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公正取引委員会「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する 独占禁止法上の考え方(案)」について(2)

2023年02月17日(金)

公正取引委員会「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する
独占禁止法上の考え方(案)」についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

公正取引委員会「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する 独占禁止法上の考え方(案)」について(2)

 

公正取引委員会「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する
独占禁止法上の考え方(案)」について(2)

2023年2月
弁護士   難波  泰明

第1 はじめに

 公正取引委員会は、令和5年1月13日、「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」(案)に対する意見募集について、発表しました(以下「本ガイドライン案」といいます。)。本ガイドライン案は、同年2月13日までのパブリックコメントに付されていました。本ガイドライン案の基本的な考え方、共同の取組みに関する内容については、本ニュースレター(1)をご参照ください。

 本ガイドライン案の対象とするグリーン社会の実現やサステナビリティに関する企業間の取組みと競争法との関係については、ドイツの自動車メーカー5社による技術カルテルが認定されたことなどから、欧州を中心にかねてから議論がされていました。この点に関する当局の対応方針の透明性と企業の見通しを確保するため、オランダでのガイドライン草案の発表、欧州委員会における水平的協力協定ガイドライン改正の検討など、各国において、対応の動きが進められているところです。

 そのような中、発表された本ガイドライン案は、日本におけるグリーン社会の実現やサステナビリティの取組みに対する当局の指針となるものであって、各企業においても今後参照価値の高いものとなっています。

 本ニュースレターにおいては、このうち、取引先事業者の事業活動に対する制限及び取引先の選択と、優越的地位の濫用に関して、取り上げます。

本ガイドラインの概要は以下のとおりです。なお、各想定例は具体的な状況を踏まえたものであるため、詳細については本ガイドラインをご参照のうえ、実際の事例と対照する必要がある旨、ご留意ください。

第2 本ガイドラインの各論

 1 取引先事業者の事業活動に対する制限及び取引先の選択

 (1)想定されるシチュエーション

    事業者等が、温室効果ガス削減を目的として、主に垂直的な取引関係において、取引先事業者の販売商品、販売地域、販売先、販売方法等を制限する行為や、取引先事業者との取引を打ち切る行為を行うことが考えられます。

    このような場合、購入しようとする商品の販売方法が統一されて消費者の利便性が高まる、取引先事業者が必要な投資を行い市場が拡大する、温室効果ガス削減に関して積極的に取り組む取引先事業者が増えることなどによって競争促進効果が生じる場合があるなど、競争制限効果をもたらさない場合も多く、独占禁止法上問題とならないことが多いとされています。

    この場合の基本的な検討枠組みは本ガイドラインにおいて、図示されていますのでご参照ください。

 (2)取引先事業者の事業活動に対する制限

  1)基本的な考え方

    企業が、グリーン社会の実現に向けて新しく開発した商品・サービスの普及のために、マーケティングの一環として、取引先事業者の事業活動に対して、様々な形で制限を課す場合があります。

    そのような場合、当該企業が市場における有力な事業者に当たるか、市場閉鎖効果や価格制限効果が生じるか、潜在的競争者への影響などの観点から、競争制限効果及び競争促進効果について総合的に考慮して判断されることになります。

    その際、以下の要素が総合的に勘案されます。

    ①  ブランド間競争の状況(市場集中度、商品特性、製品差別化の程度、流通経路、新規参入の難易性等)
    ②  ブランド内競争の状況(価格のバラツキの状況、当該商品を取り扱っている流通業者等の業態等)
    ③  当該行為を行う事業者の市場における地位(市場シェア、順位、ブランド力等)
    ④  当該行為の対象となる取引先事業者の事業活動に及ぼす影響(制限の程度・態様等)
    ⑤  当該行為の対象となる取引先事業者の数及び市場における地位

    なお、市場における有力な事業者に当たるかについては、当該市場におけるシェアが20%を超えることが一応の目安となるとされています。         

  2)取引先事業者に対する自己の競争者との取引や競争品の取扱いに関する制限

    事業者が、グリーン社会の実現に向けた取組の中で、マーケティングの一環として、取引先事業者と取引するに当たり、以下のような、自己の競争者との取引等の制限を行うことが考えられます。

