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フィリピンにおけるTelecommuting Actおよび同法施行規則について

2022年10月21日(金)

フィリピンにおけるTelecommuting Actおよび同法施行規則についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

フィリピンにおけるTelecommuting Actおよび同法施行規則

 

フィリピンにおけるTelecommuting Actおよび同法施行規則

2022年10月
日本法弁護士   難波  泰明
フィリピン法弁護士  Cainday, Jennebeth Kae
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士  栗田 哲郎

1 はじめに

 フィリピンは公共交通機関が発達しておらず、交通渋滞が激しいことでよく知られており、通勤する労働者にとって在宅勤務は働きやすい労働環境を整備する良い選択肢として期待されています。

 フィリピンのTelecommuting Act(在宅勤務法、 Republic Act No.11165、以下「Telecommuting Act」という)は、2018年に成立しました。同法は、労働者が重要な社会経済資源であることに鑑み、労働者の権利を保護しつつ、在宅勤務などの柔軟な労働環境の提供を可能にする新しい代替的な技術革新が生まれたことを踏まえ、労働者福祉を促進するために制定された法律です(同法第2条)。この法律により、自主的な在宅勤務や代替職場の配置の際の留意点が制度化されました。

 コロナウイルスの大流行から間もなく、世界中で在宅勤務が普及し始めました。日々変化する働き方に対応するため、2019年に施行されたTelecommuting Actの施行規則がこのほど改正されました。

 Telecommuting Actと改正後の施行規則の詳細は、以下のとおりです。

第2 Telecommuting Actおよび改正施行規則

 1 適用範囲

 Telecommuting Actは、在宅勤務制度を導入する民間企業のすべての雇用主および従業員に適用されます。

 「在宅勤務」とは、民間企業の従業員が、電気通信技術やコンピュータ技術を利用して職場外で働くことを可能にする勤務形態のことと定められており、このような態様での在宅勤務制度を導入する場合、全ての企業に同法が適用されることとなります。

  Telecommuting Actの概

 民間企業の雇用主は、労使の合意のもと、任意に在宅勤務制度を導入することができます。ただし、この場合でも法律で定められた最低労働基準を下回ることはできません。(Telecommuting Act第4条)

 雇用主は、在宅勤務の従業員に、以下のとおり、職場で勤務する従業員と同様の待遇を確保する必要があります。(Telecommuting Act 第5条)

 -法律および団体交渉協定が定める基準を下回らない時間外労働および夜勤手当を含む割増賃金、およびその他これに類する金銭的給付を受ける権利
 -休憩時間、定期的な休日、特別休暇を受ける権利
 -職場で勤務する同等の労働者と同じ又は同等の仕事量と業務水準
 -職場で勤務する同等の労働者と同様に、研修やキャリア開発の機会を与えられ、同様の評価方針の対象となること
 -利用可能な機器、在宅勤務に係る諸条件について適切な訓練を受けること
 -職場で勤務する労働者と等しい団結権を有し、労働者の代表と連絡を取ることを妨げられないこと

 また、在宅勤務従業員は定期的に同僚と会う機会が与えられ、会社情報を入手できるようにするなど、在宅勤務従業員が社内の他の職場環境から孤立しないようにするための措置が講じられていることが必要です。

 3 施行規則改正の概要

 前述のとおり、コロナウイルスの大流行による業務内容の変化に対応して、電気通信事業施行規則が改正されました。                                                    

 改正施行規則で導入された主な変更点は以下の通りです。

 i. 定義規定

 定義規定が一部改正されました。

 代替職場とは、電気通信技術やコンピュータ技術を利用して、雇用主の主たる事業所とは異なる場所で仕事を行う場所をいいます。これには、従業員の住居、コワーキングスペース、または移動しながら仕事ができるその他のスペースが含まれますが、これらに限定されません。

