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オーストラリアにおけるAML/CTF規制の留意点と規制改正の動向について

2023年05月12日(金)

オーストラリアにおけるAML/CTF規制の留意点と規制改正の動向についてニュースレターを発行いたしました。
PDF版は以下からご確認ください。

オーストラリア:AML/CTF規制の留意点と規制改正の動向

 

オーストラリア:AML/CTF規制の留意点と規制改正の動向

2023年5月吉日
One Asia Lawyers
オーストラリア・ニュージーランドチーム

1.はじめに

 オーストラリアにおける反資金洗浄・テロ資金供与に関する主な法令は、Anti-Money Laundering and Counter-Terrorism Financing Act 2006 (Cth)およびその下位規則であるAnti-Money Laundering and Counter-Terrorism Financing Rules Instrument 2007 (No. 1) (Cth)(以下、「本法令」)に定められています。

 本法令は、幅広く定義される指定役務(Designated Services)をオーストラリアにて提供する事業者に対し適用され、指定役務が資金洗浄・テロ資金供与へ利用されることの防止、およびそれらの目的での利用が疑われるトランザクションの特定のために、適用対象の事業者に対し様々な義務を課す内容となっています。

 2023年4月20日に、オーストラリア政府は、本法令の適用範囲の大幅な拡大を示唆する諮問書を発表しました(https://www.austrac.gov.au/consultation-commences-amlctf-reforms)。本諮問書への回答は、2023年6月16日まで受け付けられています。

 本稿では、現行の本法令において企業が特に留意すべき事項、および現在公表中の諮問書から示唆される今後の法改正の動向について紹介します。

2.適用対象

 本法令における義務は、本法令に定義される指定サービス(Designated Services)を提供し、オーストラリアと地理的つながりのある事業体(Reporting Entity)に適用されます。指定サービスの詳細については、包括的かつ複雑な定義が本法令の第6条にリストアップされています。指定サービスの大まかな分類は以下の通りです。

 ・金融サービス:銀行、保険、投資銀行、プライベートエクイティ、ファンドマネジメント、スーパーアニュエーション等の分野のサービスプロバイダー、国内またはオフショアの電子送金に参加する者等(通常はAFSLの保有者がこれに該当します)
 ・金銭または財産の移転を手配する事業を行うNon-Financierに該当する者、および他者が上記サービスを提供するためにプラットフォームを提供するNon-Financierに該当する者
 ・カストディアンまたはデポジトリーサービスの提供
 ・デジタル通貨交換業
 ・ギャンブルサービス
 ・その他AML/CTF規則に規定されるサービスの提供

 上記は一例であり網羅的なリストではありません。本法令における義務の適用有無の判断には、ケースバイケースで本法令に基づく定義や例外規定を分析する必要があります。

3.義務の概要

 本法令の適用を受ける企業は、主に以下の対応をとることが求められます。

AUSTRACへの登録

 指定サービスの提供または提供開始後28日以内にAustralian Transaction Reports and Analysis Centre(AUSTRAC)に登録することが求められます。また、登録内容に変更があった場合は、変更が生じた日から14日以内にAUSTRACに通知しなければなりません。

KYC

 本法令には、以下のような顧客の形態別に、企業が遵守しなければならない認証要件の詳細が定められています。

 ・個人
 ・企業
 ・信託
 ・パートナーシップ
 ・協会
 ・登録協同組合
 ・政府機関

 また、継続的に顧客のデューディリジェンスを実施する義務も存在します。なお企業は、後記に解説するAML/CTF プログラムに、取引監視プログラムおよび顧客デューデリジェンスの強化プログラムを盛り込むことが求められます。