    ・  取引先事業者に対し自己の競争者と取引しないよう拘束する条件を付けて取引する行為
    ・  取引先事業者に自己の競争者との取引を拒絶させる行為
    ・  取引先事業者に対し自己の商品と競争関係にある商品の取扱いを制限するよう拘束する条件を付けて取引する行為

    このような場合、上記基本的な考え方に示した枠組みに従い、独占禁止法上の問題が生じうるかが判断されます。独占禁止法上問題とならない行為及び問題となる行為の想定例は以下のとおりです。

独占禁止法上問題とならない行為の想定例

・     完成品メーカーが部品メーカーに対し、原材料を支給して部品を製造させている場合に、その原材料を使用して製造した部品を自己にのみ販売させること
・     完成品メーカーが部品メーカーに対し、ノウハウを供与して部品を製造させている場合であって、そのノウハウの秘密を保持し、又はその流用を防止するために必要であると認められるときに自己にのみ販売させること
・     設備投資が必要な商品を供給する条件としての継続的な購入等の義務付け

独占禁止法上問題となる行為の想定例

・     小売業者に対する競争品の取扱い禁止

  3)販売地域に関する制限

    事業者が、商品の効率的な販売拠点の構築やアフターサービス体制の確保等のため、 流通業者に対して責任地域制や販売拠点制を採ることが考えられます。

このような場合、上記基本的な考え方に示した枠組みに従い、独占禁止法上の問題が生じうるかが判断されます。また、厳格な地域制限(一定の地域を割り当て、地域外での販売を制限すること)又は地域外顧客への受動的販売の制限(一定の地域を割り当て、地域外の顧客からの求めに応じた販売を制限すること)に該当しない限り、通常、これによって価格維持効果が生じることはなく、独占禁止法上問題は所持ません。他方で、これに該当しうる場合は問題が生じえます。

この場合も、上記基本的な考え方に示した枠組みに従い、独占禁止法上の問題が生じうるかが判断されます。独占禁止法上問題とならない行為及び問題となる行為の想定例は以下のとおりです。

独占禁止法上問題とならない行為の想定例

・     商品の提供に必要な設備投資等を促進することを目的とした販売地域の割当て

独占禁止法上問題となる行為の想定例

・     厳格な地域制限
・     地域外顧客への受動的販売の制限

  4)選択的流通

    事業者が、自社の商品を取り扱う流通業者に関して一定の基準を設定し、当該基準を満たす流通業者に限定して商品を取り扱わせようとする場合、当該流通業者に対し、自社の商品の取扱いを認めた流通業者以外の流通業者への転売を禁止することが考えられます(選択的流通)。

    このような場合、設定される基準が、当該商品の品質の保持、適切な使用の確保等、消費者の利益の観点からそれなりの合理的な理由に基づくものと認められ、かつ、当該商品の取扱いを希望する他の流通業者に対しても同等の基準が適用される場合は、独占禁止法上の問題が生じません。

    この場合も、上記基本的な考え方に示した枠組みに従い、独占禁止法上の問題が生じうるかが判断されます。独占禁止法上問題とならない行為及び問題となる行為の想定例は以下のとおりです。

独占禁止法上問題とならない行為の想定例

・     温室効果ガス削減に係る一定の基準を満たした流通業者のみに対する商品の供給

独占禁止法上問題となる行為の想定例

・     安売り業者への販売禁止を目的とした選択的流通

  5)小売業者の販売方法に関する制限

    事業者が、小売業者に対して、販売方法(販売価格、販売地域及び販売先に関するものを除く。)を制限することが考えられます。

    このような場合、商品の安全性の確保、品質の保持、商標の信用の維持等、当該商品の適切な販売のためのそれなりの合理的な理由が認められ、かつ、他の小売業者に対しても同等の条件が課せられている場合は、独占禁止法上の問題が生じません。

    この場合も、上記基本的な考え方に示した枠組みに従い、独占禁止法上の問題が生じうるかが判断されます。独占禁止法上問題とならない行為及び問題となる行為の想定例は以下のとおりです。

