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オーストラリアにおける再エネ事業のEPC契約について

2023年03月14日(火)

オーストラリアにおける再エネ事業のEPC契約についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリア:再エネ事業のEPC契約

 

オーストラリア:再エネ事業のEPC契約

2023年3月吉日
One Asia Lawyers Group
オーストラリア・ニュージーランドチーム

1.はじめに

 再生可能エネルギープロジェクトの開発において、信頼性が高く費用対効果の高い方法を模索している企業にとって、EPC(設計・調達・建設)契約は、プロジェクトの納品に不可欠な法的手段といえます。EPC契約では、企業は設計、調達、建設の全プロセスを、プロジェクトの全側面を担当する単一のコントラクターに委託することができます。この種の契約は、プロジェクトに関連するリスク、コスト、期間を削減するのに役立ち、再生可能エネルギー分野が国際的に成長し続ける中、ますます重要となっています。EPC契約の詳細を理解することは、関係者全員が同じ見解を持ち、プロジェクトを時間通り、予算通りに完了させるために重要です。

 本稿では、EPC契約の主要な要素に加え、この法的手段を用いて効果的に交渉、管理、プロジェクトを遂行する方法について検討します。

 2.EPC契約活用の主なメリット

 上述のように、再生可能エネルギープロジェクトでEPC契約を利用する主なメリットは、複数の請負業者を管理する必要がないため、プロジェクトの主体者(プリンシパル)のリスクプロファイルが本質的に軽減されることです。

 一般的に、経験豊富で評判の良いEPC契約の主請負業者(EPCコントラクター)は、プロジェクトに精通しており、潜在的なリスクやコスト上昇を管理することができます。重要なことに、EPCコントラクターは、プロジェクトがすべての適用される法律、業界規制および標準に準拠していることを保証する責任を負います。

3.EPC契約における重要規定

 EPC契約には、通常、以下のような重要な要素や条項が含まれます。

単独責任

 EPC契約において、通常、成果物に対する責任は、EPCコントラクターが単独で負うことが一般的であり、したがって、プロジェクトに起因するあらゆる問題に対して責任を負います。その結果、プリンシパルは、瑕疵およびその是正、または何らかの金銭的補償を受ける権利を有します。EPCコントラクターが複数のステークホルダーからなるコンソーシアムで構成されている場合、各当事者は通常、事業主に対して連帯して責任を負います。

価格の固定

 EPC契約に基づく役務は、通常、変更の難しい固定価格の条件下で提供されることから、EPCコントラクターはコスト上昇のリスクを負わなければなりません。一方で、状況によっては、プリンシパルが完成までの遅延を引き起こし、または作業範囲を変更した場合等においては、EPCコントラクターは追加費用を請求することが可能です。支払いタームは、一括払いか、成果物に対する一括払い、またはマイルストーンごとの支払いかのどちらかで構成されます。

完了日の設定

 プロジェクトの完了日は、固定された日付け、またはEPC契約の開始日を起算とした一定期間です。 契約に基づき定められた期間内に完了しなかった場合は、EPCコントラクターには予め合意された損害賠償額(Liquidated Damages)の支払いが求められます。

履行保証金

 ほとんどのEPC契約では、EPCコントラクターが契約上の義務を果たさない場合を想定した、履行保証(Performance Bond)を提供することが要求されます。履行保証は通常、親会社による保証、銀行による保証、留保保証、または前払い保証の形をとります。

履行保証義務

 EPC契約には、履行保証義務が(Performance Guarantees)が規定されることが多く、義務の履行を怠たり、またはプリンシパルの要件を満たさない場合に、Liquidated Damagesの支払いが求められます。

引き渡し、検査、試運転

 EPCコントラクターの責任、検査および試運転は、作業の一部を構成し、プロジェクトの引渡しおよび完成に先立ち行われます。これらの義務に関連する条項にて、いつプロジェクトが引き渡され完了とみなされるかが詳細に規定されます。

責任制限

 責任制限条項とは、EPCコントラクター の責任を契約金額の所定の金額または割合まで制限する規定です。責任の上限は様々ですが、契約金額の100%までとするのが一般的です。

