電池用鉱物に投資する際に考慮すべき事項
電池用鉱物に投資する際に考慮すべき事項に関するニュースレターを発行いたしました。こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。
電池用鉱物に投資する際に考慮すべき事項
2024年2月
One Asia Lawyers Group
マシュー スターンズ
オブ・カウンセル
外国弁護士(カナダ・ケベック州法)
グリーン経済への移行が加速する中、リチウム、コバルト、銅、ニッケル、グラファイトといった電池用鉱物への信頼できるアクセスは、多くの企業にとってますます重要になっています。日本や他の先進国が、電池用鉱物のサプライチェーンを中国から、政治的な問題の少ない他の供給源に多様化しようとしている中、そのような鉱物の信頼できる供給源の確保は、今後ますます重要になるでしょう。本稿では、電池用鉱物を確保するための契約や取引関係を構築する際に、日本企業が考慮し、防御すべき法律上およびビジネス上の問題について見ていきます。
最初の疑問の一つは、どのような契約を結び、どのような投資を行うかということです。大まかに言えば、電池用鉱物への投資には3つのレベルがあります。具体的には、必要なものをオープンマーケットで購入する、サプライヤーと長期のオフテイク契約を結ぶ、長期のオフテイクを確保するためのパッケージの一部として鉱山会社に直接投資する、の3つであり、これらを説明していきます。
1.オープンマーケットでの購入
電池用鉱物をトレーダーから直接市場で購入することは、少量の原料購入の場合には良い選択肢となります。トレーダーからの価格は市場の変動に左右され、生産者から直接購入する製品よりも高いため、大規模生産には不経済です。銅やニッケルのような大口商品は、信頼できるトレーダーから購入すれば品質もそれなりに保証されるため、大きな問題にはなりません。一方、グラファイトのように、より個別で詳細な仕様が必要な品目は、スポット市場での購入が容易ではありません。
a. 制裁および倫理的な商行為の遵守
いずれにせよ、貿易業者から購入する場合は、制裁の問題を避けるため、原料の原産地証明を考慮することが重要です。日本、米国、EUを含む多くの国が、イラン、北朝鮮、ロシアなどの国に対して制裁体制をとっています。これらの制裁体制に抵触しないためには、最終製品の構成部品が制裁対象国のものでないことを証明する必要があります。鉱物資源は比較的代替可能であるため、制裁対象国の材料を物理的に簡単に特定できないことがよくあります。従って、制裁による罰則から保護するためには、売買契約に、売り手が材料の実際の出所を保証するか、最低限、制裁対象国からの材料でないことを保証する条項を盛り込むことが重要です。契約書には、この条項に違反した場合の適切な補償と罰則も盛り込む必要があります。
同様の問題は、サプライチェーンの基準でも生じます。多くの先進国では、自国内で事業を展開する企業に対し、サプライチェーンが倫理的な商慣習に準拠していることを保証するよう求める法律を制定しています。ごく最近の例としては、2024年1月1日に施行された、サプライチェーンにおける児童労働や強制労働の使用を禁止するカナダの法律が挙げられます。このような法律が日本企業に直接適用されることはないかもしれませんが、このような法律がある国のエンドユーザーに電池用鉱物を使用した部品やコンポーネントを供給する場合、この法律はエンドユーザーに適用されます。そのため、電池用鉱物の調達も含め、適切な倫理的なビジネス基準が遵守されていることを証明できることが重要となります。このため、サプライヤーが提供する鉱物が、児童労働、強制労働、その他国連条約違反に関与していないなど、倫理的な商慣習に準拠していることを購入契約に明記することは、優れた慣習であり、実際のビジネス上の利点となり得ます。
b. グリーン法における優遇措置の対象者
日本のメーカーに供給される鉱物が制裁措置や倫理的ビジネス法制の下で問題がないことを確認することの裏返しとして、材料や製品がグリーン法制、特に米国のインフレ削減法やEUのグリーン・ディールの下で優遇措置の対象となることを確認する必要があります。米国の法律では、消費者が補助金の対象となるためには、米国と自由貿易協定を結んでいる国で採掘または加工された電池用鉱物の割合が定められています。日本企業によって調達された電池用鉱物を使用した製品の最終的なエンドユーザーがこのような優遇措置の恩恵を受けられるようにするには、電池用鉱物が承認された国のものであることを確認する必要があります。前述したように、取引業者からのオープンマーケットでの購入では、鉱物の出所を証明する物理的な方法がないことが多いため、材料の出所に関する保証を含めることが重要です。
