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実践的な人権方針の策定方法について

2023年03月13日(月)

実践的な人権方針の策定方法についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

グローバルビジネスと人権: 実践的な人権方針の策定方法 ~WBAで評価された実例を交えて

 

グローバルビジネスと人権:
実践的な人権方針の策定方法 ~WBAで評価された実例を交えて

2023年3月
One Asia Lawyers Group
コンプライアンス・ニューズレター
アジアSDGs/ESGプラクティスグループ

1.はじめに

 ビジネスと人権に関する指導原則(以下「国連指導原則」)は、「企業は、人権を尊重する責任を果たすため、その規模と状況に応じて、以下を含む企業方針と手続を持つべきである。」として、企業に対して人権方針の策定を要請しています(国連指導原則15)。昨年9月に策定された「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(以下「日本政府ガイドライン」)においても、企業は、その人権尊重責任を果たすという企業によるコミットメント(約束)を、人権方針(人権ポリシー)を通じて、企業の内外に向けて表明するべきであるとされています(日本政府ガイドライン12頁)。

 人権方針は、企業の行動を決定する明瞭かつ包括的な方針となるものとして、極めて重要であるとされていますが、その実務的な意義や実践方法は定かではありません。しかし、国連指導原則や日本政府ガイドラインを深く紐解くと、その期待されている役割の外縁を捉えることができます。

本号では、人権方針の役割を踏まえつつ企業が国連指導原則や日本政府ガイドラインを実践していくために、どのように戦略的に人権方針を策定していくべきかについて、いくつかの実例を交えながら検討していきます。

2.人権方針に期待される役割と実務的な意義

(1) はじめに

  企業による人権の尊重は、消極的な責任ではなく、企業側での行動が求められています。そのため、企業は、実務において実際に人権を尊重していることを自覚し、また、これを示すことができなければなりません。[1]

  すなわち、人権方針は、人権尊重に対する積極的な行動のために、企業自らの責任の自覚と行動の表明を、ステークホルダーに向けて示すものである必要があるといえます(日本政府ガイドライン7頁参照)。

(2) 記載すべき事項

  国連指導原則は、全ての企業に対して、人権を尊重する責任を果たすため、その規模と状況に応じて、以下を含む企業方針と手続を持つべきである、としています(国連指導原則15)。

(a) 人権を尊重する責任を果たすという企業方針によるコミットメント
(b) 人権への影響を特定し、予防し、軽減し、対処方法を説明するための人権デュー・ディリジェンス手続
(c) 企業が惹起させまたは寄与したあらゆる人権への悪影響からの救済を可能とする手続

  具体的にどのような事項を人権方針に記載すべきかについて、国連指導原則及び日本政府ガイドラインは、以下のとおり定めており、日本政府ガイドラインは基本的に国連指導原則を踏襲したものとなっています。

 

国連指導原則16

日本政府ガイドライン

(a) 企業の最上層レベルによる承認があること

(b) 内部及び/または外部の適切な専門家により情報提供を受けたこと

(c) 企業の従業員、取引関係者及びその他企業活動・製品もしくはサービスに直接関係している者に対する人権配慮への期待が明記されていること

(d) 一般に入手可能で、かつ内外問わず全従業員、共同経営/共同出資者及びその他関係者に周知されていること

(e) 企業全体に定着させるために企業活動方針や手続に反映されていること

① 企業のトップを含む経営陣で承認されていること

② 企業内外の専門的な情報・知見を参照した上で作成されていること

③ 従業員、取引先、及び企業の事業、製品又はサービスに直接関わる他の関係者に対する人権尊重への企業の期待が明記されていること

④ 一般に公開されており、全ての従業員、取引先及び他の関係者にむけて社内外にわたり周知されていること

⑤ 企業全体に人権方針を定着させるために必要な事業方針及び手続(行動指針や調達指針)に、人権方針が反映されていること

 

 Q 人権方針は、状況に応じて適宜変更するものなのでしょうか。(解釈の手引き 問22)

  人権方針は、通常は長期的に変化がない状態であり続ける性質を有するべきであると思われます。すなわち、人権方針は、従業員、企業が共に働く関係者や、企業の幅広いステークホルダーにとっての不変的な基準点であって、企業が実施する事業の活動指針及びプロセスが従うべき基本的な期待を定めるものです。

