徴税手続における電子メールによる差押令状の送達について:フィリピン
徴税手続における電子メールによる差押令状の送達についてのニューズレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。
徴税手続における電子メールによる差押令状の送達について
2023年12月
日本法弁護士 難波 康明
フィリピン弁護士 大場 正己
フィリピン法弁護士 カインダイ・ジェネベス・ケイ
歳入規則(RR)第11-2023号
財務省(DOF)は、1997年内国歳入法(Tax Code)第208条に基づき、内国歳入庁(BIR)に対し、電子メールおよび電子署名を差押令状の追加送達手段として使用するためのガイドラインを定めたRR第11-2023号を発行した。
1.BIRの救済措置の概要–銀行口座の差し押さえ
BIRは税金の徴収を担当する機関として、税法により、裁判所の判決を経ることなく強制徴収する権限を有している。
そのような権限の中には、以下に引用する税法第208条に規定されているように、銀行口座を差し押さえる権限も含まれる。
「銀行口座の差押えは、納税者および銀行の頭取、支店長、会計係、その他の責任ある役員に差押令状を送達することによって行われる。差押令状を受け取った銀行は、政府の請求を満たすのに十分な額の銀行口座をコミッショナーに引き渡さなければならない。」
RR 第 11-2023 号で指摘されているように、上記の規定に従って差押令状を発行する従来の慣行は、物理的な送達、または関係する預託銀行への建設的/代替的手段[1] を通じたものであった。従って、銀行預金に対する差押令状の送達方法として電子メールを追加利用することは、BIRがより「迅速、効率的かつ効果的な方法」で税金を徴収できるようにすることを意図している。
2.電子メールによる差押令状送達のガイドライン
電子メールによる差押令状の送達に関し、BIRは以下の手順を遵守するものとする。
- 地域統括官、徴収業務担当補佐官(CS)、大口納税者サービス担当補佐官(LTS)、および大口納税者管区事務所長(LTDO)は、滞納納税者の預金に対して発行された差押令状 を発行し、電子署名を行う。
- 徴収部、売掛金監視部(ARMD)、LT-徴収執行部(LTCED)、および当該LTDO(総称して、「当該BIR事務所」)は、BIR事務所の公式電子メールアドレスを使用して、署名された差押令状を、該当する差押令状が送達・発行された納税者の納税義務の詳細を示すとともに、登録納税者の地域内の銀行本店および銀行支店に同時に送信・送達する。
- 銀行本店および銀行支店は、正式な電子メールアドレスがない場合は、登録されている当該BIR事務所に提供する必要がある。
- 差押令状の送達は、かかる電子メールが送信された時点、または、利用可能な場合は、差押令状の送達の電子通知が送信された時点で完了したものとみなされる。当該BIR事務局は、署名された差押令状の受領確認書を、関係銀行の権限を有する職員に要求することができる。
- 電子メールを送信したBIR職員または従業員は、送達の証明として、印刷された送信証明を添付した送達宣誓供述書を作成しなければならない。宣誓供述書は、電子メールで送信された署名入り差押令状の写しとともに、当該事案の訴訟事件記録表に添付されるものとする。
- 当該 BIR事務局は、関係銀行に対し、発行された差押令状を円滑かつ迅速に処理し、BIRの公式電子メールアドレスを介して返信を送付するよう要請する。その後直ちに、送達された差押令状のコピーを、確認受領書とともに、該当する場合は電子メールアドレスを通じて、また、書留郵便を通じて、統合納税システム(ITS)および/または内国歳入統合システム(IRIS)に登録されている住所宛に、当該滞納納税者に送付する。
- また、関係銀行からBIRに電子送信された情報に基づき、差押え可能額を徴収し、差押え中の納税者の預金に対応する管理者小切手を請求するために、関係銀行宛の電子メールで差押え額の請求書を送付し、取扱国税局長に許可書を発行する。
- 当該国税徴収官は、納税者の納税義務を支払う小切手を、納税者の事業所が所在する公認代理銀行に送金する。
3.留意点
BIRは、略式行政救済手段によって滞納税の徴収を追求することができるが、そのような権限に制限がないわけではなく、BIRは徴収の前に適正な手続を遵守しなければならない。
内国歳入庁長官対Pilipnas Shell Petroleum Corporationの最高裁判例において[2] 、有効な査定を伴わない略式行政救済によるBIRの徴税は「無効であり、効果がない」と断じている。従って、RR No.11-2023に従った差押令状の発行は、依然としてBIRにおける行政手続(すなわち査定)との関連で、その有効性を注視する必要がある。
[1] 当事者が登録住所にいない場合、または受領当事者が文書の受領を拒否した場合の送達方法を指す。これは一般的に、登録住所への郵送、または受領当事者が受領しなかったり受領を拒否した後に指定された人物や役員に文書を預けることによって行われる。
[2]2018年7月9日付G.R.第197945号。