2.オフテイク契約
オフテイク契約は、鉱山または加工会社から鉱物を直接購入する長期契約です。通常、オフテイク契約の期間は3年から5年ですが、1年から鉱山の存続期間と同じくらい長い場合もあります。オフテイク契約は、合意された仕様の原料を年間一定量供給することと、市場の公式によって決定される価格を鉱山に約束させるものです。オフテイク契約は、トレーダーのような仲介業者を介さず、生産者と買い手の間で直接行われるため、経済的に有利な条件が得られます。しかし、オフテイク契約はプロジェクトの資金調達において重要な要素であることが多いため、オフテイク契約には、鉱山が安定したキャッシュフローを確保できるよう、買い手が毎年最低量の原料を購入することを義務付けるテイク・オア・ペイ条項が含まれていることがよくあります。
a. 品質と信頼性
電池用鉱物のオフテイク契約は、鉱物を採掘する企業と加工する企業の間で直接結ばれるため、パート1で特定された鉱物の原産地を保証するという問題はそれほど重要ではありません。しかし、この契約は買い手が1つのサプライヤーを約束する長期契約となるため、サプライヤーの品質と信頼性を確保することが特に重要になります。
品質については、製品仕様を定めるだけでなく、計量・分析手順を明確に定め、最低限、買い手がこれらの手順に立ち会う権利を持つ必要があります。バッテリー技術は急速に変化しているため、長期のオフテイク契約において考慮すべきもう一つの問題は、買い手が変化する市場の需要に合わせて鉱物の仕様をどのように変更できるかということです。これは買い手にとって重要な権利となり得ますが、売り手は将来の仕様が不明な原料の引き渡しに同意したくはないでしょう。
サプライヤーが契約した材料を納入できない場合、買い手のバッテリーやその他の最終製品の生産に大きな影響を与える可能性があります。ここで考慮すべき問題は、不可抗力条項の厳密な定義、生産が不足した場合の買い手の優先権の確保、納品不足を補う売り手の義務、不足した材料を供給するのか、売り手の費用負担で買い手に任せるのか、などがあります。サプライヤーが新規採掘プロジェクトである場合におけるさらなる問題は、生産が不安定になることが避けられない立ち上げ期間をどのように管理するかということです。
売主が適用されるすべての法律、特にすべてのESG要件を遵守して操業していることを確認することも、長期的なオフテイク契約における懸念事項です。これを怠ると、政府による措置や地元コミュニティによる封鎖やその他の行動により、工場が閉鎖される可能性があります。バイヤーはこれらの項目について直接的な責任を負うことはありませんが、その悪影響は非常に大きいため、サプライヤーの操業とコンプライアンスに自信を持つことが重要です。これは、適用されるすべての法律を遵守する約束や、買い手に毎年サステナビリティレポートを提供するなどの報告を通じて対処することができます。
b. 株式投資
オフテイク契約は一般的に、購入契約のみのものと、買い手が売り手のプロジェクトに株式投資するものの2種類に分けられます。オフテイク契約による出資は、通常、生産者がオフテイク契約を締結する条件として要求するものです。これは、電池用鉱物プロジェクトの資金調達の一般的な要素です。しかし、出資はオフテイカー(引き取り手・買い手)にとっても有益です。生産者の株式保有者である日本企業は、より良い経済条件での引き取りを主張することができます。また、株式保有者は、鉱物の市場を理解する上で有用な、本来は機密であるビジネス情報にもアクセスすることができます。さらに、投資前のデューデリジェンスの一環として、また生産者の取締役会の議席を得る可能性、あるいは少なくとも情報提供の権利を通じて、株式保有者は生産者の操業実績やESG要件の遵守を監督・監視しやすい立場になります。
3.結論
本書は、電池用鉱物へのアクセスを確保するために、日本企業が様々な種類の契約において考慮すべき非常に高いレベルの問題を示しています。もちろん、契約の種類、対象となる鉱物、関係する企業や国、その他多くの要因によって、具体的な内容は大きく異なります。OALの資源系プラクティスグループは、これらの懸念事項に対処し、これらの貴重な鉱物の信頼できる安全な供給源を確保するお手伝いをいたします。