  したがって、状況の変化に応じて頻繁に変動する可能性が高い指針及びプロセスの詳細を記載するべきではないと考えられます。

 Q では、人権方針は、どの程度詳細に作成するべきなのでしょうか。すべての人権を対象とするべきなのでしょうか(解釈の手引き 問5、22、23)

  人権方針の詳細さの程度は様々で、単純に、国際的に認められたすべての人権を尊重するという一般的なコミットメントを示す場合と、企業がその事業活動にとって最も重要となる可能性があると認識している人権の概要が示される場合があります。また、企業が人権尊重責任を果たすための行動についてどのように説明責任を果たすかに関する情報が含まれる場合や、企業が共に働く者が同様に人権を尊重することへの期待が示される場合もあります。

  人権方針の策定に当たっては、企業が最も影響を与える可能性のある人権、すなわちどの権利が企業の事業活動にとって最も重要であるのかを知っておく必要があります。しかしながら、その権利だけに焦点を当てることがないようにしなければなりません。なぜなら、すべての企業が、直接的または間接的に、実質的にはこれらの権利のすべての領域に影響を与える可能性があるからです。

  したがって、方針には、たとえ一部が特に重要であるとして強調されることがあるとしても、国際的に認められたすべての人権を尊重するというコミットメントが反映されるべきといえます。

(3) 人権方針の意義

  Q 人権方針を策定することが、実務的にどのような意義を有するのでしょうか。(解釈の手引き 問21)

   人権を尊重する企業の責任を果たすという方針によるコミットメント、すなわち、人権方針は、企業の行動を決定する明瞭かつ包括的な方針として機能します。すなわち、人権方針の意義は、以下の点にあります。

   (a)これが事業活動を行うための正統性のある最低基準であると経営陣が理解していることを、企業の内外に向けてはっきりと示す
   (b)すべての職員及び企業が共に働くビジネスパートナーその他の者がどのように行動すべきかに関して、経営陣の期待を明確に伝える
   (c)コミットメントを実行に移すための内部手続き及びシステムの整備のきっかけとなる
   (d)人権の尊重を企業の価値に組み込むための不可欠な第一歩である

   すなわち、人権方針はあくまで方針にすぎませんが、企業がこれを行動に移すためのきっかけ、理由、方向性を基礎づけるものとして機能することが期待されていると考えます。さらにいえば、人権方針を策定するだけにとどまらず、次なる行動に結びつけることが求められるといえるでしょう。

(4) 策定プロセス

  日本政府ガイドラインは、具体的な作成手順を明確に示しているものではありませんが、ここで示されている策定に際しての留意点(日本政府ガイドライン13頁)などを踏まえると、以下のようなプロセスがその一つとして考えられます。

 ①ステークホルダー及びその関係の把握

  人権方針を策定する前に、負の影響を受け得るステークホルダーが誰で、自社の事業にどのように関係して存在しているかを把握します。

 Q 自社に関係しているステークホルダーとして、どこまでの範囲が含められるのでしょうか。(解釈の手引きⅠ、問35、OECDガイダンスQ8)

 ステークホルダーとは、組織の活動に影響を与える、またはこれにより影響を受ける可能性がある個人をいいます。影響を受けるステークホルダーとは、ここでは特に、その人権が企業の事業、製品またはサービスによって影響を受ける個人をいうとされています。具体的には、企業の施設の周辺のコミュニティ、そのバリューチェーンの中の他の企業の労働者、その製品もしくはサービスの消費者・利用者、製品開発(製品の試用など)に関わるその他の者、ローカル、地域の等の共同体、取引先、投資家・株主などであるとされています。この際、企業にとって、最も明らかな集団以外にも注意を払うことが大切であり、例えば、外部のステークホルダーへの影響に取り組むことが課題であると想定して直接雇用の従業員のことを失念したり、または、影響を受けているのが従業員のみであると想定して企業の壁の外にいる他の影響を受けるステークホルダーを考慮しなかったりすることがないようにしなければならないとされています。

 ②影響を与える可能性のある人権の把握 ―ステークホルダーエンゲージメント

  次に、自社が影響を与える可能性のある人権を把握する必要があります。

 Q 自社が影響を与える可能性のある人権について、どのように整理したらよいでしょうか。(日本政府ガイドライン13頁)

