審理され、2度目の上訴がなされた場合には、控訴裁判所(Court of Appeal)で審理されることになる。高等裁判所で審理が始まった場合、上訴はまず控訴裁判所で審理され、2回目の上訴がなされた場合は、連邦裁判所(Federal Court)で審理される。なお、連邦裁判所は、国の最高裁判所である。

以上とは別に裁定や仲裁など、裁判によらない紛争解決の手段もあることに留意する必要があるが、これらについては別稿に譲ることとする。

6.結論

以上、マレーシアの訴訟制度がどのように運営されているか、その概要をご理解頂けたかと思います。次回は、実際の訴訟プロセスをより深く掘り下げていきます。上記トピックについてもっと知りたい方は、お気軽にお問い合わせください。

[1]Lim Kean v Choo Koon [1970] 1 MLJ 158

[2] Limitation Act 1953第6条

[3] Limitation Act 1953第27条

[4] Public Authorities Protection Act 1948第2条

[5]2012年裁判所規則Order 77 Rule 9

[6] Partnership Act 1961第3条1項

[7] 2012年裁判所規則Order 77 Rule 1

[8] Limited Liability Partnership Act 2012第3条、第4条

[9] Subordinate Courts Act 1948  第90条

[10] Subordinate Courts Act 1948第65条(1)