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日本の居住用不動産の賃貸借契約において、「中途解約をする場合は残存期間の賃料の範囲で違約金を請求することができる」旨の特約に基づいて賃貸人が賃借人に対しておこなった残存期間(約1年6か月分)の賃料相当額の請求が、権利の濫用として否定された事例について

2023年01月17日(火)

日本の居住用不動産の賃貸借契約において、「中途解約をする場合は残存期間の賃料の範囲で違約金を請求することができる」旨の特約に基づいて賃貸人が賃借人に対しておこなった残存期間(約1年6か月分)の賃料相当額の請求が、権利の濫用として否定された事例についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

日本:居住用不動産の賃貸借契約において、「中途解約をする場合は残存期間の賃料の範囲で違約金を請求することができる」旨の特約に基づいて賃貸人が賃借人に対しておこなった残存期間(約1年6か月分)の賃料相当額の請求が、権利の濫用として否定された事例

 

日本:居住用不動産の賃貸借契約において、「中途解約をする場合は残存期間の賃料の範囲で違約金を請求することができる」旨の特約に基づいて賃貸人が賃借人に対しておこなった残存期間(約1年6か月分)の賃料相当額の請求が、権利の濫用として否定された事例

2023年1月
One Asia Lawyers Group
弁護士法人One Asia大阪オフィス
弁護士 古田 雄哉

1.事案の概要

  本事案は、居住用の賃貸借契約において、賃貸借契約書に「2年以内に途中解約をする場合は、賃貸人の承諾が必要であり、賃借人はその承諾を得ようとするときは3カ月前までに賃貸人に申し入れをし、賃貸人は賃借人が違約金を支払うことと引き換えに承諾をすることができる。違約金の額は、残存期間の賃料の範囲内で賃貸人が決定する」旨の定めがされていたことを根拠に、契約後約半年で賃貸借契約を解約した賃借人に対し、賃貸人が残存期間すべての賃料を支払わないと解約を認めないとして、残存期間の賃料の請求を求めたものです。

  平成30年1月 賃貸借契約成立(期間:2年間)
  平成30年7月 賃借人から賃貸人に対し、平成30年10月末で契約を解除したい旨伝える
  平成30年9月 賃借人が建物から退去

  賃貸人は、賃借人からの解約の申し入れに対して、残存期間全期間の賃料相当額の違約金の支払と引き換えに解約を承諾すると回答をしましたが、賃借人はこの違約金を支払わず、建物から退去し、鍵を賃貸人に対して郵送して返却しました。しかし賃貸人は解約は認められないとして平成31年3月に賃借人を提訴しました。

  一審は簡易裁判所に係属、簡易裁判所は本契約書の中途解約を制限する条項は消費者契約法10条によって無効になるとして、平成30年9月以降の賃貸人の請求を認めませんでした。これに対して賃貸人が控訴をしました。

2.争点

 ⑴ 本賃貸借契約書における賃借人の中途解約を制限する条項は消費者契約法10条ないしは公序良俗に反して無効ではないか。

 ⑵ 本賃貸借契約書における賃借人の中途解約を制限する条項が有効としても、残存期間全部の違約金の請求は権利の濫用にあたらないか。

3.判決要旨(賃貸人の請求一部認容 確定)

  裁判所は、本賃貸借契約書における賃借人の中途解約を制限する条項が有効であることを前提に、2か月分の賃料相当額を超える請求は権利の濫用であるとして賃貸人の請求を一部棄却しました。

 (1) 本賃貸借契約書における賃借人の中途解約を制限する条項は消費者契約法10条ないしは公序良俗に反して無効ではないか。

    裁判所は本件賃貸借契約の条項について、契約期間途中での賃借人からの解約を一切認めないものではなく、一定の違約金の支払いによって契約期間途中での解約は認められる、そして、額は一義的ではないものの、契約残存期間の月数分の範囲内で相当な額とする旨定められていると解され、契約当事者が双方の事情を考慮した合理的な額をもって違約金とする旨を約定で定めることは妨げられないと解されるとして、本条項は消費者契約法10条ないしは公序良俗違反により無効となることはないと判断しました。

 (2) 本賃貸借契約書における賃借人の中途解約を制限する条項が有効としても、残存期間全部の違約金の請求は権利の濫用にあたらないか

    裁判所は以下の事実を挙げ、賃貸人から賃借人に対する残存期間の賃料相当額の請求を権利の濫用であるとして、2か月分の賃料相当額を超える分についてはこれを認めませんでした。

  ・2年間の中途解約を認めない代わりに賃料を低廉に定めたという事情がないこと

  ・退去の3カ月以上前から賃借人が解約の意向を示しているのに賃貸人が違約金額について交渉をすることがなかったこと

  ・賃借人が退去をしていること

  ・提訴までに賃貸人から賃借人に対して特段連絡がなかったこと

  ・訴訟で賃借人が本件建物から退去したと主張しているのに退去の確認をせず残存期間の賃料の請求を続けたこと

  ・本件建物は居住用で賃借人退去後に他の賃借人を探すことが困難とはいえないこと

4.本判決の考察

  一般的な居住用の賃貸借契約では、賃借人は1か月前に予告をすれば賃貸借契約を解約できる、という定めになっているものが多いと思われます。賃貸人としては、広告費などもかけて賃借人を募集するケースもあり、短期間で契約を解約されると赤字となる場合もあります。そこで、賃貸人側としては、短期間での解約の際には違約金の支払いを求める、という対応が考えられます。

本件では2年間の賃貸借契約において、①途中解約には賃貸人の承諾が必要である②賃貸人からの承諾を得るためには賃借人が違約金を支払うことを必要とする③違約金の金額は残存期間の賃料の範囲で賃貸人がこれを定める、という契約内容とされていました。

  簡易裁判所は、このような条項は消費者契約法10条ないし公序良俗により無効であると判断しましたが、控訴審となった地方裁判所では同条項は中途解約を一切認めないものではないから条項は無効とはならないと判断しています。この裁判例を反対解釈すると、居住用の賃貸借契約において中途解約を一切認めないとか、残存期間の賃料すべてを違約金として支払わないといけないような条項になっていた場合は、当該条項自体が消費者契約法ないしは公序良俗違反で無効とされていた可能性があります。

  また、仮に違約金を請求できる条項が有効であったとしても、ほかに賃借人を探すのが容易な居住用不動産の賃貸借においては、賃借人側が退去を主張してきた場合、単にこれを拒絶して残存期間の賃料を請求し続けていると権利濫用として一部請求が認められない可能性があるので、賃貸人側としては自身の主張は一旦措いて、次の借主を探す等の速やかな対応をすることが肝要と思われます。

  (※一部特定を避けるために事案を変更しております)

以上