 自社が影響を与える可能性のある人権の把握に当たっては、社内の各部門(例:営業、人事、法務・コンプライアンス、調達、製造、経営企画、研究開発)から知見を収集することに加えて、自社業界や調達する原料・調達国の事情等に精通したステークホルダー(例:労働組合・労働者代表、NGO、使用者団体、業界団体)との対話・協議を行います(ステークホルダーエンゲージメント)。

 このように、社内の問題事例等の情報収集を行うとともに、労働組合との対話や「ビジネスと人権」分野に精通した専門家との協議を実施し、自社グループ事業で重要と思われる人権課題を列挙して整理する。その上で、リスクが高いと特定される部分については、その専門家の意見も聞き、その知見を反映させることにより、より実態を反映した人権方針の策定に結び付けることが期待されます。

 ③人権方針の作成

  以上のような前提作業を踏まえたうえで、具体的な人権方針の作成に移ります。この際、第一に、企業自身が、人権尊重の責任を果たすというコミットメントを明らかにすることが重要です。そのうえで、国連指導原則や日本政府ガイドラインで示されているように、従業員、取引先、及び企業の事業、製品又はサービスに直接関わる他の関係者(ステークホルダー)に対する人権尊重への企業の期待を明記する必要があります。

  ④経営者のコミットメント

  そして、当該作成した人権方針について、企業のトップを含む経営陣が承認するというプロセスを経る必要があります。経営陣の承認を経た企業によるコミットメント(約束)は、企業の行動を決定する明瞭かつ包括的な方針となるものであり、極めて重要なプロセスといえます。

  経営陣のコミットメントの重要性については、2023年2月号のコンプライアンスニュースレターをご覧ください。

 ⑤公開及び周知

  最後に、策定した人権方針を一般に向けて公開し、全ての従業員、取引先及び他の関係者にむけて社内外にわたり周知します。

(5) 人権方針の定着

  人権方針は、策定・公表することで終わりではなく、企業全体に人権方針を定着させ、その活動の中で人権方針を具体的に実践していくことが求められます。そのためのプロセスとして①社内への周知、定着と、②関係者への期待の実践を行う必要があると考えられます。

 ①社内への周知、定着

  企業全体にかかわる人権方針の内容は、企業内部において理解され、関連する内部組織の指針や手続に反映される必要があります。そのため、まずは、人権方針を社内に周知し、行動指針や調達指針等に人権方針の内容を反映することなどが重要です。コミットメントは、これを通じて実行に移され、企業の価値に組み込まれることが可能になります。(解釈の手引き問25)

  具体的には以下のような行動が求められると考えられます。

  ・行動指針や調達指針等への人権方針の反映

  ・社員に対する研修の実施

この際、人権方針は、人権を尊重するための取組全体について企業としての基本的な考え方を示すものであり、企業の経営理念とも密接に関わるものであることから、各企業が自社の経営理念を踏まえた固有の人権方針を策定することによって、人権方針と経営理念との一貫性を担保し、人権方針を社内に定着させることに繋がります(日本政府ガイドライン13頁)。

 ②関係者への期待の実践

  また、ステークホルダーに対する企業の期待を、人権方針に定めることにより、ステークホルダーとの関係性の中で人権の尊重を更に推し進めるためのスタート地点が提供されることになります。例えば、企業は、サプライヤーやパートナーとの契約書に人権尊重の規定を含めたり、パフォーマンスの監査またはモニタリングを実施し、その結果を将来の取引関係の決定に組み込む根拠としたりすることができます。

  このように、人権方針を反映した行動指針、調達指針等に従って、バリューチェーン全体に人権尊重の方針を浸透させていくことが考えられます。その際は、取引先の選定や一定の契約条件の導入などを求めることになることから、独占禁止法上の問題が生じることが考えられます。これについては、公正取引委員会が現在作成中の、「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」が参考になると考えられます。

3.人権方針の例 ~WBA Corporate Human Rights Benchmark総合ランキングをもとに

(1)各企業の人権方針の評価

 ここではまず、食品、IT、自動車の各業界で特にポイントの高い海外、および日本の企業を取り上げ、そのポイントを比較してみました。比較すると、言語の違いなど他の要因もある可能性がありますが、日系企業においては、細かなところでのコミットメントが弱く、評価が低いものとなっているように思われます。

 

評価項目

Unilever

Hewlett Packard

Ford

サントリー

キリンHD

キヤノン

トヨタ自動車

A.1 方針へのコミットメント(5点)