下請けの雇用

 EPC契約では、EPCコントラクターの作業の一部を第三者に下請けさせることが可能となっています。EPCコントラクターは、通常、下請け業者の雇用に関して事前にプリンシパルへ通知し、その承認を得ることが要求されます。

紛争解決および準拠法

 紛争解決条項は、紛争解決の手段や、当事者が紛争解決のために従うべき手続きを定めるものです。紛争解決方法として仲裁を規定するのが一般的であり、数ある仲裁地の中でも、特にシンガポール国際仲裁センター(SIAC)規則に従いシンガポールで仲裁を行うことが選択される場合が多いです。

 準拠法条項は、契約の解釈および発生した紛争が処理される準拠法および裁判管轄を規定するものです。異なる法域の当事者が関与するクロスボーダー取引では、この条項が非常に重要となります。

4.信頼できるEPCコントラクターの選定

 EPCコントラクターの選定にあたっては、必要な管轄区域で同様のプロジェクトの建設経験が豊富なコントラクターを探すことが重要です。そのためには、コントラクターの経歴や評判を調査し、リファレンスを確認し、複数のコントラクターに見積もりを依頼するなどの方法があります。

 具体的には、コントラクターの経歴を調べる際には、再生可能エネルギー業界における経験や、プロジェクトを予算内で完了させた実績を調べることが重要です。また、過去の顧客からの紹介を確認し、業者のサービスレベルを把握することも重要です。

 複数の業者に見積もりを依頼する場合、契約に含まれていない追加コストが発生しないことを確認するため、見積もりに契約書に記載されているすべての要素が含まれていることを確認することが重要となります。

5.EPC契約の交渉

 コントラクターが決まった後、全関係当事者にとって公平なEPC契約を交渉することが重要です。契約交渉の際には、その業務範囲および上述の契約要素に留意する必要があります。

 業務範囲の交渉では、コントラクターが担当する業務が明確に定義されているか、および成果物が明確に示されているかを確認することが重要といえます。また、費用面の交渉、およびコントラクターが役務に対して過大な費用を請求できるような条項が契約内に埋もれていないかの確認も必要です。さらに、プロジェクトが期限内に完了するように、タイムラインについても交渉する必要があります。最後に、コントラクターがプロジェクトに関連する潜在的なリスクを軽減するために必要なすべての手順を踏んでいることを確保するため、リスクマネジメントの要件についても交渉することが重要といえます。

6.EPC契約における契約管理戦略

 EPC契約の交渉が終わり締結に至った後は、プロジェクトを成功させるために、リスク軽減策を実施することが重要です。最も重要なリスク軽減策は、コントラクターがプロジェクトに精通し、潜在的なリスクを管理できるようにすることです。このためには、コントラクターへプロジェクトの詳細な仕様や計画、定期的なプロジェクトの最新情報を提供することが有効です。

 コントラクターにプロジェクトの詳細情報を提供することに加えて、プロジェクトが適用されるすべての法律、規制、および標準に準拠していることを確認することも重要です。これは、経験豊富なリーガル・チームと協力して契約書をレビューし、すべての条項が適用される法律に準拠していることを確認することで実現可能となります。

 最後に、コントラクターの履行状況をモニタリングするシステムを導入することも重要です。これは、コントラクターとの定期的な協議の場を設定し、コントラクターがプロジェクトのすべての要件を満たしていることを確認するために、プロジェクトの監査を実施することによって行うことが可能です。

7.おわりに

 再生可能エネルギー業界では、プロジェクトに伴うリスクおよびコストを軽減する方法として、EPC契約の普及が進んでいます。EPC契約の主要な要素や法的条件を理解することは、プロジェクトを成功させるために重要です。さらに、EPCコントラクターがプロジェクトのすべての要件を満たしていることを確保するために、契約を有効に管理するシステムを導入することが重要です。このような手順を踏むことは、企業が、再生可能エネルギープロジェクトを、リスクヘッジしながらも、予定通りかつ予算内に確実に完成させるために不可欠といえます。