オーストラリア:2024年労働法改正の見通し2
オーストラリアの2024年労働法改正の見通しに関するニュースレターを発行いたしました。前回のニューズレターの続編となります。また、こちらの内容は、以下のリンクよりPDF版でもご覧いただけます。
オーストラリア:2024年労働法改正の見通し2
2024年2月吉日
One Asia Lawyers Group
オーストラリア・ニュージーランドチーム
1.はじめに
前回のニュースレター(https://oneasia.legal/12124)にてご紹介した、オーストラリアの主要な労働法であるフェアワーク法[1]に関する「Closing Loopholes」改正法案第2弾[2]が、一部内容に変更を経て2024年2月12日に議会で可決されました。本稿では、その中でも特に重要と考えられる改正ポイントをピックアップしてご紹介いたします。
2.「Closing Loopholes」法改正第2弾
今回可決された第2弾の法改正は以下の点を含みます。
繋がらない権利(Right to Disconnect)
新たに従業員に対して、「繋がらない権利」が付与されます。これは、従業員が、勤務時間の外で雇用主または仕事に関連する第三者(顧客、サプライヤーなど)からの連絡を拒否できる権利です。ただし、拒否することが非合理的な場合を除きます。非合理的な拒否であったか否かは、連絡の理由、連絡の方法および従業員へもたらす妨害の程度、時間外勤務手当ての支給の程度、従業員の役職および責務、従業員の個人的事情(家族を介抱する責任など)を含む状況を総合的に考慮して判断されます。
なお本権利は、フェアワーク法の一般保護規定(General Protection Provisions)の保護の対象となる職場の権利(Workplace Right)に該当するため、本権利の行使等を理由に従業員に対し不利な扱いや措置を取ることは禁止されます。
カジュアル従業員の新定義およびEmployee Choice
カジュアル従業員の定義が変更となり、現行の定義である「firm advance commitment to continuing and indefinite work」が存在しないことについての判断要素として、契約書に記載されていることだけではなく、実際の雇用関係も考慮されるようになります。
また、6か月以上(雇用主が小規模事業者に該当する場合は12か月以上)勤務したカジュアル従業員は、自身がカジュアル従業員の定義に該当するか否かを示し、正社員としての雇用を求めることができるようになります(Employee Choice制度)。雇用主は、当該要求を受領後21日以内に所定事項を回答しなければなりません。雇用主が要求を拒否できる理由は限定的であり、公平かつ合理的な事業上の根拠がある場合に限定されます。公平かつ合理的な事業上の根拠があるか否かは、該当従業員を正社員とすることで組織内での仕事の組成に重大な変更を要するか否か、事業運営に重大な影響を与えるものであるか否かなどが判断の基準となります。なおこのEmployee Choice制度は、既存のCasual Conversion制度に取って代わるものです。
独立請負人(Independent Contractor)の雇用
本改正により、契約書に書かれている内容のみでなく、実際の関係等も、独立請負関係であるか(または雇用関係であるか)の判断に考慮される要素となります。最近の最高裁(High Court)の判例では、契約書に書かれていることが主要な判断要素であるとの見解が示されていましたが、本改正は当該見解を覆すものです。
移行期間の措置として、既存の独立請負人は、新たに導入される独立請負人高収入基準額(Contractor High Income Threshold)を満たす場合に、本規定の適用からオプト・アウトを選択することが可能とされています。
また、Contractor High Income Threshold以下の支払いを受ける独立請負人については、フェアワーク法に基づき当局フェアワーク委員会(Fair Work Commission)へ、契約書の不当な条項について異議を申し立てる権利が付与されます。
偽装請負(Sham Contracting)の請求に対する抗弁が変更され、抗弁するには、雇用主は当該関係が業務委託の性質であったという合理的な信条があったこと(Reasonable Belief)を示すことが求められます。
ギグワーカーおよび陸上運輸業者
従業員に類似する業務形態であるデジタル・プラットフォームの従事者および陸上運輸業者の支払い条件、労働時間、協議、保険などの事項に関して、Fair Work Commissionが新たに最低基準のガイドラインまたは命令を発行することが可能となります。また、労働組合とプラットフォーム運営社または陸上運輸業者との間で、集団労使協約を交渉することが許可されます。更に、不当解雇制度と類似する、不当に従事が終了された場合の申し立て制度が導入される予定です。
従業員に類似する事業者(Employee-like Worker)とは、交渉力が低いこと、労使裁定と同等またはそれよりも低い報酬を得ていること、業務履行についての権限が低いこと、その他下位規則に規定される要件の、いずれか2項目以上を満たす場合にこれに該当します。
最高罰則の引上げ
全国雇用基準(National Employment Standards)、労使裁定(Modern Award)、労使協定(Enterprise Agreement)、記録保持義務等違反、または偽装請負に対する最高罰則が、会社の場合$469,500、個人の場合$93,900に引き上げられます。これは現行の最高民事罰則の5倍の額に及びます。また、重大な違反(故意の場合)の最高罰則は、企業の場合にその10倍の$4,695,000(賃金の過少払いの場合は、過少払い額の3倍のいずれか大きい額)に引き上げられます。
3.おわりに
オーストラリアで様々な形態で人材を雇用する企業にとって、今回の法改正は重大な影響を与えるものと考えられます。カジュアル雇用や独立請負人として人材を雇用する企業は、新たな雇用法上の定義に基づいて雇用契約を見直し、従業員から請求があった場合に対処できるよう用意しておくことが推奨されます。また、上記の他にも、本法改正は、労働組合や労使協定の存在する企業および集団労使交渉の可能性のある企業にとって重要な法改正も含まれています。今後当局の発行するガイドラインや裁定、裁判での判決における本改正法の運用が注目されます。
[1] Fair Work Act 2009 (Cth)
[2] Fair Work Legislation Amendment (Closing Loopholes No 2) Bill 2023