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マレーシアにおける調停手続き について

2023年03月13日(月)

マレーシアにおける調停手続き についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

マレーシアにおける調停手続き

 

マレーシアにおける調停手続き

2023年3月
One Asia Lawyers Group
マレーシア担当
日本法弁護士   橋本  有輝
マレーシア法弁護士  Najad Zulkipli

1.はじめに

 今回は、マレーシアにおける調停を紹介する。

 日本で「調停」と聞くと離婚や相続といったイメージを持つかもしれないが、マレーシアでは、調停は、裁判外紛争解決手続(ADR)の一つとして知られている枠組みであり、未払いの金員に関する紛争の解決にも積極的に利用されている。

 この記事では、調停による債務整理の流れ、準拠法、スケジュールの目安、それにかかる費用について紹介する。

2.マレーシアにおける調停法 

(1)調停とは何か?

 Mediation Act 2012(以下、2012年調停法)の第3条は、「調停」を定義しており、「調停者が当事者間のコミュニケーションと交渉を促進し、当事者が紛争に関する合意に達するのを支援する任意のプロセス」を意味するものとされている。中立的な立場で、訓練を受けた、紛争の主題に関する専門家の支援を受けながら、当事者は調停者を通じて問題を話し合うことができる。債権債務に関する調停であれば、当事者は、実際の財務状況等に基づいて、和解を実行するための最善の方法について話し合うことができる。

 また、調停は当事者の申立てに基づいて開始することが一般的ではあるが、裁判所の勧告に基づき実施される場合もある。当事者が訴訟手続を開始しているにもかかわらず、裁判所は、調停によって問題を解決できると判断した場合、調停によって解決するよう当事者に勧告します。このようなプロセスをCourt Facilitated Mediationと呼ぶ。この点は、日本でも同様の訴訟指揮がなされることがあるので似ていると言える。

(2)調停に関する法律について

 マレーシアにおける調停のプロセスを規定する主要な法律は、Mediation Act 2019(以下2019年調停法)である。以下、主要な条項を概観する。

 ・第5条(調停の開始要件):人は、紛争がある相手方に対して、紛争事項を明記した調停に関する招待状(a written invitation)を送付することによってのみ、調停手続を開始することができると規定されている。その後、受取人が当該招待状に対して、問題を解決するために調停を使用することに同意した時点で、調停手続が開始されたとみなされる。

 ・第6条(調停合意の必要性):調停に参加する当事者は、調停に問題を提出する合意、調停者の任命、当事者が負担する費用、および当事者が適切と考えるその他の条件を含む、書面による調停合意を締結しなければならない。

 ・第7条(調停委員の資格):調停委員を任命するための要件として、関連する資格、調停に関する特別な知識または経験を有すること、調停センターの規則を満たす必要がある。

 ・第11条(調停の方法):調停の実施について規定されており、調停は、当事者が一緒に、または別々に、非公開で実施されなければならない。さらに、当事者は、調停者の同意を得た上で、当事者を支援するために、当事者以外の者を選んで参加することができる。

(3)メディエーション・センター

 日本と異なり、マレーシアでは、当事者間の合意がない限り、調停を行うために従うべき特定の規則が存在せず、メディエーション・センター(Mediation center)と呼ばれる機関が独自にルールを定めている。当事者が特定のメディエーション・センターで調停を行うことに合意した場合、そのメディエーション・センターのルールに従うことになる。

 メディエーション・センターは、AIAC調停規則(AIAC Mediation Rule)を使用するアジア国際仲裁センター(AIAC)と、独自の規則を使用するマレーシア調停センター(MMC)が知られている。MMCは、マレーシアの首都クアラルンプールにあるマレーシア弁護士会の後援のもとに設立された機関である。MMCは、国内だけでなく国際的なレベルの紛争を解決するための調停サービスを提供しています。MMCの定める調停に関する主要な規定は以下の通りである。

 ・調停人の選任 – 2012年調停法に加え、MMCで行われる調停は、MMCの定める規則、倫理規定(「MMC規則」)に従わなければならない。MMCルールに基づき、MMCは、パネル上の調停者のリストを転送し、当事者が7日以内にMMCのパネル上の調停者に合意しなかった場合、MMCは、MMCのパネル上の者を調停者として任命するものとします。

 ・守秘義務 – 開示された情報および表明された見解を含む、調停で行われたすべてのコミュニケーションは、他の手続きにおいて議論の根拠として使用されないものとされている。例えば、債権者と債務者の間で行われる調停手続きにおいて、債務者がある未払い金の存在を認めたという事実があったとしても、債権者は、訴訟において、「債務者はこの債務については認めていた」と主張することは許されないということになる。こうすることで、調停における双方の忌憚のない意見交換を促進することを企図している。

 ・記録化されない‐速記録、議事録等の視聴覚記録は行われない。

 ・調停人の費用 – MMCが随時定めるものであり、当事者が別途合意しない限り、当事者が等しく負担するものとされている。

3.調停のプロセスフロー

 調停がどのように行われるかをさらに理解するために、調停手続きのステップを以下に示した。とはいえ、後記4に記載する通り、仲裁等と比べても手続きのルールは大まかなものに留まる。

 ・ステップ1当事者が調停に参加することに同意する。裁判所が仲介する調停では、調停に同意するための同意書を記入する。

 ・ステップ2協議プロセスは柔軟で、通常、調停委員のオープニングステートメント(調停の手続き、調停委員の立場、その他上記ルール等の説明)で始まり、各当事者は自分の意見を表明し、その後、各当事者が意図する和解条件を交換するために、個別に協議する。

 ・ステップ3調停委員は、各当事者による和解条件を検討し、各当事者の利益を収容するためのアイデアや提案を策定する。調停委員は、合意が得られるまで、両当事者に別々にアイデアや提案を行ったり来たりする方法を用いる。

 ・ステップ4協議の後、当事者が合意に達したら、調停委員はセッションの最後に要約を書き、両当事者に署名してもらう。これによって、和解合意がなされ、法的にも有効となる。もし、当事者が円満にて相互の合意に達しない場合は、調停委員は、当事者が別の調停期日に進んで話し合うか否かの確認を行う。

 4.調停と仲裁の違いについて

 以下では、調停と仲裁の違いについて言及する。

 命令の発行がない仲裁とは対照的に、調停委員が命令を発行することはない。その代わり、調停委員の役割は、当事者が和解に至るのを支援することのみである。仲裁の場合、命令が出され、裁判所の決定が認められたかのように当事者を拘束することになる。

 調停委員には決定権がない調停の結果を決定する権限は当事者にあるため、調停委員には決定を下す権限がない。仲裁では、仲裁人は当事者の同意がなくても決定を下す権限を持つのと対照的である。

 インフォーマルなセッション調停はあまり正式ではなく、より柔軟な設定で議論を行うものである。当事者が同じ目的、すなわち和解に達することを目的としているため、より友好的なものとなることが予定されている。仲裁は、正式な手続きであるため、仲裁人は仲裁を規律する特定のルールを指定する必要がある。

5.結論

 以上見てきた通り、当事者は、調停の助けを借りて、債権債務の問題を解決するための最良の実用的な解決方法を議論することができる。調停委員は両当事者にとって公平な提案をするよう訓練されているため、当事者は、自らのアイデアのみならず、高度な訓練を受けた調停委員を通して、アイデアや提案を検討することができる。また、柔軟性があり、手配が簡単で、すぐに結論を出すことができるなどの利点もあり、調停はより好ましいものとなっている。

 以上が、マレーシアにおける紛争解決の選択肢の検討の一助になれば幸いです。