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日本における改正民事訴訟法の一部施行の概要について

2023年04月13日(木)

日本における改正民事訴訟法の一部施行の概要についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

改正民事訴訟法の一部施行の概要

 

改正民事訴訟法一部施行の概要

2023年4月13日
One Asia Lawyers 東京事務所
弁護士 松宮浩典

 2022年5月号で取り上げた「民事訴訟法等の一部を改正する法律案[1]」(令和4年法律第48号。以下「改正法」といいます)は、2022年5月18日に成立し、同月25日に公布されました。

本改正法は、公布後4年以内(令和7年度)までの間に段階的に施行される予定であり、今般一部施行されました。

1 概要

 本改正法における主な改正点[2]は、次の5点になります。

 ①住所、氏名等の秘匿制度の創設
 ②ウェブ会議等を利用した弁論準備手続と和解期日に参加する仕組みの見直し
 ③ウェブ会議を利用して口頭弁論期日に参加することが可能となる仕組み
 ④人事訴訟・家事調停におけるウェブ会議を利用した離婚・離縁の和解・調停の成立等
 ⑤オンライン提出、訴訟記録の電子化、法廷審理期間訴訟手続の創設等

 本ニューズレターでは、①住所、氏名等の秘匿制度の創設(本年2月20日施行)、②ウェブ会議等を利用した弁論準備手続と和解期日に参加する仕組みの見直し(同年3月1日施行)について解説いたします。

2 住所、氏名等の秘匿制度の創設

 改正前の民事訴訟法では、訴状には、原告の住所・氏名等を記載する必要があり、また、原則として誰でも訴訟記録の閲覧が可能であり、当事者に対して訴訟記録の閲覧を制限することを認める規定はありませんでした。それゆえ性犯罪やDVの被害者が、加害者に自己の住所等を知られることをおそれ、訴えの提起を躊躇するおそれがあることが指摘されていました。

 そこで改正法では、一定の要件にて当事者等の氏名・住所等を訴状等に記載しないことなどを可能とする秘匿決定の制度が創設されました(改正法第133条)。本制度の対象となる情報及び要件については、下記のとおりです。

対象となる情報

(改正法第133条1項)

申立て等をする者又はその法定代理人の住所等又は氏名等。

 

l  「申立て等をする者」

(例)原告、被告、当事者参加人、補助参加人

l  「法定代理人」

(例)親権者

l  「住所等」…住所、居所その他その通常所在する場所

(例)職場

l  「氏名等」…氏名その他当該者を特定するに足りる事項

(例)本籍

要件

(改正法第133条1項)

住所等又は氏名等が当事者に知られることにより、申立人等が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあること。

 

 本制度を利用する場合、申立人等は秘匿決定の申立てを行い、秘匿すべき事項の内容を記載した書面を届け出る必要があります(改正法第133条2項)。上記要件が認められる場合に、裁判所より秘匿決定がなされ、以下の3つの事項が可能となります。

 ①秘匿決定において定めた住所又氏名の代替事項を記載すれば、真の住所又は氏名の記載は不要(改正法第133条5項)

 ②他の当事者等による秘匿事項届出書面の閲覧等は制限される(改正法第133条の2第1項)

 ③訴訟記録中の他の秘匿事項・推知事項の記載部分の閲覧等の制限申立て・決定が可能(改正法第133条の2第2項)

3 ウェブ会議等を利用した弁論準備手続と和解期日に参加する仕組みの見直し

 改正前の民事訴訟法では、民事訴訟の弁論準備手続についてウェブ会議や電話会議を利用するためには、当事者が「遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるとき」に該当し、当事者のどちらか一方は裁判所に現実に出頭する必要がありました(改正前法第170条3項、民事訴訟規則第96条1項)。

 本改正により、弁論準備手続におけるウェブ会議等の利用について、遠隔地要件は廃止され、「相当と認めるとき」との要件に改められました。また、当事者双方がウェブ会議等を利用して出席することが可能とされました(改正法第170条3項)。同様に、和解期日についても新たにウェブ会議等を利用して当事者が出席することが可能となりました(改正法第89条2項)。

 今後、ウェブ会議による口頭弁論期日への参加(令和6年5月25日までに施行予定)、人事訴訟・家事調停におけるウェブ会議を利用した離婚・離縁の和解・調停の成立(令和7年5月25日までに施行予定)、オンラインによる訴え提起や書面提出等を可能とする制度(令和8年5月25日までに施行予定)の導入についても予定されており、民事訴訟制度の全体的なIT化が進められていく予定です。

以上

[1] 法務省「民事訴訟法等の一部を改正する法律案」新旧対照条文

[2] 法務省「改正の概要」