独占禁止法上問題とならない行為の想定例

・     商品の利用に当たって必要な設備の提供等の義務付け

独占禁止法上問題となる行為の想定例

・     全ての取引先事業者に対する同等の制限の適用が行われていない基準の設定

 

 (3)取引先の選択

  1)基本的な考え方

    事業者がどの事業者と取引するかは、基本的には事業者の取引先選択の自由の問題となり、事業者が、価格、品質、サービス等の要因を考慮して、独自の判断によって、ある事業者と取引しないこととしても、基本的には独占禁止法上問題とはなりません。

    しかしながら、事業者が競争者や取引先事業者等と共同して、又は事業者団体が、取引拒絶等を行う場合(共同ボイコット)、事業者が市場に参入することが著しく困難となり、又は市場から排除されるため、原則として独占禁止法上問題となります。

    以下、単独で取引拒絶を行う場合と共同ボイコットを行う場合に、独占禁止法上問題とならない行為及び問題となる行為の想定例をあげます。

  2)単独の取引拒絶

独占禁止法上問題とならない行為の想定例

・     自己のサプライチェーン全体における温室効果ガス削減を目的として、独自の判断で、自社が設定した一定の温室効果ガス削減目標を達成することができない事業者と取引しないことを決定する
・     温室効果ガス削減に係る一定の基準を満たさない取引先事業者との取引の打切り
・     温室効果ガス削減に係る商品の仕様を満たさない取引先事業者との取引の打切り

独占禁止法上問題となる行為の想定例

・     排他条件付取引の実効性を確保するための手段としての流通業者との取引の打切り
・     競争者の排除を達成するための手段としての当該事業者との取引の打切り
・     事業活動において必要不可欠なデータへの競争者によるアクセスの拒否

  3)共同ボイコット

独占禁止法上問題とならない行為の想定例

・     事業者団体が設定した自主基準を満たさない商品に関する認証の拒否

独占禁止法上問題となる行為の想定例

・     競争者の排除を達成するための手段としての当該事業者への共同のボイコット
・     新規事業者の参入妨害を達成するための手段としての当該事業者への共同のボイコット

 2 優越的地位の濫用

 (1)想定されるシチュエーション

    事業者が、温室効果ガス削減を目的として、取引の相手方に対して、製造過程において排出される温室効果ガスを一定程度削減することを仕様に盛り込むなど、取引の対象となる商品又は役務の品質等に関して従前と異なる条件を設定したり、サプライチェーンを構成する取引の相手方に対して温室効果ガス削減に向けた取組を可能な範囲で実施することを検討してほしい旨の一般的な要請を行うことが考えられます。

 (2)基本的な考え方

    事業者がどのような取引条件で取引するかについては、基本的に、取引当事者間の自主的な判断に委ねられており、要請に応じる取引の相手方に生じるコストの上昇分を考慮した上で、双方納得の上で取引価格を設定する場合、独占禁止法上の問題を生じる可能性は低くなります。

    しかし、温室効果ガス削減という社会公共的な目的によるものであったとしても、事業者が、自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、上記のような行為に及んだ場合、不公正な取引方法の一つである優越的地位の濫用として独占禁止法上問題となるがあります(独占禁止法第 19 条)。この場合、独占禁止法上問題となるか否かについては、

    ①自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して
    ②正常な商慣習に照らして不当に
    ③優越的地位の濫用となる行為類型を行っているか

    が、個別の事案ごとに判断されることになります。

    ①の「自己の取引上の地位が相手方に優越している」については、行為者が市場支配的な地位又はそれに準ずる絶対的に優越した地位である必要はなく、取引の相手方との関係で相対的に優越した地位であれば足りる。

    ②の「正常な商慣習に照らして不当に」については、公正な競争秩序の維持・促進の観点から、問題となる不利益の程度、行為の広がり等を考慮して、個別の事案ごとに判断される。