報告義務

 本法令には様々な報告義務が定められています。

 まず、疑わしい取引があった場合に、社内での報告、および所定期間内にAUSTRACに対し報告を行うことが求められます。

 10,000豪ドル以上の送金を伴う取引については、取引実施前にAUSTRACに対し報告を行うことが求められます。

 また、国際的な資金移動指示(最低金額基準なし)、本法令のコンプライアンス状況、および金銭または物品の国境を越えた移動に関する報告義務があります。

AML/CTFプログラム

 本法令の適用を受けるすべての企業は、取締役会の承認したAML/CTFプログラムを採用し、維持することが求められます。AML/CTFプログラムには以下の3つの種類が存在します。

 ・標準的なプログラム
 ・共同プログラム
 ・特別プログラム(事業者が特定の指定サービスのみを提供する場合に適用)

 AML/CTFプログラムは、パートAとパートBから構成されます。

AML/CTFプログラムのパートAは、とくに以下の規定を含むことが求められます。

 ・リスクを特定し、軽減し、管理するためのシステム
 ・AML/CTFリスクの認識トレーニングプログラム
 ・従業員のデューディリジェンス・プログラム
 ・コンプライアンス・オフィサーの指名
 ・独立したレビュー機関の設置
 ・AUSTRACからの フィードバックを実施するための規定
 ・取引監視プログラム

 AML/CTFプログラムのパートBは、顧客の識別および確認手続きを詳述する内容です。

 AML/CTF プログラムは取締役会の承認を受けなければならず、取締役会は AML/CTF プログラムの監督責任を負います。

記録の保持

 関連する記録は7年間保存することが義務付けられています。

4.罰則

 本法令に違反した場合、企業に対して最高275万豪ドル、個人の場合は最高550万豪ドルの民事罰が科される可能性があります。また、刑事罰として、最高で10年の禁固刑または275万豪ドル、またはその両方が科される可能性があります。

 そのほか、AUSTRAC は、本法令に基づく広範な監視権限および執行措置の権限を有しています。正式な執行措置は公に記録されるため、企業のレピュテーションダメージは金銭的な罰則を上回る可能性があります。

5.法改正の動向

 冒頭で言及した通り、今後の法改正の動向として、2023年4月20日に、オーストラリア政府は、本法令の適用範囲の大幅な拡大を示唆する諮問書を発行しており、現在注目が高まっています。諮問書から示唆される今後の法改正は以下を含みます。

 ・AML/CTFプログラムのPart AおよびPart Bの一本化
 ・リスクの高いと判断させる顧客に対するKYC要件の強化
 ・暗号資産関連サービスへの適用の拡大:

 現在、本法令は、デジタル通貨交換業者がデジタル通貨と一般通貨(Fiat)の交換またはその逆を行う場合に規制しています。今後の法改正案では、デジタル通貨・暗号資産関連サービスの規制を拡大し、デジタル通貨間の交換、デジタル通貨の代理譲渡、保管または管理、デジタル通貨の提供および販売に関連する金融サービスの提供などを本法令の適用対象とする可能性があります。

 ・弁護士、会計士、不動産業、信託・会社関連サービス等への適用の拡大:

不動産の売買、顧客の金銭・証券・その他の資産の管理、口座の管理、会社の設立・運営・管理のための出資の組織化、法人または法的組織(信託など)の設立・運営・管理、事業体の売買に関する取引をクライアントのために準備または実施する場合に、弁護士や会計士に同法の適用が拡大される可能性があります。

 また、信託および会社管理に関するサービスプロバイダー(カンパニーセクレタリー、トラストまたはノミニーサービスなど)が含まれる可能性があります。

そのほか、不動産売買に関わる不動産業者や不動産開発業者も本法令の適用対象となる可能性があります。

6.おわりに

 オーストラリアのAML/CTF規制の適用範囲は幅広く、今後の法改正により更に適用範囲が拡大されるこよが予想されます。オーストラリアで事業を行う企業は、自社へのAML/CTF規制の適用の有無について把握し、適用を受ける場合に規制上の義務の履行について迅速に対応を進めることが重要といえます。