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日本における区分所有法制の見直しについて

2022年10月11日(火)

日本における区分所有法制の見直しについてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

日本:区分所有法制の見直し~分譲マンション等の管理円滑化に向けて~

 

日本:区分所有法制の見直し~分譲マンション等の管理円滑化に向けて~

2022年10月11日
One Asia Lawyers Group
弁護士法人One Asia
弁護士 江 副    哲
弁護士 川 島  明 紘

1. はじめに

  本年9月12日、老朽化した分譲マンション(区分所有建物)の建替えや修繕の促進、今後想定される大規模な災害への備えといった観点から、区分所有法制の見直しに向けた検討が法制審議会に諮問されました。

2 法制審議会における検討状況

 ⑴ 現在の課題

   区分所有法制の見直しが求められるに至った背景には、①老朽化した区分所有建物の急増、②区分所有者の高齢化に伴い、相続等によって所有者不明化、非居住化が進行することへの懸念があります。令和3年末時点で築40年を超える区分所有建物は116万戸、20年後には425万戸まで増加すると見込まれており、これらの建替えや修繕が必要となってきます。しかし他方で、建替え等における区分所有建物の意思決定は決議要件が厳格で、区分所有建物の管理不全や、老朽化した区分所有建物の再生が困難になると指摘されています。更に、所在不明な区分所有者がいる場合には、決議においてこれら区分所有者は反対者と扱われるため、決議に必要な賛成数を得るのがより困難となります。

   このような背景から、区分所有建物の管理・再生を円滑化に向けた区分所有法制の見直しが喫緊の課題として求められています。

⑵ 検討されている改正内容

  法制審議会では、大きく①区分所有建物の管理の円滑化を図る方策、②区分所有建物の再生の円滑化を図る方策、これらに加えて③被災区分所有建物の再生の円滑化を図る方策が検討されています[1]

 ア 区分所有建物の管理の円滑化を図る方策

   具体的には、以下のような方策が検討されています。

(法制審議会第196回会議配布資料「区分所有法制の見直しについて」より抜粋)

   所在等不明の不在者所有の土地・建物(いわゆる所有者不明土地・建物)については、新たに財産管理制度が新設されておりますが(令和5年4月1日施行)、同制度は区分所有建物の専有部分及び共有部分には及ばないため、上記のような新たな制度設計が必要となります。もっとも、不在者所有不動産に関する規律として、両制度の整合性・調和の検討も必要となってくるところです。

 イ 区分所有建物の再生(建替え等)の円滑化を図る方策

   区分所有建物の再生(建替え等)についても、以下のような方策が検討されています。

(法制審議会第196回会議配布資料「区分所有法制の見直しについて」より抜粋)

  建替え決議の多数決要件の緩和に当たって、耐震性不足等の一定の客観的要件を満たすことを条件とする場合、その客観的要件をどのように策定するかが課題となります。過去には、建替え要件として建物の老朽、費用の過分性といった点が考慮されていましたが、要件該当性判断が難しく、現在では多数決要件のみ定められるに至っており[2]、従前の改正経緯も踏まえた明確な要件策定が求められるところかと思われます[3]

ウ 被災区分所有建物の再生の円滑化を図る方策

  上記のとおり、今後老朽化する区分所有建物が増加することを踏まえれば、災害による被害も増加することが懸念されるため、被災区分所有建物の再生円滑化に向けた下記のような検討は、喫緊の課題といえます。

(法制審議会第196回会議配布資料「区分所有法制の見直しについて」より抜粋)

3 まとめ

  区分所有建物を巡っては、上記のような区分所有建物の管理・再生についての課題解決に加えて、その処分の文脈においても、区分所有者に所在不明者が含まれる場合等に多数の問題が絡んでおり、権利関係が複雑化し、所有者が高齢化する日本の社会構造も踏まえた法令整備が求められています。

以上

 

[1] 被災した区分所有建物についても、被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法(被災区分所有法)に基づく決議の時的制限、厳格な建替え等の要件から円滑な復興を困難にしているとして、決議等の多数決要件の緩和、決議可能期間の延長が検討されています。

[2] 旧区分所有法(平成14年改正前)では、建替え決議について「老朽、損傷、一部の滅失その他の事由により、建物の価額その他の事情に照らし、建物がその効用を維持し又は回復するのに過分の費用を要するに至ったとき」との要件がありましたが、その要件該当性判断が難しく、現区分所有法では要件として廃止されています。

[3] 従前要件とされていた老朽化、費用の過分性については、それぞれ「建物としての物理的効用の減退」、「当該建物価格その他の事情に照らし、建物の効用維持回復費用が合理的な範囲内にとどまるか否か」により判断する(大阪高裁平成12年9月28日判決)等とされておりました。