    ③の「優越的地位の濫用となる行為類型」については、独占禁止法第2条第9項第5号イからハまでのいずれかに該当する行為であるか検討が必要となり、本ガイドラインにおいては、以下の3つの類型について、独占禁止法上の問題の有無について説明がされています。ここに示されていないものであっても、「受領拒否」、「返品」、「支払遅延」及び「減額」並びに「やり直しの要請」に該当する場合には、優越的地位の濫用ガイドラインの考え方を踏まえて独占禁止法上問題となるか否かが、個別の事案ごとに判断されることになります。

    以下、ガイドラインで説明されている3つの類型について述べます。

 (3)購入・利用強制

    事業者が、温室効果ガス削減等を目的として、取引の相手方に対し、商品又は役務の購入・利用を強制することが考えられます。

独占禁止法上問題とならない行為の想定例

・     特定の仕様を指示して商品の製造又は役務の提供を発注する際に、当該商品若しくは役務の内容を均質にするため又はその改善を図るため必要があるなどの合理的な必要性から、当該取引の相手方に対して当該商品の製造に必要な原材料や当該役務の提供に必要な設備を購入させる場合
・     仕様に定められた原材料等の購入要請

独占禁止法上問題となる行為の想定例

・     取引の相手方に対し、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務の購入を要請する場合であって、当該取引の相手方が、それが事業遂行上必要としない商品若しくは役務であり、又はその購入を希望していないときであったとしても、今後の取引に与える影響を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合
・     取引の相手方にとって必要ではない商品の購入要請 

 (4)経済上の利益の提供要請

    事業者が、温室効果ガス削減等を目的として、取引の相手方に対し、経済上の利益 の提供を要請することが考えられます。

独占禁止法上問題とならない行為の想定例

・     取引の相手方に対し、経済上の利益の提供を要請する場合、当該経済上の利益が、それを負担することによって得ることとなる直接の利益の範囲内であるものとして、当該取引の相手方の自由な意思により行われる場合
・     取引の相手方に対する協賛金の提供要請
・     取引の相手方にとって直接の利益となるデータ共有

独占禁止法上問題となる行為の想定例

・     取引の相手方に対し、経済上の利益の提供を要請する行為で、負担の内容、根拠、使途等が当該取引の相手方との間で明確になっておらず、当該取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合
・     当該取引の相手方が得る直接の利益等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えた負担となり、当該取引の相手方に不利益を与えることとなる場合
・     温室効果ガス削減等を名目とした金銭の負担要請
・     発注内容に含まれない廃棄物回収等の役務の提供要請
・     取引の相手方から収集したデータの一方的な自己への帰属

 (5)取引の対価の一方的決定

    事業者が、温室効果ガス削減等を目的として、取引の相手方に対し、当該目的を達成するための取組や、商品・役務の改良等を要請することが考えられます。

独占禁止法上問題とならない行為の想定例

・     取引の相手方に対し、商品・役務の改良等を求めるに当たって、その実施に伴い取引の相手方に生じる追加的なコストを加味した取引価格の見直しを提案し、取引価格の再交渉において、当該取引の相手方に生じるコストの上昇分を考慮した上で、双方納得の上で取引価格を設定する場合
・     取引先のコスト上昇を反映した対価の設定

独占禁止法上問題となる行為の想定例

・     当該取引の相手方に生じるコスト上昇分を考慮することなく、一方的に、著しく低い対価での取引を要請する場合であって、当該取引の相手方が、今後の取引に与える影響等を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合
・     従来品より温室効果ガスを削減した仕様に基づく発注における対価の一方的決定

 まとめ

   本ガイドライン案では、このほか、企業結合がされる場合の考え方についても示されており、企業結合を検討する際は本ガイドライン案をご参照ください。

   近年、グリーン社会の実現や人権関連の取組みについては、サプライチェーン全体での取り組みが求められるようになっています。そのため、自企業だけでなく、取引の相手方も含めて、同じ目的に向けた取り組みを行う必要があり、これに伴って、企業間の協業や、サプライチェーン全体に取り組みを要請する機会が増えてきます。その際には、独占禁止法上の問題の有無について、本ガイドライン案を参照しながら検討していただければと存じます。