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マレーシアにおける従業員の不祥事への対応について

2023年04月13日(木)

マレーシアにおける従業員の不祥事への対応についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

マレーシアにおける従業員の不祥事への対応について

 

マレーシアにおける従業員の不祥事への対応について

2023年4月
One Asia Lawyers Group
マレーシア担当
日本法弁護士   橋本  有輝
マレーシア法弁護士  Najad Zulkipli

1.対応を要する不祥事

 日本に本社を置く会社が東南アジア等の国外に子会社を持つ場合の典型的な相談事項が、子会社従業員による不祥事・不正行為対応である。

 マレーシアの法律は、従業員による不正行為に相当するものを明示的には解釈していない。ただし、Employment Act 1955(以下「雇用法」)の第14条1項では、正当な調査(due inquiry)が行われた後、その行為が従業員の明示的または黙示的な労働条件と矛盾する場合、当該行為が解雇の理由となり得ることが示されている。

 さらに、実際には、会社の方針に反し、一般的に雇用者の経営、評判、資産に害や損害を与える様々な行為や振る舞いがあり得るため、不正行為と呼べるものの範囲はより広くなる。無断欠勤、遅刻、会社の財産の不正使用といった軽微な不正行為から、暴力、セクハラ、賄賂、詐欺といった重大な不正行為まで、いずれも懲戒処分の対象となる。本項では、広く懲戒処分の対象となり得る行為を不正行為と呼ぶこととする。

 しかし、この点、法律は一般的に従業員の権利を保護する方向にあるため、雇用主は、上記のように、正当な調査プロセスが実施された後でなければ、懲戒処分を行うことができない。この正当な調査が何を意味するかについては雇用法では定義されていないが、マレーシアでは、上記雇用法14条1項に則した一連の対応を社内調査(domestic inquiry session)と呼ぶことが多い。

 そこで、本稿では、社内調査の法的要件と、どのような社内調査を行う必要があるのかについて解説する。

2.社内調査

(1)社内調査とは?

 社内調査とは、雇用主が従業員の不正行為を調査するために使用する法的手続きである。マレーシアの法令では、社内調査を行うための指針は示されていないため、社内調査の妥当性や公平性は、判例に基づくルールに基づいて評価されることになる。

 社内調査の目的は、告発された従業員に対し、疑惑に対する弁明する機会を提供し、雇用主が取る懲戒処分が公正かつ合理的であることを確認することである。

また、このプロセスでは、証拠の収集、証人や告発された従業員との面接の実施および会社が行った調査の結果に基づいて決定を下すことになる。

 このプロセスは、内部的に行われるものであるため、調査は、より高いランクの会社代表者、または公平で独立した、告発された従業員や不祥事に直接または間接的に関連するいかなる要素も持っていないとみなされる任意の個人を含むパネルによって内部的に行われなければならない。

(2)法的要求事項

 Industrial Relations Act 1967(労使関係法)20条1項は、雇用主から正当な理由なく解雇されたと考える従業員は、みなし解雇を主張し、マレーシアの人的資源省に対して、元の職場に復職するよう文書で申し入れることができるとしている。

 従って、社内調査は、雇用主が従業員に対して懲戒処分を行う正当な理由を立証するための重要な要素であり、この立証に成功して初めて懲戒処分は法律上合法とみなされる可能性が見いだせる。しかし、雇用主が社内調査としての適切な手続きを踏まなかった場合、従業員は懲戒処分に異議を唱え、当該手続き後に雇用が終了した場合には正当な理由のない解雇があったことを主張する根拠を持つことにつながる。

(3)推奨されるプロセス

 マレーシアの判例に基づき、有効かつ公正な社内調査のプロセスは、以下のステップを含むべきであるとされている:

 ①審尋の通知:対象従業員には、審尋の日時、場所、および調査対象時効を含む事前の書面通知を行う必要がある。

 ②調査パネル(以下、日本語の語感に合わせて「調査委員会」という)の選定:通常、上級従業員または中立的な第三者である調査委員会が、調査を実施するために選択されるべきであるとされている。調査委員会は、公平であるべきであり、調査結果に個人的な利害関係を持つべきではない。

 ③証拠収集:調査委員会は、従業員、目撃者、関連する文書や記録など、すべての関連当事者から証拠を収集する必要がある。

 ④ヒアリングを実施する:従業員には、呼び出したい証拠や証人を含め、自分のケースを説明する機会が与えられる必要がある。また、調査委員会は、雇用主が自らの立場を支持するために他の事例を提示したり、証人を呼んだりすることを認めるべきである。

 ⑤決定:調査委員会は、調査中に提示された証拠に基づき、決定を下すべきである。決定は、決定の理由とともに書面で従業員と雇用者の双方に通知されるべきである。

 ⑥不服申立て:従業員が決定に満足しない場合、決定に異議を申し立てる権利が与えられるべきである。産業裁判所に提訴された場合、その決定が不合理なものであったり、上記のステップを踏んでおらず社内での調査が不当または無効となることにつながるものでない限り、一般的に裁判所は会社の方針に基づいて行われた決定に干渉することはない。

 上記とは別に、社内調査のプロセスは、聴取される権利、申し立てについて知らされる権利、公正かつ公平な審理を受ける権利など、自然正義の原則に従って行われるべきであることに留意する必要がある。

3.雇用主の取るべき対応

(1)事前対応:会社における枠組みの整備及び実施

 雇用主は、不正行為の種類、懲戒手続き、取られる可能性のある措置について明確に記載した規程(多くはHandbookであろう。例えば、Seriousな不正行為と軽微なそれを区別して記載したうえ、その後の社内調査の在り方にも濃淡を設けるといった工夫があり得る)を予め備えた上、これを実施することが推奨される

 企業内に明確で包括的な枠組みがあれば、雇用者と被雇用者の双方が雇用関係における権利と責任について明確に理解することができ、また、規程の意味・解釈をめぐる誤解やそれに伴う法的問題のリスクを軽減することにもつながる。

(2)事後対応:雇用法に関する専門家への相談

 いざ不正行為が発覚した場合、企業は、社内調査のプロセスについて弁護士に相談することが推奨される。社内調査のプロセスは複雑で、法的な問題を含んでいる可能性がある。弁護士は、関連する法令及び会社の規程を遵守しながら、公正で有効な調査を行う方法について貴重なガイダンスを提供することが可能である。

 弁護士は、雇用主が社内調査プロセスにおける法的義務を理解し、社内調査プロセスが会社の雇用方針および手続き、ならびに適用される法律または雇用契約または契約と一致する方法で実施されるように支援することができる。

4.結論

 従業員は、企業にとって貴重な資産です。事業戦略を実行し、目標を達成し、成長を促進する責任を負う、組織の基幹となる存在です。従業員は、さまざまなスキル、知識、経験を職場にもたらし、その貢献は企業の成功に不可欠です。

 しかし、従業員が不祥事を起こした場合、会社の評判を下げたり、会社に損失を与えたり、法的責任を負わせたりする可能性があります。そのため、雇用主が懲戒問題をどのように管理するかという枠組みを含む強力なコンプライアンスの枠組みを持つことは、雇用主が雇用問題をより効果的に、よりリスクなく管理するのに役立ちます。

 当事務所は、雇用主の事業内容に応じた雇用形態の構築、包括的な雇用条件を含む雇用契約書の作成から、合法的かつ有効な社内照会手続きのアドバイスに至るまで、雇用関連事項のアドバイスに豊富な経験を有しています。私たちのサービスをご希望の方は、お気軽にお問い合わせください。