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日本における労働基準法施行規則の一部を改正する省令案の概要について

2022年11月11日(金)

日本における労働基準法施行規則の一部を改正する省令案の概要についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

労働基準法施行規則の一部を改正する省令案の概要

 

労働基準法施行規則の一部を改正する省令案の概要

2022年11月11日
One Asia Lawyers 東京事務所
弁護士 松宮浩典

 2022年10月26日、第181回労働政策審議会労働条件分科会が開催され、「労働基準法施行規則の一部を改正する省令案の概要」(以下「本省令案[1]」といいます。)が公表されました。本省令案では、公布日は2022年11月に予定されており、施行期日は2023年4月1日となっています。

1 背景

 労働基準法[2](昭和22年法律第49号。以下「法」といいます。)第24条第1項では、賃金は原則通貨で、直接労働者にその全額を支払わなければならないとされており、労働基準法施行規則[3]第7条の2第1項において、労働者の同意を得た場合は、銀行口座・証券口座への振込も認められています。

 さらに、現在ではキャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化が進んでいることから、「PayPay」や「楽天ペイ」などのスマートフォン決済のアプリケーション口座への賃金支払(以下「給与デジタル払い」といいます。)が一定の要件を満たした場合可能となるよう、省令が改正されることになります。

 本ニューズレターでは、本省令案について解説いたします。

2 概要

 本省令案では、給与デジタル払いの要件として次のとおり定められています。

 (1)労働者の同意を得ていること
 (2)資金決済法[4]第36条の2第2項に規定する第二種資金移動業を営む資金決済法第2条第3項に規定する資金移動業者であり、一定の要件を満たすものとして厚生労働大臣の指定を受けた者(以下「指定資金移動業者」といいます。)であること
 (3)労働者が労働基準法施行規則第7条の2第1項第1号又は第2号に掲げる方法による賃金の支払を選択できるようにすること
 (4)労働者に指定資金移動業者の口座への資金移動による賃金の支払について必要事項を説明した上で、労働者の同意を得ること

 上記(2)の指定資金移動業者の要件としては、次の①~⑧が定められています。厚生労働大臣の指定を受けるためには、下記の要件を満たすことを証する書類を添えて、申請書を提出しなければなりません。

 ①賃金支払に係る口座の残高(以下「口座残高」といいます。)の上限額を100万円以下に設定していること又は100万円を超えた場合でも速やかに100万円以下にするための措置を講じていること。
 ②破綻などにより口座残高の受取が困難となったときに、労働者に口座残高の全額を速やかに弁済することを保証する仕組みを有していること。
 ③労働者の意に反する不正な為替取引その他の当該労働者の責めに帰すことができない理由により口座残高に損失が生じたときに、その損失を補償する仕組みを有していること。
 ④最後に口座残高が変動した日から、特段の事情がない限り、少なくとも10年間は労働者が口座残高を受け取ることができるための措置を講じていること。
 ⑤賃金支払に係る口座への資金移動が1円単位でできる措置を講じていること。
 ⑥ATMを利用すること等、通貨で賃金の受取ができる手段により、1円単位で賃金の受取ができるための措置及び少なくとも毎月1回はATMの利用手数料等の負担なく賃金の受取ができるための措置を講じていること。
 ⑦賃金の支払に関する業務の実施状況及び財務状況を適時に厚生労働大臣に報告できる体制を有すること。
 ⑧賃金の支払に係る業務を適正かつ確実に行うことができる技術的能力を有し、かつ、十分な社会的信用を有すること。

 なお、上記の要件に係る事項に変更があったときは、厚生労働大臣に届け出なければなりません。また、指定資金移動業者が(a)資金決済法第55条又は第56条第1項若しくは第2項の規定による処分が行われたとき、(b)上記①~⑧の指定の要件を満たさなくなったとき、(c)不正の手段により指定を受けたときのいずれかに該当する場合は、指定が取り消されるとされており、留意が必要です。

以上

[1] 厚生労働省労働審議会労働条件分科会「労働基準法施行規則の一部を改正する省令案の概要」

[2] 労働基準法(昭和22年法律第49号)

[3] 労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)

[4] 資金決済に関する法律(平成21年法律第59号)