人権尊重へのコミットメント

2

2

2

2

2

2

2

労働者の人権尊重へのコミットメント

労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言

2

2

2

1.5

2

0.5

0

安全衛生と労働時間

0.5

 

0.5

0.5

0.5

0.5

0.5

0.5

特定事項に関する人権尊重へのコミットメント

土地・天然資源・原住民の権利

0.5

1

1

0.5

0

1

0.5

産業に関して脆弱な立場にある人々の権利

0.5

1.5

2

0

0.5

0.5

0.5

救済措置へのコミットメント

1

2

0.5

0

0

0.5

0

人権擁護者の権利尊重へのコミットメント

0.5

2

0

0

0

0

0

A.2 取締役会レベルのアカウンタビリティ (5点)

経営トップのコミットメント

0.5

2

0.5

0

0.5

0

0.5

取締役会の責任

2

1

1

0

1

0

1

インセンティブと業績管理

1.5

0

0

0

0

0

0

ビジネスモデル戦略とリスク

0

0

0

0

1

0

0

合計(10点中)

5.3

5.9

4.1

2.0

3.8

2.2

2.7

 

(2)「方針へのコミットメント」に関する評価

 ①人権尊重へのコミットメント

  人権尊重へのコミットメント項目については、上記の表の各社2点満点となっており、比較的点数が取得しやすい項目と言えます。具体的には、国際人権規約などの人権尊重の表明と「ビジネスと人権に関する国連指導原則」、OECD多国籍企業ガイドラインなどの尊重の表明があれば、本項目については、評価されているものと考えられます。

 ②労働者の人権尊重へのコミットメント

  ・労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言:国際労働機関(ILO)の8つの条約(強制労働、児童労働、結社の自由・団結権、団体交渉権、差別を含む労働における基本的原則と権利)を支持・尊重し、特に、4つの中核的な基本原則(差別、強制労働、児童労働、結社の自由および団体交渉)を明確に支持している場合は、本項目において評価されているものと考えられます。低評価となった具体的な理由としては、結社の自由と団体交渉の権利については、「各国の法令に従って」尊重すると記載され、すべての文脈・地域で尊重することを約束しているかは不明のためと記載されているため、点数が伸びなかった会社がありました。また、労働者の人権尊重に関して「奨励するよう努める」にとどまるとして、義務づけられているかどうか明確でない場合は、マイナス評価の対象となると考えられます。

  ・安全衛生と労働時間:労働者の健康と安全を尊重することを方針等に記載し、公表することおよび労働時間に関する労働基準に関するILO条約を尊重することを約束すること(または、労働者は通常の週48時間または残業を含む60時間以上働かせてはならず、すべての残業は合意の上で割増料金を支払わなければならない)を公表している場合には、本項目において評価されているものと考えられます。しかし、公表した方針等において記載した事項が推奨事項にとどまる場合、労働者との正式な合意として公表していない場合は、低評価となると考えられます。

 ③特定事項に関する人権尊重へのコミットメント

  女性、子ども、先住民、少数民族、障害者、移民労働者とその家族などの少数派のグループに属する個人の人権を尊重することを公約し、そのビジネス関係を確保する場合は、本項目において評価されているものと考えられます。

  ・土地・天然資源・原住民の権利:本項目は、事業分野によって異なるグループに属する個人の人権を考慮する必要があります。事業分野に関連するガイドラインの枠組みに沿った内容でなく、サプライヤーに対して働きかけが行うような方針がない場合は、低評価となると考えられます。

  ・産業に関して脆弱な立場にある人々の権利:この分野で2点満点を取得しているFordにおいて、国際的な人権枠組みや憲章を尊重することを約束するのみならず、「女性のエンパワーメント原則」に署名し、また、サプライヤーに対しても多様性と女性の権利などを尊重することを期待することまで記載しているため、高評価となっていると考えられます。

 ④救済措置へのコミットメント

  自らが引き起こした、あるいは加担した個人、労働者、地域社会への悪影響を是正すること、特に司法機関などと協力し救済を受けることができるよう公表すること、さらに、サプライヤーと協力することを表明することが本項目において評価されているものと考えられます。この分野で2点満点を取得しているHewlett Packardにおいて、デューデリジェンスおよび救済を求めるメカニズムを記載し、約束するのみならず、サプライヤーとの協力について記載しているため、高評価となっていると考えられます。

