• Instgram
  • LinkeIn
  • Lexologoy

ベトナム共産党書記長の汚職撲滅をテーマにした書籍の公表について

2023年02月10日(金)

ベトナム共産党書記長の汚職撲滅をテーマにした書籍の公表についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

ベトナム共産党書記長が汚職撲滅をテーマにした書籍を公表

 

<ベトナム共産党書記長が汚職撲滅をテーマにした書籍を公表>

2023年2月13日
One Asia Lawyers ベトナム事務所

1 概要    

 2023年2月2日、Nguyen Phu Trong(グエン・フー・チョン)ベトナム共産党書記長を著者とする、ベトナムにおける汚職撲滅の取り組みをまとめた書籍が公表されました[1]

 「汚職と不正に断固闘い、クリーンで力強い党と国家の建設に貢献する」[2]と題された本書籍はベトナム語で600ページ超に及ぶもので、2013年に設立された「汚職・不正防止に関する中央指導委員会」設立からこれまでの汚職・不正防止の取り組みの総括や、2014年、2018年、2020年、2022年にそれぞれ開催された「汚職・不正防止業務に関する全国会議」における書記長の発表、汚職・不正が起きないための体制づくりに関する考え、取り締まり実績、今後の方針などが盛り込まれています。

 ベトナムにおける贈収賄をはじめとする腐敗・汚職の問題は、当地でビジネスを行う日系企業の関心も高く、実際に問題に直面し、頭を悩ます担当者も非常に多いと思われることから、以下書籍の内容をいくつかご紹介いたします。

2 取り締まり実績

 本書籍では、2012年から2022年までの10年間に処分された党組織は2,740、党幹部・党員は16万7,700人(このなかに中央の高官も190人あまり含まれる)であり[3]、汚職事件における資産の回収率が上がっていること(2013年には回収率が10%未満だったものが現在は34.7%に上がっている)など、汚職摘発が高官に対しても例外なく進められており、汚職によって失われた資産の回収率が高まるなど、汚職防止対策が効果を上げていることが記載されています。

 本書籍において地域的、分野的な傾向の分析や説明等の記載はないものの、「以前は汚職事件の摘発が「年間ゼロ」となっていた地方もあったところ、近年では全国各省・市で汚職摘発がなされているほか、ハノイ、ホーチミン市、An Giang省、Dong Nai省、Khanh Hoa省、ダナン市、Binh Thuan省、Phu Yen省、Thanh Hoa省、Quang Ninh省、Bac Ninh省、Thai Nguyen省などで大規模な汚職事件が摘発された」[4]として、全国各地で取り締まりが行われていることが記載されています。

 また分野としては、金融、銀行、土地の管理・使用、資源・鉱物管理・開発、公共投資などで、特に汚職が深刻な状況が続いているとされています[5]。したがって、この分野で事業活動を実施している日系企業は、引き続き汚職について注視していく必要があるといえます。

3 民間セクターにおける腐敗撲滅

 ベトナムの刑法、及び汚職防止法は、公務員に対するものに加えて、民間の汚職も規制する法令になっています。

 本書籍でも、「2015年刑法では民間における汚職に関する罪が4つ追加され、2018年汚職防止法では民間における汚職防止に関する章が設けられている」という記載をした上で、実際の摘発事例として、次のような事件名を挙げています[6]

・Viet A事件:新型コロナのテストキットの不正納入。Viet A社が全国各地の医療機関に対して、関係者にコミッションを出すなどして不正納入した。元保健大臣などが逮捕。

・AIC事件:Dong Nai 省の公立病院における医療機器の不正入札・納入。2018年に日本政府から旭日小綬章を授与されたAICグループ会長などが起訴。同会長は国外逃亡中とみられる。

・FLC事件:不動産開発大手FLCの会長らが市場操縦などの容疑で逮捕。

・Tan Hoang Minh事件:不動産開発大手Tan Hoang Minhにおける不正な社債発行。会長らが逮捕。

・Van Thinh Phat事件:不動産開発大手Van Thinh Phatにおける不正な社債発行。会長らが逮捕。

4 今後の課題

  世界の汚職を監視する非政府組織Transparency Internationalが毎年発表している「世界腐敗認識指数(CPI)」 2022年版でベトナムは世界180か国・地域中77位[7]。2021年は87位[8]、2020年は104位[9]であり、近年順位を上げてきています。

 2023年に入ってすぐには、ベトナムのテト(旧正月)直前というタイミングでNguyen Xuan Phuc(グエン・スアン・フック)国家主席が、党幹部、政府高官による一連の汚職事件の責任を取って辞任し、日本のメディアでも驚きをもって報道されました[10]

 大規模な汚職事件が多数摘発されるなかで、これまでのベトナムの汚職撲滅活動や会議等で発表された書記長の考え、方針、国民の声など書記長の実績を取りまとめる形で発表された本書籍。汚職撲滅は一朝一夕に進むものではありませんが、ベトナムも国を挙げて対策を進めていますので、ベトナムとかかわってビジネスをする私たちも、「ベトナムだから…」と受け入れるのではなく、毅然とした態度をとり、また民間企業間であっても、襟を正して行動することが必要なのかもしれません。

以上

[1] https://vnexpress.net/ra-mat-sach-chong-tham-nhung-cua-tong-bi-thu-nguyen-phu-trong-4565602.html

[2] ベトナム語原文は“Kiên quyết, kiên trì đấu tranh phòng chống tham nhũng, tiêu cực, góp phần xây dựng Đảng và Nhà nước ta ngày càng trong sạch, vững mạnh.”

[3] 書籍には実施された処分の具体的説明等は記載されていない。ベトナム共産党における処分の類型としては、組織の場合は警告や解散、党員の場合は警告、解任、除名などがある。

[4] 本書籍P.30

[5] 本書籍P.56

[6] 本書籍P.35。事件の概要は筆者が現地報道からまとめたもので、本書籍には事件の詳細は記載されていない。

[7] https://www.viet-jo.com/news/social/230202131000.html

[8] https://www.viet-jo.com/news/social/220127174351.html

[9] https://www.viet-jo.com/news/social/220127174351.html

[10] https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM164D70W3A110C2000000/

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM16BXT0W3A110C2000000/

https://www.jiji.com/jc/article?k=2023011700826&g=int