 通常の職場とは、従業員が定期的に出勤したり、仕事をしたりする主たる事業所、支店、または雇用主が設置した物理的施設をいいます。

 在宅勤務制度とは、改正後の施行規則、適用される団体協約(CBA)もしくは雇用契約、またはその他の社内規則に従って採用された、従業員が別の職場で働くことを可能にする一連の任意で合意された方針およびガイドラインをいいます。[1]

 ii. 在宅勤務の労働条件

 改正施行規則の第4条では、在宅勤務での労働条件は最低労働基準を下回ってはならず、就業規則や労使協約等で定められた条件を減じたり、奪ってはならないことが明記されました。また、代替職場での勤務は通常の職場での勤務とみなされ、在宅勤務が許可されている所定労働時間は、全て労働時間とみなされることも明記されました。なお、「実際の労働時間が合理的に判断できない場合」にのみ、届出人員とみなされます。

 iii. 在宅勤務制度の導入 

 以前から、法律と施行規則で在宅勤務の合意は任意であるべきと定められていたものの、その主導権は雇用主だけに与えられていました。本改正により、従業員または従業員のグループであれば、誰でも雇用主に在宅勤務プログラムを提案することができることが明記されました。[2]

 iv. 在宅勤務制度において規定すべき事項

 施行規則改正前から、在宅勤務制度において規定すべき事項は明記されていましたが、その詳細な内容は明確ではありませんでした。本改正により、各事項の詳細が明記され、在宅勤務制度の規定整備が行いやすくなりました。[3]

 (a) 資格 – 職務上の資格、業務分野、及び在宅勤務に適した役職、在宅勤務の導入環境、個別の事項及び業績

 (b) 代替職場 – 電気通信、コンピュータ技術、施設、設備に関する規定を含む、在宅勤務を導入できる代替職場の条件

 (c) 電気通信およびコンピュータ技術 – PC端末、ホストアプリケーション、インターネット接続およびセキュリティなどのソフトウェア及びその他の付属機器等の接続環境に関する事項

 (d) 労働安全衛生(OSH)- 職場衛生、照明、騒音、室温管理などの労働安全衛生基準(OSH)、身体的・精神的な健康プログラムなどを含む精神保健に関する事項

 (e) 業績評価 – 在宅勤務の従業員と通常の職場で勤務する同等の従業員との共通の業績基準(業績評価およびモニタリングの方法)、当該従業員への適切なフィードバックのやり取りの方法、業績上の問題に対処するための指導に関する事項

 (f) 行動規範 – 出席、会議中の身だしなみと態度、成果報告書の提出、コンプライアンス遵守の手段などの労働規律

 (g) データ保護、機密性、セキュリティ – 2012年Data Privacy Act (R.A. No.10173 個人情報保護法)及び同施行規則、並びに国家プライバシー委員会(NPC)の発行するその他の関連文書に従い、データ保護、機密性、およびセキュリティを図るための、個人情報、機密性個人情報、およびその他の保有情報保護のための技術基準

 (h) 緊急時の対処法 – 機器の故障、インターネット接続の不備、停電、天候不順、その他関連する事象および同様の状況に対処するための措置

 (i) 在宅勤務期間 – 従業員の要求、業務上の必要性、または運用の変化(更新または延長なしで以前の勤務形態に戻ることを含む)による在宅勤務の終了または勤務形態の変更など、在宅勤務の有効期間

 (k) 紛争解決 – 在宅勤務制度の実施および施行に起因するすべての苦情を解決するための苦情処理機構(任意仲裁への合意を含む)

 v. 在宅勤務にかかる費用負担[4]

 在宅勤務プログラムを実施し、従業員が代替職場で業務を遂行するために必要な施設、設備、消耗品にかかる、取得、適切な取り扱い、使用、維持、修理、返却にかかる費用は、雇用主の事業に通常かつ必要な費用とみなされることが規定され、事業者の負担とされることが明記されました。

 vi. DOLEへの実施状況の報告[5]

 改正施行規則により、雇用主は、事業所報告システム(https://reports.dole.gov.ph/)を通じて、労働雇用省(Department of Labor and Employment、以下、「DOLE」という)に在宅勤務の実施について通知することとなりました。当該報告通知には、在宅勤務を実施する支店、サテライトオフィス、または同様の業務単位がある場合、それらすべてを含めて報告する必要があります。

 また、使用者は、当事者が自主的に在宅勤務制度を導入したことを定めた文書を、記録の一部として少なくとも3年間保管・保存する必要があります。

第3 最後に

 在宅勤務を実施する企業は、DOLEに在宅勤務の実施について届け出なければなりません。また、労働関連の紛争や違反を避けるため、Telecommuting Actおよびその施行規則の規定に従う必要がありますので、在宅勤務制度の導入や規定の整備の際には、これらの事項に留意する必要があります。

[1] 改正施行規則 第3条

[2] 改正施行規則 第5条

[3] 改正施行規則 第6条

[4] 改正施行規則 第9条

[5] 改正施行規則 第10条