 ⑤人権擁護者の権利尊重へのコミットメント

  人権擁護者の活動を阻害せず、支援することを公表することが本項目において評価されているものと考えられます。この分野で2点満点を取得しているHewlett Packardにおいて、「人権に関する方針」の中で、「当社の事業またはサプライチェーンにおいて、実際の危害を引き起こした場合、またはそれに関与した場合、代表者や人権擁護者と協力して、当社のアプローチを伝え、改善し、懸念を表明するための安全な環境を可能にすることを約束する」と記載しており、加えて、サプライヤーに対してもコミットメントを期待することまで期待しているため、高評価になっているものと考えられます。

(3)「取締役会レベルのアカウンタビリティ」への評価

 ①経営トップのコミットメント

  取締役または取締役会が、人権の尊重に関する特定のガバナンスの監視を任務としていることを示し、かつ、その取締役または取締役会の委員が人権に関する専門知識を有していることがポイントとしてあげられています。この際、人権がビジネスに重要である理由や、ビジネスにおいて直面する人権課題について、会社のコミットメントを、声明などを通じて明確に示すことが重要です。

  この項目において2点満点を獲得しているHewlett Packardにおいては、報告書において、人権、プライバシー、サステナビリティ、企業の社会的責任を含めた計画と戦略的な方針が示されていることや、取締役のスキルと資格として、性別や人種の平等の擁護などの社会経験が示されていること、CEOによる公的な場での現代奴隷の撲滅や社会、環境などの人権に関する企業の姿勢に関する発言がされていることなどが評価されています。

 ②取締役会の責任

  人権に関する戦略、方針、管理プロセスについて、取締役会または取締役会で議論し、定期的に見直すためのプロセスを説明していること、これまでに議論された人権問題の具体例または傾向を示すことがポイントとしてあげられています。この際、ステークホルダーや外部の人権専門家の経験がどのように反映されたかを示すことが重要です。

  この項目において2点満点を獲得しているUnileverにおいては、サステナビリティに関する計画の進捗管理が事業計画に組み込まれており、四半期に一度、取締役会で適切に監督されていることが評価されています。

 ③インセンティブと業績管理

  ここでは、少なくとも1名の取締役が、会社の人権方針に関するコミットメントや戦略と連動したインセンティブ制度や業績管理制度を有していることがポイントとなっており、同じくステークホルダーや外部の人権専門家の経験が、これらの議論にどのように反映されたかが重要となっています。

  この項目で唯一ポイントを獲得しているUnileverでは、CEOのインセンティブプログラムにおいて、「Unileverサステナビリティ推進指標」に対するパフォーマンスを取り入れており、サステナビリティ推進指標が評価の25%を占めている点が評価されています。

 ④ビジネスモデル戦略とリスク

  ここでは、人権リスクに対するビジネスモデルや戦略を、取締役会または取締役会で討議・検討するプロセスを説明していること、あるいは、ビジネスモデルや戦略、人権への潜在的影響を検討する頻度ときっかけを説明していることがポイントとなります。また、議論の結果決定されたアクションの例を提示していることが重要です。

  この項目で唯一ポイントを獲得しているキリンでは、代表取締役CEOが委員長を務めるCSV委員会において、方針と戦略だけでなくアクションプランを計画し、その遂行をモニタリングしていること、また、委員会での議論内容が執行役会、取締役会において議論され、反映されることなどがホームページ上で示されていることが評価されています。

4.まとめ

 人権方針は、最終的には企業文化として取り入れられ、実践されるものでなければなりません。そのため、この記事で取り入れた要素のすべてを取り入れなければならないというものではなく、企業理念を踏まえた、その延長にあるものであるべきということが言えるでしょう。

 他方で、国際的に求められている人権尊重へのコミットメントや、それを実践に移すためにサプライヤーなどに対する人権尊重への期待を明確にし、取締役会をはじめとする経営層がこれに対するコミットメントを示すなど、実践していくことを意識した規定が必要であると思われます。その際、この記事で取り上げたWBAなどの評価機関などによって評価されている取組を参考にすることは、非常に有益であると思われます。

 各企業におかれましても、このような他社の取組みを参考にしながら、自社にあった人権方針を検討していただければと存じます。

以 上

 

[1] 国際連合人権高等弁務官事務所(OHCHR)「人権尊重についての企業の責任-解釈の手引き-問18参照